第140話 スシウィズアサマーイブニングレイン②
前回のあらすじ:
湯上がりの鳥路さんがロリータ系の服を着ていてヤバイ。
◆◆◆
多数決と俺の反論失敗により、山本家の台所に鳥路さんが立つ事になってしまった。鳥路さんが乗り気だから良いか……
「良い寿司桶ですね」
「お祝い事の時にたまーにしか使わないけどね」
鳥路さんと母さんが台所で会話しているのを見ていると不思議な気分になる。
……我が家の寿司桶が日の目を見るのはいつぶりだろうか。最後に見たのは随分前な気がする。
「寿司屋のお姉ちゃん、水は少なめで炊くんだっけ?」
「そこのメーカーならすしめし用の線があるはず。あと炊く時はすしめしモードで。無ければ早炊き」
「あったー! こんな機能あるんだ、うちの炊飯器!」
珍しく輝理も手伝っている。そして炊飯器にも詳しい鳥路さん。
すしめし用の機能とかあったんだ。流石は日本大手メーカーの炊飯器。
「てかお兄ちゃんも見てないで手伝ってよ! お客さんじゃないんだから!」
「男も台所に立つ時代よ」
「その言い方だと俺が普段台所で料理してないみたいになるだろ……」
台所で四人でわちゃわちゃするのもどうかと思って静観していたけど、母さんと輝理はそれを良しとしなかった。
「葵くんも料理するの?」
ロリータ服に普通のエプロンというよくわからない格好の鳥路さんに料理経験について聞かれる。
「簡単なものしか作れないよ。それこそ炒飯が限界」
「十分だと思う」
実質一人暮らしをしてきた鳥路さんの炊事スキルに比べたらしょっぱいと思う。
それに、俺は鳥路さんのように寿司は握れない。夏休み前の金星さんとのスシバトルはお互い酷い有様だった。
「炒飯って長ねぎとか玉ねぎをみじん切りにするよね? みじん切りができれば包丁の技能はマスターしてるようなもの」
「そうかな……」
鳥路さんの理論はわからないでもないけど、皮剥きはピーラー使ってんだよな俺。
「お兄ちゃんは炒飯よりだし巻き卵じゃない?」
「そうねぇ、私より巻くの上手だし」
そうでもないはずだけど。輝理はともかく、母さんに勝ってると思った事は無い。
「そうなんだ。気になる」
鳥路さんが興味を持ってしまった。
「寿司にも卵あるし、寿司屋のお姉ちゃんとコラボしちゃいなよ、お兄ちゃん」
「良いわね。葵、焼きなさい」
「鳥路さんの口に合うかわからないけど……はぁ、作るよ」
俺もこれで台所メンバーに仲間入りだ。四人だと若干狭くないか?
鳥路さんはスシバトルのせいかわからないけど、他人の家なのに動きに迷いが無い。
鳥路さんに自分の作った物を食べてもらうの緊張するんだよな……俺と金星さんの寿司っぽいものも特に何も言わず食べてくれたけど……鳥路さんが「卵焼きが泣いている!」とか言わないとはわかっていても、地雷を踏まないかの心配は残る。
何にせよ、恥ずかしくないだし巻き卵を作らなければ……
◇◇◇
鳥路さんと輝理と母さんが冷凍庫を物色して寿司になりそうな食材を選んでいる間に俺は冷蔵庫から出していた四つの卵をボウルに割り入れた。
空気が入らないようにある程度箸でかき混ぜたら、粉末出汁をお湯で溶かして冷ました簡易だし、みりん、砂糖、醤油を適量入れてさらに混ぜる。
だし巻き卵を作る時にしか使わない四角いフライパン、卵焼き鍋って名前らしいけど……そこに油を敷いて中火で少し待機だ。
「……」
鳥路さんが無言で俺の作業を覗いていた。緊張する! 人に見られながら作業するのって何か変な気分になるんだよな!
集中集中……卵液を半分以上流し入れてかき混ぜながら半熟のまま全体に広げる。
弱火にして、焦げ付く前に卵を奥から手前に畳んでいき整形、奥に再設置。
落ち着いたら残りの卵液を入れて……火が通りそうなタイミングでもう一度巻く。
「おお」
鳥路さんのそれは感心の声って事で良いのか?
ええっと、焼き上がっただし巻き卵を食品用ラップの上に置いて、ここでしっかりリカバリをする。今回は気合を入れて崩れたりしてなかったけど、俺のだし巻きは基本ここで完成する。
「あ、形どうしよう、いつもの感じで作っちゃったけど……寿司用の形状とかある?」
「大丈夫、合わせる」
鳥路さんの頼もしい言葉に支えられ、山本家のだし巻き卵が無事に完成した。
「どうかな? 普通でしょ?」
「そんな事はない。上手」
パチパチと拍手をする鳥路さん。鳥路さんに褒められると自身が付くな。
……寿司の時はノーコメントだったから今回のは嘘じゃ無いと思う。
「それより鳥路さん、冷凍庫に何かいい食材眠ってた? 寿司は握れそう?」
「冷凍庫からはマグロとサーモン、お刺身用のヒラメ。冷蔵庫からマグロのたたき、あとカニカマ」
「カニカマって寿司になるの?」
それ以外は寿司ネタとして馴染み深いメンバーだ。
「意外といける」
回転寿司のサラダ巻きの味が頭に浮かぶ。
「うーん、味の想像はできるけど……そこは鳥路さんのスキルでどうにでもなるのかな?」
「葵くんも握るんだよ」
……ん? 鳥路さん?
「お兄ちゃんと寿司屋のお姉ちゃんでスシバトルだ!」
「これもスシバトルになるの? じゃあ、私達は審査員ね!」
輝理と母さんが話に乗っかる! なんで!?
「私にとってここはアウェイ。葵くんが有利……ふふ、良い練習になるかも」
イタズラっぽく笑う鳥路さん! 本気じゃ無いのはわかったけど、スシバトルはやる気のようだ!
いやいやいや! 俺が鳥路さんにスシバトルで敵うわけ無いでしょ!?
炊飯器から炊き上がりのアラームが鳴り響く!
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




