第133話 ザメインスシバトラーフロムザラストワン④
前回のあらすじ:
一本目のマグロのほほ肉勝負は鉄火の梨寿の勝利。
後が無くなった鳥路に対し鉄火の梨寿はマグロのカマを勝負に選ぶ。
◆◆◆
マグロのカマ勝負。頭の一部位とは言え結構な大きさだ。
鳥路さんが司先生に確認したカマトロは見た感じ脂が乗ってそうな部分だとは思うけど、赤身の部分は何というか……寿司に向いてなさそうな形をしている。血合の処理が大変そうなのもあるし、筋がすごい。
「カマトロ……そもそもマグロの頭全体に言えますが、熟成が困難で寿司屋としては微妙な部位であると聞いた事がありますわ」
「希少だからと言って美味しいとは限らないもんね」
金星さんの知識に賀集さんが肯定的に頷く。俺もキャビアとかトリュフとかの味がよくわからないんだよな……安物だからか?
「マグロは熟成で旨味が増しますが、頭部はその構造の複雑さ故に腐敗しやすく熟成に不向きです。結果として熟成が不十分で旨味が弱くなる。そんな部位を如何に寿司に落とし込むのか……寿司職人の腕が問われますね」
流石は寿司屋の孫娘。涼葉さんの言葉が正しければ……司先生がマグロの頭を持ち込んだのはやはり鳥路さんを試すための意図が強そうだ。
「涼葉さん……と言うより宗鮨ではマグロの頭ってどうしてるの?」
涼葉さんが普段どうしているのかは知っておいて損はないだろう。
「身がしっかり形になる部分は使いますが、その他はそのまま煮たり焼いたりって感じですかね。そもそも量が取れないので、お店で出す事も稀です」
あんまり寿司にならないのか。でも使う所は使うんだな……
そうこうしている内に鳥路さんと司先生はカマから寿司に使う場所を切り取り終えたようだ。どちらも脂の乗っているカマトロを選択した感じかな?
「流石に赤身は使わないのね」
司先生は鳥路さんの選んだ部位を見てかすかに笑みを浮かべる。
「ほほ肉を食べた時に熟成されていないとわかっています。それとも私がカマトロを知らないとでも?」
鳥路さんはいつの間に摘み食いをしていたのか。いや、結構大事な工程なのかもしれない。
「どうかしら……ね!」
司先生が握り始める! 意識を集中した状態でようやく四手を数えられるレベルの速さ!
鳥路さんも決して遅くはないのだけれど、本手返しと小手返しの根本的な手数の差で鳥路さんが握りの早さで司先生に勝つのは難しそうだ。
司先生は今回もガスバーナーを取り出し、炙り寿司に仕上げるようだ。
炙る事が重要なら、鳥路さんも……その時、鳥路さんは握った寿司を見て動きが止まった!
「このタイミングじゃない!」
鳥路さんは握った寿司を自分の口に放り込む! なんで!?
「……やっぱり!」
鳥路さんは再びカマトロを切り出し、今度は金属トレイとセットのアミの上にそれを置く! そしてガスバーナーを取り出して炙り始める!
「一度握った寿司を食べちゃったけど……良いのかな?」
賀集さんがスシバトルのルールを確認!
「提出前なので大丈夫かと……」
ルールに詳しい金星さんが大丈夫ならセーフなのだろう!
「お店だと怒られそうですが……寿司勝負なら全然良いと思います!」
涼葉さん的にも問題なさそうだ。問題だったら司先生が指摘してそうなもんだしな……
鳥路さんはカマトロを炙り終えると、飾り包丁を入れて、そのまま握り始める。
司先生は握った状態から炙ったようだけど……タイミングの違いが勝敗を分ける事になるのだろうか。
どちらもワサビは後のせ。司先生の寿司ネタは片面だけ炙られており、鳥路さんの方は両面が炙られている状態のようだ。今回は見た目にもはっきりと差が出ている。
とにかく、両者の寿司が出揃った!
「出揃いましたね! では……今回は鳥路さんの寿司から頂きましょうか」
涼葉さんが鳥路さんの炙りカマトロを一口で食べる!
「ん! おお……なるほど。では、梨寿お姉様の方を」
涼葉さんはお茶を一口飲んで、司先生の寿司を口にする。
「……むう……これは、悩ましいですね」
腕を組んで悩み始める涼葉さん! 一本目と違って互角の勝負なのか!?
「でも、これは……より脂の甘みと香ばしさを高めた鳥路さんの勝利とします!」
おお!
「やった!」
「鳥路さんの勝ちですわ!」
「やったね! とりっじ!」
盛り上がる寿司同好会! 考えてみたら今日は俺達がギャラリーポジだ。
しっかり盛り上げて行こう。
「ほほ肉の失敗で日和らなかったわね。お見事」
司先生がパチパチと手を叩く。また、鳥路さんを試すような発言を……
「とは言ってもほとんど誤差みたいなものですからね……今回は涼葉の好みで選んでしまいました。なので、どちらの寿司も美味しかったですよ!」
涼葉さんが素直な感想を述べる。結構危ない橋を渡ったようだ。
涼葉さんの好み次第ではここでスシバトルが終わってたかもしれない。
「さぁ、鳥路さん、最後の寿司ネタよ。慎重に選びなさい!」
司先生はすぐに三本目に切り替えていく! 泣いても笑ってもこれで最後になるぞ!
鳥路さんは口元に手を当て、最後の部位をどうするか悩み始める。
「あと残っているのは……脳天ですかしらね?」
金星さんが最後の部位を予想する。
「脳天って事は……文字通り頭の上あたり? 美味しいの?」
脳天の寿司というものは俺の人生では聞いた事が無いな……
「ええ、濃厚な脂が乗った部位ですわね。中トロのような脂の乗り方ですが、大トロより好きという方もいらっしゃいますわね」
「うーん、美味しそう!」
賀集さんの素直な感想。確かに美味しそうだ。
ホホ、カマトロ、最後は脳天か。他は骨とかでまともに寿司にならなそうな感じだし……
「……決まりました」
ついに鳥路さんが最後の部位を宣言する!
「目玉で」
「そう、やはり目玉ね……目玉!?」
ここに来て司先生が驚きの声を上げる!
俺達的にも想定外の部位が出てきたぞ!?
「目玉って、目玉だよね!?」
「それしかありませんわよ!?」
「こ、これを食べれるの!?」
鳥路さんの選択は脳天じゃなくて目玉! そもそも寿司で食えるのこれ!?
鳥路さん!? ねぇ!? 大丈夫なの!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




