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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
125/174

第125話 スシバレットトレイン⑤

前回のあらすじ:

鳥路英莉は定時で帰りたい。


◆◆◆


「次に、マグロを頂くかな……ふむ、ホタテと変わらず見事な握りだ。しかし、問題は口の中でどうなるか」


 寿司王は鳥路さんの寿司をじっくり吟味しながら口に入れた。

 鳥路さんは早く食えと言ってそうな目でそれを見ている。


「おお……解けるような程よい握り……! そしてシャリの分量もホタテと同じ! 素晴らしい!」


 寿司王は鳥路さんの技量を褒める! 周囲のギャラリーはそれを聞いて盛り上がる!


「すげぇ! 寿司王が褒めてるぞ!」


「口の中でシャリの量がわかるなんて人間離れしてるわ!」


田中たなかひとし……これは次に来る寿司職人に違いない! 要チェックだ!」


 多分そいつは来ないと思う。

 それにしても有名人に褒められても顔色ひとつ変えない鳥路さん。

 俺だったら嬉々《きき》として飛び跳ねていそうなのに……鳥路さんって、あんまり承認欲求が無いよな。でも、IKASUSHIに勝った時は喜んでたし……うーん、わからん。


「最後に涙巻き。これは包丁で切らずに小さく巻いたのか……器用なものだ」


 長いのを一本まんまで出さなかった鳥路さんの心配こころくばりが見える。


「では一つ」


 寿司王が涙巻きの一つを一口で食べた。


「むっ!」


 寿司王のカッと見開く!


「こりゃあ! 効く!」


 そりゃワサビ巻いただけだし……鳥路さんも俺と同じ事考えてそう。


「なるほど……! 細巻きを包丁で切らなかったのはワサビの辛味を極力逃がさないためか! 皮を粗く剥いてすりおろした事によって風味が力強い! さらに細切りのワサビで食感も与えつつ、噛む事で新鮮な香りを解き放つ隙の無さ……! 見事だ!」


 湧き上がるギャラリー! 新幹線の車内ぐらい静かにしてほしい。この車両の人達は高い席料払ってるから良いのか? とにかく、包丁を使わなかった事で良い感じの涙巻きになったようだ。

 結果的に鳥路さんは三品全てで寿司王を満足させた。これはもう勝ったと言って良いだろう!


「この寿司王を唸らせる若き才能! どこの寿司屋で食べられるのかね!?」


 鳥路さんは寿司王に気に入られたようだ。しかし、残念ながら……


「私は寿司屋で働いていません」


 鳥路さんは普通の女子高生だ。ただ人より寿司に拘りが強いだけで……


「ふむ。では、最近復活した、すしばとらぁ、という奴なのかな?」


 この感じ、寿司王も過去のスシバトルについて何か知っているようだ。


「スシバトラーでもありません」

 

 鳥路さんの返答に周囲から困惑の声が聞こえる。


「あれだけの寿司で未所属の一般人!?」


「一体何者なんだ、あの子……」


「あれ? でもどこかで見たことあるんだよなぁ……最近……」


 まずい。鳥路さんの正体がバレる!


「すみません。他に業務がありますので、これで失礼いたします」


 鳥路さんは寿司王に深くお辞儀をして、この場から立ち去ろうとする!


「これは失礼。では最後に一つだけ。君はなぜ寿司を握るのかね?」


 寿司王が立ち上がり、鳥路さんに寿司を握る意味を問う!


「……そこに美味い寿司が無いから」


 鳥路さんは顔だけ振り向かせ寿司王の問いに答える。

 鳥路さんは基本的に食べる事を優先している。でも、そこに寿司が無ければ自分で握るというスタンスなのだろう。

 寿司職人でもなく、スシバトラーでも無い。単純に鳥路さんは……美味しい寿司を食べたいだけなのかもしれない。

 

 そんな事を考えていたら、あっという間に鳥路さんとワゴンに距離を離されていた。


「泉さん、俺達もそろそろ……」


「そ、そうですね。お二人は先に外で待っていてください! 私は空き皿を回収してから行きますので!」


 泉さんの指示に従い、俺も鳥路さんを追いかけ……


「そこの君」


 寿司王に呼び止められた。俺!?


「な、何でしょうか?」


「これを彼女に」


 寿司王に手渡されたものは……名刺か。


「はい、渡しておきます……」


 俺の返事を聞くと寿司王は俺の耳元にゆっくりと顔を近づける! 何!?


「……鳥路くんによろしくね」


「えっ!?」


 寿司王が鳥路さんの名前を知っている!? 最初から気付いていたのか!? 

 いや何で知ってるの!?


「近い内にまた会おう。山本くん!」


 にかっと笑う寿司王。

 俺の名前まで!? な、なんだこの人!? どうして俺達の名前を!?


「え、縁があれば……ははっ」


 動揺して声が裏返りそうになった。


「いや、あるさ。割とすぐにね! はっはっはっ!」


 豪快に笑いながら寿司王は自分の席に座った。

 ど、どう言う事ですか!?

 ……山葵をすりおろしてただけの奴に寿司王が話しかけていたので、不思議に思った周囲の人達が俺を見つめている。


 俺は鳥路さんのいるワゴンまで駆け寄り、立ち止まって鳥路さんと一緒に一礼してから逃げるように外に出るのであった。



◇◇◇



「え!? あの人、私の事を知っていたの!?」


「うん。俺の名前も知っていたし……」


「はああああ……」


 車両間の通路で鳥路さんに先程の出来事を共有する。

 必死の偽装が全て無駄だったため、鳥路さんは大きく溜息をついた。

 まぁ、その、田中たなかひとしは無理だったと思う。


「ああ、あとこれ、鳥路さんに。名刺みたいだけど」


 鳥路さんに寿司王から託された名刺を渡す。


「……銀座ぎんざ宗鮨そうずし。あの人のお店の名刺?」


 寿司王が寿司王たる所以。銀座にある超高級寿司屋の名前だ。一見さんお断り的な庶民に縁の無いお店だったと思う。

 鳥路さんは名刺を両手で持って怪訝そうな目で見つめている。本物だとは思うけど……


「お二人とも! ありがとうございます! 勅使河原様も大変喜んでいました!」


 満面の笑みの泉さんが俺達と合流する。何にせよこの危機を乗り越えられて良かった。


「寿司王が想像よりも良い人で助かりました……」


「泉さんは早く代わりの寿司職人を探した方が良い」


「あはは……それは……本当にそうですね……」


 今回は一時凌ぎ。泉さんにはチャラ男の代わりを早く見つけて欲しいものだ。

 泉さんの仕事でも無い気がするけど。


「とにかく! 大変助かりました! 協力金は後程お座席にお持ちしますので! 本日は誠に、誠にありがとうございました!」


 泉さんがビシッと深いお辞儀をする。これで一件落着だな。


「……おや? そちらの名刺、裏側に手書きで何か書かれていますよ?」


 泉さんが頭を上げる時に鳥路さんが持っていた名刺に何かが書かれている事に気づく。

 鳥路さんが名刺を裏返したので、俺も横から名刺の裏面を確認する。


「……八月八日、正午、桶ヶ丘高校寿司同好会五名をご招待……?」


 鳥路さんがボールペンで書かれた文章を読み上げる。文章の最後には寿司王のサインのような記号が書かれている。日付は四日後……これって……


「え!? 銀座宗鮨に寿司王直々のご招待を受けた感じですか!? 良いなぁ!」


 泉さんが全く感情を隠さずに羨ましがる。

 が、唐突すぎて俺も鳥路さんも実感が湧いていない。

 五人って事は司先生も含まれてる……? 金星さんのメイドさんのほたるさんは部員じゃないし……


「これ……行くしか無いよね?」


 鳥路さんに出欠を確認する。


「……」


 行けば確実に面倒事が待ち構えている。が、銀座宗鮨の寿司という魅力が鳥路さんに再び苦渋の選択を迫る!


「……行く」


 鳥路さんは高級寿司に屈した。




◇◇◇

スシバレットトレイン おわり







「ちょっと! なぜそんな面白いシーンを撮影していないのですか!? アオイの無能! 人間!」


 私服に着替え、自分達の席に戻ってから何が起きたかをフレベに説明していたら、唐突に怒られた。無能はともかく、人間っていう罵倒はどうなんだ……?


「し、仕方ないじゃないか! 接客中にスマホ構えて鳥路さんを撮るわけにもいかないだろ!」


「はぁー……しっかりしてくださいよね」


 人を小馬鹿にした表情でヤレヤレみたいなポーズをするフレベ。

 くそ、実体があればデコピンを食らわせてやれるのに……


「……あ、充電切れそう」


 鳥路さんのスマホのバッテリー表示が赤くなっている……というか1%って見える。どうやらフレベ起動中はバッテリーの消費が激しいようだ。


「んん!? エリ! 充電してください! 通信が切れるんですけど!」


「……」


「エリ? ちょっと、エリ? 聞いてま」


 鳥路さんのスマホの電源が落ちた。鳥路さんはそのままスマホを鞄の中に仕舞う。


「……充電しないの?」


「賑やかなのも悪く無いけど……その、ゆっくりお話したいし」


 鳥路さんは窓の景色を眺めながらそう言った。


「あ……ああ! そうだね!」


 鳥路さんの意図を汲み取り、残りの時間は二人で過ごす事にした。


 ……途中、俺のスマホに何度もフレベからメールが届いたけど全部無視した。

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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