第128話 アナザースシジーニアス③
前回のあらすじ:
高級寿司屋の調理場でハンバーグ寿司を作ろうとしている女子高生がいるらしい。
◆◆◆
「ハンバーグを寿司のネタに!? 何を考えてるんですか鳥路英莉は!?」
鳥路さんがハンバーグで寿司を握ろうとしているという俺達の会話を聞いて涼葉さんが驚きの声を上げる。
「えっと、回転寿司だと普通にあるんだよ? ハンバーグのお寿司」
その声に驚きながらも賀集さんが涼葉さんに現実を教える。
「あんな熱々の物をどうやって握るんです!? 火傷しますよ!」
確かに。
「冷ました状態で玉子と同じ感じで軽く握るか、もしくは乗せるだけって感じね。私も詳しくは無いけど」
司先生が説明してくれた。そういえば噛んだ時に肉汁が溢れる感じじゃないし、熱々の状態では無いなぁ。
「それより、涼葉さん。驚いてませんか?」
元スシバトル部で審査員を何度か務めていた金星さんが涼葉さんが驚いた事に指摘を入れる。俺もちょっと思ってた。これはもう鳥路さんの勝ちで良いでしょう。
「お、驚いてません! 仮に驚いていたとしても、直接鳥路英莉の寿司で驚いたわけでは無いのでノーカウントです!」
「……そういうことにしておきますわ」
涼葉さんは少し慌てながら自己弁護をし、金星さんは一応了承した。
実際今は鳥路さん本人が不在だしなぁ……言い分は通るか。
「しかし、冷めたハンバーグを乗せただけのお寿司ですか……ハンバーグの魅力を殺してるだけではありませんか。ふふ、この勝負、涼葉の勝ちですね!」
勝利宣言には早すぎると思うけど……涼葉さんが言うようにハンバーグ寿司はハンバーグと寿司の魅力がチグハグに融合している気がする。ハンバーグにちょっと味の付いた米の組み合わせが美味しいだけであって、寿司として美味いのかと言われるとちょっと自信が無い。
「全く……ハンバーグの仕込みなら少し時間が掛かるわね。涼葉、その……伝説の寿司包丁について詳しく説明してあげなさい」
空き時間を有効活用して涼葉さんに説明を求める司先生。
伝説の寿司包丁を手に入れるとか何とか言ってたな。
「わかりました。その昔、優秀な刀鍛冶が二丁」
「お待たせ」
「のわああああ!?」
話を遮るように鳥路さんと寿司王が帰ってきた。早くない?
明確にびっくりした涼葉さんをキョトンとしながら見つめる鳥路さん。
鳥路さんはこれでアウト判定にする気はないらしい。相手の土俵で戦いすぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。
「はぁ……はぁ……は、早くないですか!?」
涼葉さんが息を整えてからツッコミを入れる。
鳥路さんの手にはお盆代わりのフライパンの上にお皿に乗った球状のハンバーグのタネっぽいものが数個見える。
そして、寿司王の両腕にはガスコンロとシャリが入ってそうな小さめのおひつが抱えられていた。おひつの上には寿司を作るのに必要な小道具が乗っている。
……この場でハンバーグを焼いて握るってこと?
鳥路さんはガスコンロの上にフライパンだけを置いて火をつける。
そして、腰のあたりから金属製のヘラとプラスチックのフライ返しを取り出した。金属の方はお好み焼きとかをひっくり返すやつだ。
「……二つも必要です?」
俺の疑問を涼葉さんが口にした。
鳥路さんは答えずに箸を使ってハンバーグにしては小さいタネを温まったフライパンの上に置く。すぐに肉の焼ける音と香ばしい匂いが部屋に広がった。
……よく見ると玉ねぎとかが入ってなくて、挽肉を少し丸めただけだな。
「そんなに丸かったら握れなくないですか?」
再び涼葉さんが質問を投げかける。
鳥路さんは、無言で、金属のヘラでハンバーグのタネを……押し潰した!
「な、な、な、何してるんですか!? ハンバーグが泣いてますよ!?」
涼葉さんが鳥路さんの行為に驚く! アウトだろ!
「誰もハンバーグを焼くなんて言ってない」
鳥路さんがハンバーグを否定! じゃあ何を作ろうとしているんだ!?
フライパンの上には薄く引き延ばされた挽肉!
た、確かにこれはハンバーグではない!
鳥路さんはフライ返しでこそぐようにフライパンから挽肉を剥がして裏返す!
濃い茶色は肉によく火が通ってカリカリのお焦げになっている状態!
薄いのですぐに焼き上がり、鳥路さんはフライ返しで回収し、お皿の上に置く。
「ハンバーガーのパティですわね……これ」
金星さんが鳥路さんが作ったそれが何かを口にする。言われてみれば……チェダーチーズが合いそうな見た目をしている。
「ハンバーガー!? 寿司にハンバーガーを乗せるのですか!? 意味がわかりません!」
涼葉さんが常識を破壊されて軽いパニック状態になっている。
……この子はなぜこのルールで鳥路さんに勝負を挑んだんだ?
鳥路さんは酢水で右手を濡らしてからシャリ玉を作り始め、その間に左手に……ハンバーガーのパティを乗せる。
そこからはいつものように綺麗なフォームで握りを始める。
「ほ、本手返し!?」
ここでも良い反応を見せる涼葉さん。だんだん面白くなってきた。
ただ、鳥路さんはここでもアウト判定を出さない。ここまで来たら寿司の味だけで勝負を決めるつもりのようだ。
鳥路さんはしっかりアーチ状に握られたパティの寿司を小皿に置き、すりおろしたワサビを寿司の上に乗せた。ちょっとワサビ多めじゃない?
「名前は……ハンバーガーの肉だけ寿司とかで良いかな。醤油でどうぞ」
鳥路さんが適当に名付けた寿司を涼葉さんに差し出す!
「なるほど、肉寿司の弱点をこういう形で解決したのか。面白い!」
完成した寿司を見て寿司王が頷く。肉寿司……確かに肉寿司だこれ。
「か、回転寿司ではこんなものが出てくるんですか?」
涼葉さんの疑問に寿司同好会のメンバーは全員が首を横に振る。
「とにかく、味です! 味ですよ! こんなメチャクチャな調理方法で作られたお寿司が美味しいはずがありません!」
涼葉さんが肉寿司を手に取り、醤油を少し付けて口に放り込む。
……流石に食べてる時は静かだ。
食べ終わって飲み込んでからも、少しだけ沈黙が続く。
「……香ばしい牛挽肉がシャリの酸味と甘味と合わさって、上品な牛そぼろを食べたような……それに牛肉の脂もワサビで洗い流されてしつこくない……いや、ワサビが味を引き締めている! す、寿司として成り立ってる……!? 何これ!?」
食レポもお上手でいらっしゃる。
「今、驚いた」
鳥路さんはすかさず涼葉さんを指摘!
「あ……ああ!?」
涼葉さんは咄嗟に口を押さえるも時すでに遅し!
このスシバ……寿司勝負は鳥路さんの勝ちだ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




