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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
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第139話 スシウィズアサマーイブニングレイン①

 今日は色々と濃厚な一日だった。

 鳥路さんと司先生のスシバトル、鯖江……シメサバキャットさんからのスシバトルの申し込み、そして、呪われた包丁、白蛇と黒鷲……

 ゆっくりと情報を整理したいところだけど、今日は最後に鳥路さんに寿司マニュアルを渡さなければいけない。家の前で待っていて貰う算段だったけど、よくよく考えたらこの暑さで休憩無しで帰すのはどうなんだと思い始めてきた。絶対良くない。

 いや、今日は母さんも輝理もいるし……何も臆することは無かった。リビングで待って貰うだけで済む話だ。


「ええっと、もうちょっとで家なんだけど……」


「あ」


「え? 何……」


 俺が話しかけると同時に鳥路さんが空を見上げる。なんだ?

 そういえばちょっと空が暗く……


 数滴の水が頭に落ちると、もはや数えるとかそういう次元じゃない量の雨が降り注ぐ! ゆ、夕立ゆうだち!?


「うわああああ!? 嘘だろ!? 鳥路さん、傘持ってる!?」


「無念」


 鳥路さんが武人みたいな言葉遣いで否定! 俺も今日は傘を持ってきていない!


「は、走ろうか! もう大分手遅れだけど! 走れる!?」


「大丈夫」


 鳥路さんから同意を得て、俺達は家に向かって夕立の中を駆けていくのであった。



◇◇◇



 自分の家の外観とか近所について一切語る事なく、鳥路さんと一緒に玄関に退避した。まぁ大して語る家でも無いから別に良いか……


「久々にこんなに濡れたよ……」


 シャツからパンツまで完全浸水している。靴の中も水たまりみたいになってるぞ……


「油断した」


 鳥路さんも流石にぐしょ濡れだ。鳥路さんの身体能力でも雨を回避するのは無理のようだ。

 ……鳥路さんの服の下の肌が透けて見えてしまい咄嗟に目を逸す。


「お兄ちゃん、おかえ……うわ、やっぱり直撃……え?」


 二階からタイミング良く輝理が降りてきた。


「すまん、輝理、バスタオルを二つ……」

 

「お母さん! お兄ちゃんが寿司屋のお姉ちゃん連れてきた!」


 俺のお願いを無視した母親の元へと走り去っていく輝理。

 ずぶ濡れのまま家に上がる訳にもいかず動けない。


 ……ドタドタという足音が二つこちらに向かってくる。


「何事!? びしょびしょじゃない! というか後ろの子は、もしかして……」


「そう! 寿司屋のお姉ちゃん!」

 

 母さんに鳥路さんを紹介する輝理。それで通じなくも無いと思うけど、もっと他にあるだろ。


「鳥路英莉です。葵くんのクラスメイトで寿司同好会のメンバーです。このような状況で申し訳ありません」


 水滴を垂らしながら母さんに丁寧な自己紹介をする鳥路さん。


「本当にあの時の女の子だったのね……ああ、それより本当に酷い状況ね! タオル持ってくるから待ってて!」


 母さんが風呂場に向かう。ようやくタオルが手に入りそうだ。


「拭いた所でって感じじゃない? シャワーでも浴びる?」


「ああ、そうだな……そうしよう」


「寿司屋のお姉ちゃん、先に浴びてきなよ。着替えは……まぁお母さんがどうにかするでしょ」 


 いつも通り輝理と話をしていたつもりだったけど……そりゃそうだ、鳥路さんが先だ。


「……ありがとう輝理ちゃん。すごく助かる」


 そう言いながら、鳥路さんはスカートの裾を絞る。床に水が落ちる音が聞こえるぐらいに濡れていたようだ……

 

「はい、タオル! 軽く拭いたら鳥路さんはシャワー浴びちゃって! 葵は体拭いてから着替えときなさい!」


 母さんからタオルを二つ投げ渡され、一つを鳥路さんに手渡す。

 その場で軽く水分を拭き、鳥路さんは母さんと輝理に連れられて風呂場に行ってしまった。


 ……俺も部屋に戻って一旦着替えるか。



◇◇◇



 鳥路さんがシャワーを浴びた後、俺もシャワーを浴びて体温が戻っていくことを実感していた。自然現象とはいえ酷い目にあった……今日は本当に大変な一日だったな。


「……」 


 体を洗いながらふと気づく。


 ……鳥路さんもここでシャワー浴びてたんだよな?


 浴場の状態が誰かが使った感じではなかったからピンときてなかったけど、というか体が温まって血流が良くなって頭が冴えてきたというか……


「鳥路さんが、山本家で……ああああ! 何考えてんだバカ!」


 シャワーヘッドを掴んで、そこから出るお湯を顔面にぶつける!

 鳥路さんは偶然たまたま仕方なくそうなっただけ! 勘違いするな!


「がばごぼげほっ! はぁ……はぁ……よし、落ち着いた」


 嘘である。そう言って自分を言い聞かせないとやってられない。

 良いか山本葵。お前は男である前に学生だ。いつも通りやれ。

 全てがうまく行く、はず。



 俺は泡と一緒に邪念もお湯で洗い流した。



◇◇◇



 雑な部屋着ではなく、そこそこ外に出れる格好に着替えリビングへ向かう。

 母さんと輝理が鳥路さんに失礼な事してなきゃ良いけど。


「そこで寿司屋のおねちゃんが柄の悪い男達の股間を潰して、私とお兄ちゃんを助けてくれたの!」


「潰してないです」


「見た目は細いのに凄いのね! それにお寿司も握れるなんて……良いわぁ、素敵!」


 リビングの方から聞こえてくる三人の会話。

 なんだかんだ鳥路さんはコミュ力が高い気がしてきた。少なくとも俺が知ってる限り、鳥路さんが寿司以外で人間関係構築に失敗している様子は見受けられない。


「お母さん、今日はお寿司じゃない? 寿司屋のお姉ちゃんに握ってもらおうよ!」


「流石にお客様にそれはちょっと……ねぇ?」


 母さんのこれはちょっと期待してる言い方だな。


「いえ、お世話になりましたし。寿司を握るぐらいなら……」


 鳥路さん!? それは流石に申し訳ないよ!

 二人の暴走から鳥路さん守るためにリビングに突入する!


「鳥路さん、無理しなくて良いからね! 母さんの言う通り、今日はお客さんなんだから!」


「あ、やま……えっと、あ、葵くん?」



 葵くん。

 葵くん?


 俺の事? し、下の名前で?


 それに、その服、何? 確か、それ……輝理がネットで買ってサイズ大きくて仕方なく部屋に飾ってた服じゃないか? なんだっけロリータだっけ、ヒラヒラした人形みたいな服。鳥路さんの趣味じゃないのはわかるけど、似合ってる。なんだこれ。


「お兄ちゃん?」


「だ、大丈夫?」


 固まる俺を輝理と鳥路さんが心配している。

 ごめん。どう反応するのが正解なのかもう少し考えさせて。

 ……母さんはどういう感情でニヤけてるんだよ。


「……ええっと」


 俺の脳が導き出した最適な回答!


「に、似合ってるね、その服」


 鳥路さんの顔が赤くなった。


 間違えてないけど間違えた気がする。


 俺の脳は弱い。もっと予習しておくべきだった。

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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