第137話 スシインフルエンサー②
前回のあらすじ:
シメサバキャットチャンネル
@ShimeSabaCatCH チャンネル登録者数 7814人・832本の動画
説明
チャンネル登録ありがとうございます!
居酒屋で一年バイトしていた女子が市場で買ってきた魚を捌いて料理します!
スシバトルの対戦相手募集中!
たまにスッシータイマンバトルのランクマ配信もやってます!(イクラ級)
◆◆◆
冷房が効いた喫茶店の店内、冷たい飲み物の力で瀕死のシメサバキャットさんは次第に元気を取り戻してきた。
俺はアイスコーヒーを注文。鳥路さんはチョコレートパフェを注文し、目を輝かせながら食べ進めている。俺も鳥路さんも自分で払うと一度言ったが、シメサバキャットさんは配信者に二言は無いと言って、約束通り全部奢ってくれる事になった。ご馳走様です。
「それにしても、良く俺達が学校にいるのわかりましたね。夏休み中で登校したのもたまたまだったのに」
回復したばかりなので、世間話から……と思って切り出したけど、顔見知りじゃない人にやられたら恐怖シチュエーションじゃないかこれ?
「たまたま窓の外見たらさぁ、バズの権化が目に入って慌てて追いかけちゃったんだよねぇ。流石に学校の中はやばいと思って遠くから様子見てたけど」
シメサバキャットさんはコーラフロートをストローでぐるぐると回転させる。
この辺に住んでるんだな。一応、偶然って事にしておこう……
「シメサバキャットさんはいつからスシバトルを?」
パフェが残り半分ぐらいの所で鳥路さんがシメサバキャットさんに質問をする。
「んー、君と出会ってからだから……やっぱ一ヶ月ぐらい? あ、名前聞いてなかったね! 聞いても良い?」
「私が鳥路で、こっちが山本くん。寿司同好会の仲間です」
「よろしくお願いします」
鳥路さんが簡潔に自己紹介をしてくれた。
「え……それ本名?」
「そうですけど……あ、鳥路英莉です」
「自分は山本葵です」
鳥路さんに合わせてフルネームを教える。
「いやいやいや! ちょっと!? は、ハンドルネームとかで良かったんだけど!? 私が偽名使ってるの恥ずかしいやつじゃん!」
両手で頭を押さえながら、コーラをフロートを飲んで落ち着こうとするシメサバキャットさん。
SNSを介してならともかく、こうやって直接会ってるわけだし……
「うー……いや、君達は良い子っぽいし、桶ヶ丘は治安良いしなぁ……」
再びコーラフロートをストローでぐるぐる回すシメサバキャットさん。
「よし、決めた! 私は鯖江然音子! とは、世を忍ぶ借りの姿! その正体はなんと……チャンネル登録者数一万人目前! 寿司系ストリーマー、シメサバキャットだったのです! ニャン!」
招き猫のポーズでウィンク……できていない。
鯖江さんはまだキャラが定まっていないようだ。
「それで、鯖江さんはどうして私とスシバトルをしたいんですか?」
鳥路さんは流した。
「今の流れ聞いてた? まぁいいや……さっきも言ったけど、鳥路さんはネットで有名人なのよ! 謎の美少女スシバトラー現る、って!」
「はぁ」
熱く語る鯖江さんに対し、鳥路さんの反応は薄い。賀集さんと金星さんからもバズってたよぐらいの話は聞いていたけど……俺も鳥路さんもいまいちピンと来ていないんだよな。後でちゃんと動画を見に行った方が良さそうだ。
「そんな話題の人と私がスシバトルをする……! 登録者爆増待ったなし! お願ぁい! 前回と同じく本名とかはちゃんと隠すからさぁ!」
両手を合わせて懇願する鯖江さん。
恐らく目上の女性が数字のために学生に頭を下げる姿を見て、鳥路さんは若干引いている。
「司先生が許可してくれたら……両親はその辺特に何も言わないので」
鳥路さんの両親は鳥路さんを信用してるしなぁ……実際しっかりしてるし。
「ああ、一緒にいた先生の事ね……今電話できる? 交渉したい」
鯖江さんは早速交渉に移るようだ。今までで一番キリッとした表情を見せる。
鳥路さんはスマホで司先生に事情を説明して、そのまま鯖江さんにスマホを渡した。
「お忙しい中、大変申し訳ありません。私、株式会社スシーム所属タレントの鯖江然音子と申します。え、あ、実在する会社です。鳥路さんに名刺をお渡ししておきますので……はい、はい。ええっと、そうです。はい、ご連絡させていただいた理由なのですが……」
急に鯖江さんが社会人になってびっくりした。鳥路さんのチョコパフェを食べる手が止まるレベル……いや、もう食べ終わってたわ。
怪しい配信者から急に信用できそうな大人になった鯖江さんを見せられ、温度差で夏なのに風邪を引きそうである。
◇◇◇
俺のアイスコーヒーがちょうど無くなったタイミングで、鯖江さんと司先生の交渉が終わり、スマホが鳥路さんに返される。
「……許可を頂きました、ニャン!」
例のポーズを決める鯖江さん。
とりあえず拍手で祝う俺と鳥路さん。
「まさか鳥路さんもスシバトラーをちょうど求めていたとは……これも運命ニャンねぇ!」
司先生は鯖江さんをスシバトルの相手として許可を出したようだ。
「さぁ、今からスシバトルする!? それとも後日かニャン!?」
こちらの予定を聞いてくれるスシバトラーは初めてかもしれない。
鯖江さん、社会人経験豊かっぽいしな。
「今日はこの後予定があるので、明日からなら。山本くんは?」
鳥路さんが俺の予定を確認する。
「夏休みだしね。俺はいつでも大丈夫だよ」
宿題は夜とかに適当にやれば良いし。
「最速明日かな。場所とかセットして連絡するね、ニャン。あ、連絡先交換しよう」
鯖江さんと連絡先を交換する。チャットの名前とアイコンはシメサバキャットチャンネルに関するものだ。俺達は知ってはいけないものを知ってしまったのかもしれない。
「会社関係以外で友達登録するの何年ぶりだろう。こりゃあ、シメニャンも若返っちゃうニャン!」
聞いてはいけない事も聞いてしまった気がする。
「じゃあ、決まったら連絡するから! ルールはこっちで決めて良い?」
「……お任せします」
ルールを確認する鯖江さん。鳥路さんは少し悩んでから首を縦に振った。
変なルールじゃなきゃ良いけど……
「ふふふ、私が有利なルールにしちゃうかもだけど……後悔しても遅いニャンよ!」
悪そうな表情でニヤッと笑う鯖江さん。
「良いですね。俺達そういうのを待ってたんです」
「よろしくお願いします」
鳥路さんと一緒に軽く頭を下げる。
鯖江さんは笹垣レベルの事はしなさそうだし……良い練習になりそうだ。
「その反応は予想してなかったな……良いんだけどさ。ええっと、まだ少し時間良い?」
「少しだけなら」
鯖江さんはまだ何か話したいことがあるようだ。
鳥路さんが良いのなら……
「呪われた二本の包丁の話って知ってる? 八月末にその包丁の一本を手に入れる大会があるんだって!」
二本?
俺達が知っているのは白蛇の一丁だけ。
もう一丁、似たような包丁があるのか……? しかも呪われている?
「……詳しく聞かせてください」
鳥路さんは話を聞くために姿勢を正す。
俺達はもう少し鯖江さんの話を聞かなければいけないようだ。
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




