第130話 ザメインスシバトラーフロムザラストワン①
「へぇー、FaiNの中の人ってフレースヴェルグって名前なんだ!」
「賀集さん、恐らくAIコンパニオンなので逆ではありません事? どちらかと言うとガワのような……」
「私がFaiNそのものであると言えるので、ナツとルリコ、どちらの意見も正しいと言えますね!」
夏休みの家庭科室に寿司同好会のメンバーが集まる。
今は鳥路さんが賀集さんと金星さんにフレベを紹介したところだ。
スマホを前に皆で自己紹介する光景は側から見ると変だったろうな。
夏休み中で良かった。
「鳥路さん、フレベは普段どんな感じ? うるさくない?」
「失礼ですねアオイは! 居候の身としてちゃんとわきまえてますよ!」
俺の言葉に反応するフレベ。音声で誰が喋ってるのかわかるの何気に凄いよなこいつ……同じ部屋に四人もいるのに。
「家族が一人増えた感じで楽しい。やたらと今日は寿司を握ったのかと聞いてくるのはあれだけど……」
鳥路さんがフレベに対する率直な感想を述べる。本当にわきまえてるのか、こいつ?
でも、家だと一人の時間が多い鳥路さんとフレベは実際相性が良いのかもしれない。
「山ちゃんはフレースヴェルグをフレベって呼んでるんだ。公式の愛称だったり?」
賀集さんが俺にフレベ呼びの理由を尋ねる。
「え? ああ、飼い主……じゃなくて関係者の人がそう呼んでたから、つい」
「そうなんだ!」
あと、こいつをフレースヴェルグって呼びたくない。無駄にカッコイイし、長いし。
家庭科室の扉が開く。司先生……にしては背が低いな、ん? 涼葉さん!?
「ここが桶ヶ丘の家庭科室ですか! あ、こんにちは皆様!」
「涼葉さん!? どうしてここに!?」
賀集さんが扉の方まで真っ先に駆け寄り、残りのメンバーはゆっくりと合流する。
涼葉さんは制服姿だけど……桶ヶ丘の制服じゃないな。どこの学校のだろう。
とりあえず首にかけている入校許可証は本物のようだ。
「梨寿お姉様に呼ばれてきました! 途中まで一緒だったのですが、着替えるとかなんとかで、涼葉だけ先に来ました!」
「ああ、なるほど、司先生が呼んだのか」
着替えるって、汗でもかいたのだろうか。今日はそこまで暑くないと思ってたけど。
「涼葉さん、海百合の一年生でしたのね。リボンの色が確かそうですわ」
「はい! よくご存知ですね!」
金星さんが涼葉さんの高校を言い当てた。海百合って確か女子高だったっけ。
それより一年生だったのか。年下らしい感じはあったけど……
「立ち話もあれだし、座って待ってようか!」
賀集さんの案内で先程まで俺達が会話していたテーブルに涼葉さんを案内する。
司先生は……廊下の見える範囲にはいないな。
俺は扉を閉めて、女子四人が座るテーブルに向かう。
……やっぱ男女比おかしいよ。先生とフレベ入れたら六対一だぞ。
◇◇◇
涼葉さん合流から20分程経過したが、司先生はまだ来ない。夏休み中もやることあるって嘆いてたし、仕事中なのかも。
「ここで鳥路さんがスシバトル部をちぎっては投げしてきた家庭科室なのですね……! 聖地巡礼というやつでしょうか!」
涼葉さんが周囲を目を輝かせながら周囲を見渡す。
「そこまでしてない」
鳥路さんが訂正した。昨日もそうだったけどスシバトル部とのいざこざが曲解されて伝わっている感じがする。
「あ、話は変わるんだけど……涼葉さんと司先生ってどういう関係なの?」
賀集さんが俺が昨日聞きそびれた事を涼葉さんに聞いてくれた。
寿司を守る会関係だとは思ってるけど……
「梨寿お姉様は昔、お爺様の弟子だったんですよ!」
「弟子!?」
思わず声に出てしまった。英語教師が元寿司職人でスシバトラー……?
どういう経歴なんだ!?
「はい。職人ではなく、あくまで寿司を学ぶだけの関係だったようですけど。時間がある時はよく私の遊び相手になってくれていました!」
寿司王から寿司を学ぶって……凄い話じゃない?
「司先生は、その、寿司勝負やスシバトルをされていたのですか? どんな感じか覚えてます?」
金星さんが少し踏み込む。
「あれ? 聞いてないんですか? 梨寿お姉様は寿司を守る会のメンバーとして関東の寿司屋を悪い連中から守っていたんですよ!」
知らない話がどんどん出てくる。
「……悪い連中というのは?」
鳥路さんがさらに踏み込む。
「日本寿司罵倒協会です。最近また活動を再開したみたいで……協会の主要メンバーは梨寿お姉様達がボコボコにしたはずなんですけどね」
嘘……じゃなさそうだ。涼葉さんは冗談で言ってる感じじゃない。
何かあったのは察していたけど、想像以上に暴れてたんだな司先生……
「知ってればで良いんだけどさ……司先生は今でもスシバトルしてる? そうだ、寿司桶仮面! 寿司桶仮面の姿で戦ってるの!?」
過去より今だ。司先生は正体を隠して日夜寿司罵倒協会と戦うエージェントだったりするのかもしれない。
「何ですかそれ」
違った。でも、ちょっとホッとしてる自分がいる。
「梨寿お姉様は教師の道に専念すると言って寿司勝負から身を引きました。それでもたまにお爺様と情報を交換したりはしているようですけど」
司先生がスシバトルを嫌う理由と何か関係があるのかもしれない。
でも、金星さんがやりたいスシバトルのエンタメ化を否定したりはしていないんだよな……全然わからん。
再び家庭科室の扉が開く音が聞こえる。今度こそ司先生だろう。
「あ、噂をすれ……ば!?」
扉の方を見ていた賀集さんが固まる。
「どうしました……の……?」
金星さんまで絶句する。なんだ?
鳥路さんも目を見開いて固まってるし……
俺が振り返って扉の方を見ると、そこに立っていたのは司先生。
ただし! スーツ姿ではなく、寿司屋の調理白衣と思われる上着を肩にかけ、着崩している状態! 上着がそんなことになっているので胸にはサラシがしっかり巻かれている。そして頭には「寿司魂」と金色の文字で書かれた真っ赤なハチマキ!
「な、何ですかその格好!?」
俺の叫び声に近いツッコミも司先生はスルー。
俺にはふざけた格好に見えるけど、司先生の表情は真剣そのもの……ど、どういうこと?
「わ、わあ! 鉄火の梨寿! 鉄火の梨寿が帰ってきました!」
涼葉さんが歓喜の声を上げる! 鉄火の梨寿!?
「寿司包丁継承戦……誰が出るか……スシバトルで決めるわよ」
司先生がスシバトルの開始を宣言する。
寿司同好会から出るのは鳥路さんしかいないと思っていた。でも違った!
寿司同好会にはいたのだ! 現役を退いたスシバトラーが!
あの時、司先生が「代表者を決めて後日報告します」と言った意味が今わかった!
「鳥路さん。継承戦に出たければ私を倒す事ね。無論、手加減はしない。本気できなさい」
「え……え!?」
呆気に取られる鳥路さん!
というか寿司同好会のメンバー全員が混乱している!
突然の司先生とのスシバトル! ど、どうなるんだよこんなの!
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




