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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
129/174

第129話 アナザースシジーニアス④

前回のあらすじ:

鳥路さんと涼葉さんの寿司勝負は鳥路さんの勝ち。


◆◆◆


「負けた……これが桶ヶ丘のスシバトル部を一人で壊滅させた実力……!」


 膝をついて負けを認める涼葉さん。話が盛られているのは気になるけども……


「肉汁やつなぎに頼らず、メイラード反応による旨味だけで勝負した見事な肉寿司……! 寿司の可能性に心が踊るぞ!」


 寿司王も鳥路さんの寿司を褒める。よくわからないけど色々計算された寿司のようだ。あとで鳥路さん本人に原理とかを聞いておこう……

 

「鳥路くん。なぜこのような寿司を握ったのか理由を教えていただけるかな?」


 寿司王が鳥路さんにパティの寿司の意図を問う。


「……環境や条件で寿司は形を変え、食べる人達も変わります。回転寿司は環境に適応をした一つの結果であって、決して紛い物では無い。私もそこに気付けたのは最近でした。だから、涼葉さんにもその事を知って欲しかった」


 鳥路さんがちらっと賀集さんを見る。


「私もねこまた寿司のハンバーグ寿司とねこまたロールは好きですからね」


「とりっじ……!」


 賀集さんの反応を見て、涼葉さんが状況を察し立ち上がった。


「ご、ごめんなさい! そちらの事情は詳しくわかりませんが……回転寿司が紛い物などと驕り高ぶった発言は撤回します! 申し訳ありません!」


 賀集さんに頭を下げる涼葉さん。


「え、あ! 私はそんなに気にして無いから! 涼葉さんもそんなに重く捉えないで!」


「近日中に必ずねこまた寿司に行き勉強します! 改めて申し訳ありませんでした!」


 涼葉さんの誤りを指摘しながら、賀集さんへのフォローも入れる。

 鳥路さんはやはり凄い人だ……!

 それと、涼葉さんも暴走気味なだけで悪い人ではなさそうだ。素直だし。


「しかし、鳥路くん。一体どこでこのような寿司の作り方を? 私も初めて見るものでね」


 寿司王の言う通り、こんな寿司は俺も見た事がない。


「涼葉さんにそのままのハンバーグ寿司を出しても満足しないと考え、より寿司としての完成度を上げたものを握ってみました。ここは寿司屋ですしね」


「君はまさか……即興でこの寿司を考えたのかね?」


 寿司王が少し驚きながら鳥路さんに問う。 


「はい。味のイメージができれば、実現するのは難しくないので」


 つまり、想像しただけで味がわかって、そのまま作り出せるってこと?

 そんな事可能なのか? ……でも、確かに鳥路さんは涙巻きの時も同じやり方で少し改良したんだよな……それに、スシバトル四天王戦でもその場にある缶詰から色々寿司を生み出していた。もしかしたら鳥路さんは創作寿司の才能もあるのかもしれない。


「これがスシバトル常勝不敗の実力……数多くの寿司屋を黙らせてきたのも頷けます。認めるしかありません、鳥路英莉は伝説の寿司包丁継承戦に出るに相応ふさわしい人だと……!」


 やっぱり話が盛られている気がする。誰からその話を聞いたんだ涼葉さん……

 それに伝説の寿司包丁継承戦?

 鳥路さんも状況を飲み込めていないのか少し首を傾げている。


「やはり鳥路さんを継承戦に……私は反対です」


 司先生は鳥路さんの継承戦参加を強く否定する。伝説の寿司包丁継承戦に何があるんだ?


「まずは本人の意思を確認したい。良いね、梨寿くん?」


「……わかりました」


 寿司王が真剣な表情で司先生を説き伏せる。寿司王が寿司王らしさを見せたと言って良いのだろうか……司先生は納得していない感じだけども。


「さて、本日皆様にお集まり頂いた理由をお話しましょう」


 寿司王は俺達一人一人の顔を見てからゆっくりと語り始める。



「……話は一人の寿司職人の死から始まる」



◇◇◇



 今年の夏。

 一人の寿司職人が闘病の末に亡くなった。

 名前は吉村よしむら修吾しゅうご

 

 吉村は優れた寿司職人であり、包丁の達人であった。

 その卓越した包丁の技は捌いた魚が生きていたと噂される程の実力。

 そして、最後まで吉村が大事にしていた出刃包丁、それが「白蛇しろへび」である。


 明治時代に名も無き刀匠が鍛えたとされるその包丁は、持ち主を大成させる力があると言い伝えられている。現に吉村も寿司職人として成功した人間である。

 

 その吉村が亡くなり、持ち主を失った白蛇であったが……



「実力がある寿司職人に白蛇を託す……それが吉村の遺言だった」


 寿司王が語ってくれた一丁の包丁の話。

 なるほど、これが伝説の寿司包丁継承戦に繋がるんだな……


「そ、それで、その白蛇は今どなたが持っているのですか?」


 金星さんが目を輝かせながら寿司王に質問をする。こういう話が好きなんだ、金星さん……


「吉村のご家族が大切に保管しているよ。しかし、残念ながら親族にも寿司職人はおらず、このような形で後継者を探す事になったわけだ」


 有名な寿司屋なら息子さんとかが継いでそうなのに、そうはならなかったのか。

 色々事情があるのだろうけど、他人が深入りする事でもないか……


「そんな昔の包丁は使い物にならないと思うのですけど」


「鳥路さん!?」


 なんてことを! でも、まぁ、普通に考えればそうだよな。

 包丁の寿命なんてそこまで長く無いだろうし……


「はっはっはっ! そうだろうね! 一応切れ味は健在らしいけど、寿司包丁として使われる事はないだろう! 吉村は一度だけ使ったらしいが……基本的にお店に飾っていたよ」


 豪快に笑い飛ばす寿司王。要するに今の白蛇は伝承を語り継ぐためのシンボルみたいな物になっているのか。


「……勅使河原さんは包丁が人を大成させるという伝承を信じているのですか?」

 

 鳥路さんが訝しみながら寿司王に尋ねる。


「どうだろう。ただ、持ち主は間違いなく一目置かれる。実力と知名度……その両方があれば大成するのは難しくないと思うよ」


「なるほど……」


 今の寿司王の話を聞いて、鳥路さんも少し納得したようだ。

 単なるオカルトって話でもないんだな……


「あの……その包丁と私達がどう関係しているんですか?」


 賀集さんが寿司王に疑問を投げかける。


「……日本寿司罵倒協会。君達は知っているね? 彼らが白蛇を狙っている。それに包丁となれば向こうからはイナリスカウトと呼ばれる凄腕も出てくるだろう」


 イナリスカウト……!

 心が騒つく! スシバトル部の件、俺が撃たれた件、そして今回の函館の一件……すっかり因縁のある相手だ。何が目的かわからないけど、ろくでもない集団に与えて良い包丁ではない! 

 

「我々、寿司を守る会としても味方は多い方が良い。一つの組織に一名の参加を許されているから、君達さえ良ければ……協力をお願いしたい」


 寿司王が俺達に頭を下げる。俺達なんかに頭を下げて良い人じゃない気もするんだけど……覚悟を感じる。それに寿司を守る会か。寿司罵倒協会と敵対している組織のようだし、司先生と寿司王の関係も見えてきた。


「司先生」


 鳥路さんがまっすぐ司先生の目を見る。

 その目は参加の意思を示すのに十分な程、覚悟に満ち溢れていた。


「……」


 司先生は無言で鳥路さんの目を見つめ返す。

 教師としてリスクのある行動は避けたい、でも、生徒の意思は大事にしたい……そんな葛藤を感じる。


「わかったわ。《《寿司王》》、代表者を決めて後日報告します。寿司同好会の皆は明日学校でこの件を話し合いましょう」


 寿司王と寿司同好会のメンバー全員が頷く。

 この場での回答は避ける形になったけど、司先生は参加を許可してくれるようだ。代表は鳥路さんで決まりだろうし。


「……ん? あれ? 寿司同好会? 今日は寿司を守る会の代表を決める話では?」


 首を傾げながら涼葉さんが司先生と寿司王に確認する。


「寿司を守る会の代表はあなたって決まったでしょ」


「誰かの話を盗み聞きして勘違いしとったというのがオチだろう。涼葉はそそっかしいからね」


「……鳥路さんと涼葉さんの寿司勝負は必要なかったって事ですか?」


 俺がこぼした言葉に涼葉さんがハッとした表情を見せる。


「た、大変、ご迷惑を、おかけしました……」


 頭を畳に擦り付ける勢いで謝罪する涼葉さん。

 これには鳥路さんも苦笑い。



 伝説の包丁とそれを狙う寿司罵倒協会、それに寿司を守る会……寿司業界ってこんな事になってたんだな……高校生になってもわからない事だらけだ。


 確認したい事は山ほどあるけど、まずは明日の寿司同好会の集まりだ。

 函館旅行の話とかもしたいし、あとはフレベの事も皆に教えておいた方が良いだろう。

 

 ……寿司勝負の動画を撮るの忘れてた。

 うん、スシバトルじゃないからセーフって事にしておこう。すまん、フレベ。

 


◇◇◇

アナザースシジーニアス おわり

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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