第141話 スシウィズアサマーイブニングレイン③
前回のあらすじ:
鳥路英莉vs山本葵のスシバトルだ!
◆◆◆
山本家でまさかのスシバトル。対戦カードは鳥路さんと俺という歴代最強クラスの戦力差マッチ。
「えー、それでは、突発スシバトルを始めたいと思います。司会は私、山本輝理が」
「解説は山本舞がつとめまーす。何を解説したら良いかはわからないけどね」
輝理と母さんが適当にスシバトルを進行する。
「スシバトルは大体突発的だよ。そもそも二人ともスシバトルに詳しく無いだろ」
何だかんだ予定決めてやってる回数も多い気がするけど、どうにも唐突に始まる時の方が印象が強くて……
「寿司を握って美味しい方が勝つんでしょ? 知ってるって!」
「雑!」
そう大きくは違わないけどさ!
「ふふ……葵くん、ルールを決めて」
俺達のやり取りを見て微笑んでいた鳥路さんが俺にルールの決定を求める。
せめて鳥路さんの練習になるぐらいのスシバトルにはしたい。
「えー……速さと技術じゃ絶対敵わないし、そうなると味一本なんだよね」
冷凍のマグロとサーモンとヒラメ、俺が焼いただし巻き卵と市販のカニカマ。
魚介類は俺の包丁技術を考慮して事前に鳥路さんが寿司ネタ用に切り分けてくれている。だし巻き卵はまだ塊、カニカマはそのままだ。
「自分で作った寿司ネタが一番有利か……よし、じゃあ、玉子の寿司で! シンプルに美味しい方の勝ち!」
「わかった」
鳥路さんが頷く。
一か八かだ。だし巻きなら俺が味付けしているし、どうすればシャリに合うかも想像できる。
「では、お兄ちゃんと寿司屋のお姉ちゃんの玉子寿司のスシバトル! 始め!」
輝理の開始の合図、鳥路さんが先に動く。ああ、だし巻き卵を切り分けてくれるようだ。鳥路さんが半分に切っただし巻き卵の片割れを受け取り、寿司としての構成を想像する。
よく見る玉子の寿司は海苔が帯のように巻かれている奴だけど……シャリをだし巻きに挟んだだけみたいな奴もあったはず。
思案している間に鳥路さんが薄くだし巻き卵を切り……そのまま口に入れた。味を確かめているようだ。
「うん、美味しい」
鳥路さんの舌を満足させられて良かった……じゃなくて。どうしよう、奇をてらうやり方が通用するとは思えないし……シンプルに行こう。
だし巻き卵を寿司でよく見る厚さに切り、左手に乗せる。
右手を酢水で軽く洗い、余分な水分を払い、寿司桶の中のシャリを……少なめで良いんだっけ。確かこのぐらい。
少し強めに握りシャリ玉をしっかり形成し、玉子の上に乗せる。
……それっぽく、指で押さえつけても鳥路さんみたいにビシッと決まらないんだよなぁ……いや、真似するもんじゃない。手数が増えても良いから、しっかり崩れないように握り……
「あ、海苔を切ってない!」
凡ミス! 手が塞がってるし、一回対比させるか!?
どうするか悩んでいると、横からスッと良い感じのサイズで切られた海苔が差し出される。鳥路さん!
「必要そうだと思って」
「た、助かるよ!」
受け取った海苔を巻いて、一貫完成だ! わ、我ながら良い感じだぞ!
「鳥路選手、敵に塩を送るプレイ! 舐めプでしょうか! 恥ずかしく無いのか!? お兄ちゃん!」
輝理が俺を煽ってくる。
本気のスシバトルじゃないし、舐めプされても恥ずかしくもなんとも思わないけど……
「普通の玉子寿司が出てきましたね。葵選手、基本に忠実!」
母さんまで……山本家の女性は何かこう、ノリが変に良いんだよな……
俺も人の事言えない時あるけど。
「おっと、鳥路選手! これは……ぶ厚く無い?」
輝理が素に戻る。鳥路さんの手元を見ると、確かに俺が切った玉子の二倍ぐらいの厚さがある。流石にこれを寿司に乗せるとは思えないけど……
「なるほど……あれね」
「し、知っているのか、母さん!?」
「解説っぽい事を言いたかっただけよ」
騙された。ともかくこの厚さで鳥路さんはどうするんだ?
結構深く切れ目を入れて、開いて中央にシャリ玉を詰めて軽く握る……そのままシャリが隠れるぐらいに幅広く切ったノリでそれを巻く。そして、半分に切った。
山型の断面はちょっとおしゃれ。鳥路さんは再び同じ厚さで玉子を切る……
「見てる場合じゃない! 俺も二貫目握らないと!」
知らない形状の寿司が出てきた! スシバトル部と玉子寿司対決した時はあんな握り方してなかったのに!? 何か意味があるのかなぁ!?
動揺しながらも何とか二貫目を握り終わり、お皿の上に置く。
鳥路さんの方は半分に切っているので寿司が四つ並んでいる状態。
「出揃ったね! お母さん食べよ食べよ!」
「はいはい、先に葵の方から……」
司会と解説役を忘れ、輝理と母さんが俺の寿司を食べる。
どうだ? 不味くは無いはずだけど……
「うーん、玉子のお寿司。強いて言うならお兄ちゃんらしい寿司かな……」
どういう寿司だ妹よ。
「ちょっとシャリが硬い感じもするけど……美味しいわよ!」
母さんははっきりと悪い部分を指摘してくれた。
形崩れを恐れて強く握ったのが良くなかったか……やっぱ難しいよ、寿司!
「次は寿司のお姉ちゃんの奴! 見た目がもうオシャレ!」
「女子力……寿司力が高いって言うのかしらね?」
アウェイは俺だった? 男女比不利だし。
「でも、問題は味よね! いただきます!」
「そうね、いただきます」
輝理と母さんが鳥路さんの玉子寿司を食べる。
「だし巻き卵の風味がなんかこう、グッときてシャリがふわっとしてて……美味しい!」
「形が違うだけで、こうも風味が変わるのね……不思議だわ」
これはもう俺の負けだろ。
母さんと輝理が顔を見合わせて頷く。
「このスシバトル! 寿司屋のお姉ちゃんの勝ち!」
輝理の勝利宣言にパチパチと拍手する母さん。知ってた。
鳥路さんが右手を上げて勝利ポーズを取る。普段絶対しない奴!
「寿司のお姉ちゃん、ズバリ勝因は!?」
輝理がマイクを持っているような手で鳥路さんにインタビューする。
「……葵くんのだし巻き卵の出来が良かったので、シャリは添えるだけにした」
「だってお兄ちゃん!」
……鳥路さん! それってつまり!
「俺の勝ちって事では?」
「負けだよ」
「負けね」
「あ、はい」
輝理と母さんにはっきりと負けを言い渡される。
山本葵、スシバトルの成績は0勝1敗1引き分けです。
次は勝てるように頑張りたいと思います。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




