第138話 スシインフルエンサー③
前回のあらすじ:
包丁は二丁あった。しかも呪われている。
◆◆◆
「呪われた包丁ですか……」
俺達が聞いた話は持ち主を大成させるというポジティブな伝承。
呪いと呼ばれるようなものではなかった。
「そう! 呪われた包丁!」
俺の言葉を拾い、鯖江さんが明るい口調で話を続ける。
「出刃包丁の白蛇と柳刃包丁の黒鷲だったかな。白蛇は持ち主を成功に導き、黒鷲は持ち主に力を与える……」
二つ揃って名実が備わるって感じなんだな。黒鷲の方には既に持ち主がいるのだろうか。
「ただし、その包丁を両方持つ者は二度と他の包丁を使えなくなる……ってオチ。嫉妬深い包丁なのかもね」
鯖江さんはやれやれといった感じで話を終わらせる。
「存在するんですかね、そんな包丁」
オカルトめいた包丁。俺はその存在について懐疑的である。
「ま、正直、私もそんな包丁あるわけないと思ってる。真実はいつだって現実的……ニャン」
遠い目で窓の外を見つめる鯖江さん。
それにしても……どうして寿司王は黒鷲の事を教えてくれなかったのだろう。
継承戦には関係ないかもしれないけど、二つで一つみたいな代物なら教えてくれても良かったのに。
「で、私が聞きたかったのは黒鷲はどこにあるのか、それとも誰かが持っているのか、って話。その様子だと二人とも知らない感じかニャン」
「そうですね、初めて聞きました」
俺が鯖江さんにそう答えると、鳥路さんも頷いてくれた。
「そんなもんか。オッケー、ありがとう! 参考になったニャン!」
「鯖江さんはその大会に参加されるんですか?」
鳥路さんは鯖江さんに参加の意思があるかを尋ねる。
「いやぁ、私如きが勝てる大会じゃないでしょ! シメニャンはシメニャンにできる事をするニャン! というわけで、スシバトルの件、よろしくね!」
そう言いながらお会計プレートを持って立ち上がる鯖江さん。
「シメニャンは配信準備があるからこれで失礼するニャン! お金は払っておくから、ゆっくりしていくと良いニャン。それでは、またお会いしましょう、鳥路さん、山本くん」
「ご馳走様でした! 配信頑張ってください!」
「帰ったらチャンネル登録します。ご馳走様でした」
俺と鳥路さんのお礼を聞いてから、大人の余裕を見せ去って行く鯖江さん。
俺達はそれを見送り、もう一度席に座る。
……ゆっくりするにも二人ともパフェもコーヒーも空である。長居は厳しい。
「……涼葉さんも確か二丁って言っていた気がする」
「え、そうだっけ? うーん……」
鳥路さんが昨日か今日の事を思い出しだようだけど、俺は記憶に残っていない。
いや、でも、二丁って言ってたような気もする。
「黒鷲……フレースヴェルグに調べてもらおう」
鳥路さんはそう言ってスマホを鞄から取り出す。
「インターネットに情報落ちてるかなぁ。フレべの知識はそこが元だろうし」
「それはそうかも……でも、一応ダメもとで聞いてみる」
鳥路さんはFaiNのアプリを立ち上げる。
「あ! エリ! 聞いてください! アオイは酷い人間です! 私の些細なリクエストを無視して電源を切りました! 横暴です!」
鳥路さんを味方につけようと俺を悪者にするフレべ。
「おい、俺も隣にいるからな。鳥路さんを丸め込もうとしても無駄だぞ」
「げ、アオイも一緒ですか。お二人はいつも一緒にいますね……ところで私に何か用ですか、エリ?」
話を逸らすフレべ。どうせ言い争っても平行線だ、本題に行こう。
「フレースヴェルグ。呪われた二丁の包丁、白蛇と黒鷲について正確な情報を調べて」
鳥路さんがフレべに呪われた包丁の調査を依頼する。
「わかりました! ……あぁダメですね。正確な情報がありません。わかりません!」
フレべは両手を軽く上げ、手の平を上に向けてから、首を横に振る。
やはりわからないか。
「精度を少し落としても良い、何か無い?」
鳥路さんは条件を変えて再びフレべに調べさせる。
「そうですね……包丁と白蛇に関しての記事が3件ほど。黒鷲については……包丁と関連する物がありませんね! ですが、白蛇と黒鷲についての創作と思われる記述のあるページは1件見つかりました!」
「おお、なんかそれっぽそう」
フレべがたった今述べた内容が書かれていると思われるリンクを画面上に表示させる。
実際に読んでみないとわからないけど、参考にはなりそうだ。
「ありがとう。フレースヴェルグ」
「どういたしまして! 俺は高画質でノイズの無いスシバトルの映像で良いですよ!」
ちゃっかり俺の動画にクレームを入れることも忘れないAI!
鳥路さんはフレべが話し終えるのを確認して、スマホの画面を消した。
「あれ? 読まないの?」
「これ以上は長居になりそうだし、先に山本くんの家に行かないと」
それが目的だったのを忘れていた。
「それもそうだね。会計も済んでるし……そろそろ出ようか」
俺と鳥路さんは席を立ち、再び暑い外へと出る。
暑苦しい空気と少し冷えた体がぶつかって結露ができそうな温度差だ……
「さて……頑張って帰るか、歩く度に体力削れるなぁ」
「いっそ、走った方が楽かも」
「それは多分鳥路さんだけだよ」
鳥路さんがとんでもない提案をしたのでやんわりと拒否した。
やっぱりコンビニに退避しながら帰る事になるな……
夏に夏休みがある理由を改めて実感する帰り道になった。
でもこうやって鳥路さんと一緒に帰るのも悪くない……いや、暑いわ。
もっと涼しい時に一緒に帰りたいと思いました。切実に。
◇◇◇
スシインフルエンサー おわり
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