第136話 スシインフルエンサー①
司先生とのスシバトル、その後のスシパも終えた俺達は家庭科室でそれらの後片付けの最中だ。勿論、スシバトルとスシパで忙しかった鳥路さんと司先生には休んで貰っている。
「改めて、寿司王には鳥路さんが代表で出る事を伝えておくわ。継承戦は予選と本戦で二日間、開催は……このまま行けば恐らく八月末ね」
「わかりました」
司先生の口ぶりだと夏休みが終わる直前に継承戦をやる感じか。残り三週間ぐらいか……
「その間に出来る事はありますか?」
鳥路さんが残り期間で何か出来る事はないのか司先生に確認する。
「鳥路さんに足りないのは技術より経験ね。帯刀さんの寿司マニュアルをよく読んでおいた方が良いかもしれないわ」
スシバトル部の笹垣から渡された帯刀さんの寿司マニュアル。今は俺が保管しており、その事は寿司同好会の全員に共有している。
俺も少し読んでみたけど紙に印刷すれば鈍器になりそうなページ数で驚いた。
「あとはその辺にスシバトラーが生えてれば良いんだけど……」
司先生は目を瞑って悩む仕草を見せる。スシバトラーが雑草レベルでいたら困る。
「スシバトルの経験値も必要なんですね」
鳥路さんが察したように、経験値を積むためには、スシバトラーとのスシバトルが必要と言うのが司先生の見解のようだ。
「根木さんや帯刀さんみたいな実力派より、もっと、こう、狡い相手が良いと思うのよね」
狡いと聞いて真っ先に思い浮かぶ笹垣のニヤケ面。
「笹垣さんですわね」
「笹垣さんかぁ……」
金星さんと賀集さんも思い浮かんだ顔は俺と同じようだ。
「笹垣さんとはどのようなお方なのですか?」
唯一面識の無い涼葉さんが俺に尋ねる。
「……勝つためなら割と何でもしてくるタイプかな。やれる範囲でマグロの買い占めとかした事がある」
俺の説明を聞いて鳥路さんも強く頷いた。
「す、すごい執念ですね……そこまでするとは……」
涼葉さん的にもアレは一般的なスシバトルの戦法では無いようだ。
「まぁ、協力してくれるタイプじゃ無いですよ、笹垣、さんは」
夏休みぐらいは大人しくしていて欲しいと言う気持ちもあるけど。
「あの子は……確かにそうね。まだ時間があるし、スシバトラーの件は寿司王に聞いてみるわ」
司先生にもそう認識されているのは、しょうがないけど駄目だろ笹垣……
スシバトルの経験値より寿司マニュアルの読み込みからになりそうだな。
「鳥路さん、寿司マニュアルは今俺の家にあるんだけど。どうしよう、明日どこかで待ち合わせる?」
寿司マニュアルは鍵付きの自分の机の中に放り込んである。
で、鍵は俺の財布の中だ。
「まだお昼過ぎだし……山本くんが良ければだけど、取りに行きたい」
鳥路さんの言う通り太陽の位置はまだ高い。確か母さんも輝理も今日は家にいるはずだし……問題ないか。いや、そもそも渡すだけだから鳥路さんが家に上がる必要は無い。考えすぎだ。
「わかった。じゃあ、帰りは俺の家に来てもらう感じで」
鳥路さんが頷く。今日の予定は決まりだな。
「あのあのあの! おふたムグッ!?」
涼葉さんが何か言おうとした直後に司先生が瞬時に口を押さえる! 速い!
けど急にどうしたんだ!?
「ナイスです! 司先生!」
「素晴らしい反応速度ですわ!」
司先生の謎の行動を賞賛する賀集さんと金星さん。
「二人とも、そう言う事なら先に上がって良いわよ。あとはこっちでやっとくから」
「え、そんな悪いですよ」
司先生にそうは言われても、同好会といえ部室の掃除は自分達でやらないと。
「うん! とりっじも疲れてると思うから! その方が良いよ!」
「えっ!?」
鳥路さんが急に話を振られて驚く。
鳥路さん、体力お化けだから大丈夫だと思うけど……いや、賀集さんの言う通り、見えてないだけで疲れている可能性は十分あるか。
「鳥路さんが帰るなら、用事の先である山本くんもセット。そうですわね?」
「いや、そうなるけどさ……」
金星さんまで急にどうしたんだ?
……あ、そうか! 俺の家と鳥路さんの家の距離を考えたら早くした方が良いのか! うっかりしていた!
「……わかりました! お言葉に甘えてそうさせていただきます。どこかで埋め合わせしますね!」
俺は止まっていた方付けの手を改めて正式に中断し、椅子に置いていた自分の鞄を掴む。
「行こうか、鳥路さん」
「う、うん」
少し困惑しながら鳥路さんも自分の荷物を手にする。
俺達は皆に見送られながら家庭科室を後にするのであった。
◇◇◇
今日は快晴。つまりとてつもなく暑い。
夏休み中の校舎でも冷房が少し効いていて忘れていた。今日は……暑い!
校門を出たあたりで引き返したくなる程度に暑い!
「鳥路さん、こっちの暑さって大丈夫? 北海道って、こっちよりも涼しいんだよね?」
「暑さだけならそこまで……でもこっちは湿度が高くて不快」
こうも蒸し暑いとずっと神奈川にいる俺でも嫌になる。この暑さが好きな奴の方が少ないんじゃないか?
「途中寄り道して涼みながら行こうか……まだ時間もあるし」
「助かる」
鳥路さんからもOK貰えたし、喫茶店とか経由するか……コンビニでも良いけど。
「ちょっと待った!」
何者かに呼び止められる! 声の方に振り向く俺と鳥路さん!
「ふ、ふふ……やっと出てきた……! 待ってたよ……! 補習か部活か知らないけど……! お疲れ様っ!」
……炎天下で俺達を待っていたと思われる汗だくの女性。
どこかで見たことあるなこの人……こんなに死にそうな感じではなかったけど。
「見せてもらったよ、寿司屋の配信……! 私のチャンネルで私以上にバズったのに、更に他人の配信でそれ以上にバズるなんて……おそろしい才能だニャン!」
寿司屋の動画って函館でチャラ男が配信してたやつかな。凄い拡散されたんだな……この人も配信者っぽいけど……急に語尾にニャンとか付けたし。
「鳥路さん、知り合い?」
「どこかで会ったような……」
鳥路さんも会った事がありそうな反応。
「……ん? あ、失礼、名乗り遅れました。私は配信者のシメサバキャットと申します! 一ヶ月ぶりぐらいですかね? 豊洲で一回お会いしましたよね? 確か名刺もその時……」
急に丁寧な対応に切り替える女性。悪い人では無いのかもしれない。
「あ、カメラが壊れた人だ!」
鳥路さんが女性の事を思い出す。
俺もそのワードで思い出した! 確か鳥路さんが豊洲でスシバトル四天王の五人目と戦っていた様子を配信していた人だ! そうだ、カメラが壊れて配信終わったんだよな、この人……
「ふふふ、バズりの権化に覚えられていて、わた、シメニャンも嬉しい、ニャン!」
思い出したようにキャラ付けをしていくシメニャンさん、いや、シメサバキャットさん?
「し、シメニャンも再生数欲しいニャン! だから、バズの発生源の君に、スシバトルを申し込みに来た、ニャン!」
は、配信者のスシバトラー! チャラ男を含めて二人目!
「この暑さでスシバトルのために私を待っていたんですか……? 大丈夫ですか?」
鳥路さんが素直にシメサバキャットさんの体調を心配する。
実際かなりふらついている。
「……」
無言になるシメサバキャットさん!
「私が奢るから、近くの喫茶店でお話し聞かせてもらって良い?」
素に戻るシメサバキャットさん!
「山本くん、かなり早いけど……」
「うん、この人が倒れる前に休もう。ほっとけないし……」
「……ふふふ。すみません。助かります……」
俺達はシメサバキャットさんの体調を優先し、早々に近くの喫茶店に向かうのであった。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




