第134話 ザメインスシバトラーフロムザラストワン⑤
前回のあらすじ:
マグロの頭対決最終戦! 鳥路さんが選んだのは目玉!
◆◆◆
「目玉!? 目玉って目玉だよね!?」
マグロの目が俺をジロリと見たような気がした。
「それ以外にありませんわよ! た、食べられるのは知っていますが……寿司で!?」
「ま、マグロは捨てる所無いって聞いた事あるけど……」
金星さんも賀集さんも目玉は想定外といった反応。この空間で平静を保っているのは鳥路さんただ一人!
「本気で目玉の寿司を……? いや、そういう事か。目肉……ほほ裏も含まれる認識で良いのよね、鳥路さん?」
司先生は冷静さを取り戻したようだ。
目肉って恐らく目玉の周りの肉って事だよね。ほほ裏って名前なんだ。
確かにその辺りなら寿司になりそうだ。
「もちろんです」
鳥路さんは肯定! びっくりした。本当に目玉で寿司を作るものかと……
賀集さんも金星さんもホッとしている。
司先生がマグロの頭から目玉を切り分け始める。
食べ物とはいえ、目の近くに鋭いものが近づくと自分までヒヤっとするのは何故なのだろう……
そんな事を考えていたら、司先生と鳥路さんのそれぞれのテーブルの上にマグロの目玉が置かれていた。グロい。
「それでは……恐らく最終戦! 目玉勝負! 始めてください!」
涼葉さんの合図で鳥路さんと司先生が動き出す!
司先生はマグロの目の周囲にある身を取り外すように切っていく。
鳥路さんは鍋に水を入れてお湯を沸かし始め……お湯!?
俺の思考と一緒に司先生の動きも止まる!
「な、何のために? 霜降り? 本気で目玉を寿司につもりなの!?」
司先生は手を動かしながらも鳥路さんの行動を予測する。が、はっきりとした答えは出ていない!
鳥路さんは司先生と同じように目玉の周りの身を切り落としていき、お皿の上に取り分けた。周りの身も使う予定がありそうだけど……どうするんだ、鳥路さん?
行動の読めない鳥路さんは冷蔵庫の扉を開けて、何かを探し始める。
……その何かはすぐに判明した。
「味噌ですわよね?」
「味噌だよね?」
「俺も味噌だと思う……あとは、玉ねぎ?」
鳥路さんの手にあるのはやはり味噌の容器! そして玉ねぎ!
「目玉で味噌汁でも作るつもり? これはスシバトルよ? 勝負を捨てるつもり!?」
司先生は鳥路さんの行動を非難する! しかし、鳥路さんの目は諦めているようには見えない! 勝負は捨てていない!
「おお! これが鳥路さんの寿司勝負のやり方ですか! 何をする気なのでしょうか! 涼葉には見当もつきません!」
涼葉さんが興奮気味に語る。
「お湯が沸くのを待ってる暇は無い! 先に出すわよ!」
司先生が動く!
目玉の周りの肉を包丁で細切りにしていき、それを少しの醤油で和えていく!
この見た目……ユッケみたいだ!
司先生はシャリを成形して海苔で巻き、その上に先程の細切りのマグロ肉を乗せ、ワサビを添えていく! マグロユッケ軍艦だ!
「涼葉! 食べなさい!」
司先生が涼葉さんに寿司を提供! 両者揃わずに進めて良いんだ……
流石にここまで調理方法が違うと同時は難しそうだし、仕方が無いのか。
「あ、はい。頂きます!」
涼葉さんがマグロユッケ軍艦を一口で食べる。
「目肉を細切りにすることで食べやすくなっていて、味付けも最適……軍艦のシャリの固さもバッチリ! 素晴らしい仕事ですね! 梨寿お姉様!」
後続がまだ無いので味の感想を述べる涼葉さん。美味しそうだ。
高評価を受けた司先生だったが、その目線は鳥路さんの方を向いている。
「そうですね……鳥路さんはどうでしょうか!」
涼葉さんが鳥路さんの方に振り返ると……鳥路さんがちょうど鍋の中に目玉を投入した所だった。
「何をする気……? 霜降りなのはわかるけど……どうやって身を剥がしても寿司にできるはずがない」
司先生の言うように、あの目玉がどうやって寿司になるのか俺にも想像がつかない。
全員が見守る中、鳥路さんはお湯から目玉を引き上げ、キッチンタオルで水分を丁寧に拭き取る。
鳥路さんは目玉の周りのとろっとした部位を包丁で切り落とし、まな板の中央に置く。そして、その上に先程切り分けた目の周りの身を一緒に乗せた。
鳥路さんは合わせた食材を……包丁で叩くように刻んでいく!
「ね、ネギトロですか!?」
涼葉さんが叫んだ! そ、その手があったか! でもこれ普通のネギトロじゃないよね!?
「違う! これは……!」
司先生はネギトロを否定! その答え合わせをするように、鳥路さんは玉ねぎを少量みじん切りにして、叩いた身に投入! さらにそこに少しの味噌を入れて再び叩き混ぜていく!
「なめろう!」
司先生の口からその正体が飛び出す。な、なめろう!? 寿司になめろう!?
「な、なめろうって何!?」
賀集さんが疑問を声にする!
「千葉の郷土料理ですわ! 魚と薬味と味噌を粘り気が出るまで包丁で叩く漁師飯……でも普通はアジなどの光り物を使うはず! マグロでなめろうなんて……!」
金星さんがなめろうについて解説してくれる!
俺が知っているなめろうも魚はアジとかイワシとかその辺だ!
鳥路さんが叩いていたなめろうに艶が出てくる! もはや原型は無い!
鳥路さんは包丁を置き、手を酢水で洗って右手でシャリを取る!
左手でなめろうを掬い、片手で成形してから右手のシャリと合わせる!
一度、右手でシャリを押さえて空洞を作ってから、左手に乗せた寿司ネタとシャリを……寿司を摘むような形の右手の上に乗せる! 知らない握り方!
「縦返し!」
涼葉さんが前のめりになる!
「その食材なら確かにネタに触れる回数の少ない縦返しが正解……! この子は……!」
司先生が驚いている間に鳥路さんは左手に置き直した寿司を右手で成形し、お皿の上に乗せる! 完成だ!
「醤油は不要。そのままで」
「わ、わかりました。頂きます!」
鳥路さんの説明を受け、涼葉さんがなめろう寿司を少し眺めてから口の中に入れる!
緊張の瞬間。全く味が想像できない。
でも、鳥路さんが作ったんだ……不味いはずがない!
「ガツンとくるマグロの旨み……! ふわっとした食感は叩いただけでなく、マグロの目玉によるものでしょうか!? 味付けの味噌と少量の玉ねぎで臭みのような物も一切感じません! 美味しいです!」
高評価だ! 鳥路さんの寿司も負けていない!
「しかしですね、こうも全然違う寿司を出されると……どのように勝敗を決めれば良いのか……」
涼葉さんの言う通り、同じ食材から全く違う寿司が出てきた。
こうなると……シンプルに美味しい方が勝つのか?
涼葉さんは両手でこめかみを押さえながら悩む!
「やられた……!」
司先生が悔しそうに呟く。
「決めました! 鳥路さんのなめろう寿司の勝ちです! これにて二本先取! この寿司勝負も鳥路さんの勝ちです!」
涼葉さんが宣言!
勝った! 鳥路さんの勝ちだ!
何がどうなって勝ったか良くわからないけど……鳥路さんの勝利だ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




