第120話 ジャパンスシインサルトアソシエーション⑥
前回のあらすじ:
SNS映え海鮮丼対決は鳥路さんの圧勝に終わった。
◆◆◆
「やったね鳥路さん! あ、ごめん、食べ終わってからで大丈夫」
自分で作った海鮮丼を頬張る鳥路さんが頷く。ヒヤッとするシーンはあったけど、結果的に圧勝だ。日本寿司罵倒協会……大した事ないのかも?
何にせよ、スシバトルに負けたチャラ男もこれで大人しくなるだろう。
「……キエエエエエエ!」
発狂したかのような奇声を発しながらチャラ男は取り巻きの女性からカメラを奪い取り床に叩きつけ破壊! そのままノートPCも膝でへし折り破壊!
「な、何やってんだ!?」
敗北で頭がおかしくなったのか!?
「こんな勝負認められるか……! こっから先はオフレコだ! 最終的に目的を達成できればそれで良いんだよ!」
ホルスターからもう片方の包丁を取り出し、二刀流の構えを取るチャラ男!
何をする気だ!?
「俺の包丁はなぁ……数多くの命を屠ってきた、血に飢えた妖刀だぜ!」
舌でべろりと包丁を舐めるチャラ男。そりゃ包丁だから魚とかの命は屠ってそうだけど……そんな呑気な事考えてる場合じゃない! こいつ! スシバトルの掟を無視して暴力で解決する気だ!
「良い大人が往生際の悪い……」
鳥路さんが呆れたように首を横に振る。
「それになぁ! 俺のバックにはそれはもう怖い人達が控えている! 大人しく俺の言う事を聞いておいた方が長生きできるぜぇ?」
背後に反社をチラつかせてるつもりか……? 寿司罵倒協会の事かもしれないけど、似たようなもんだろ。
「店の権利書だよ! 店の権利書! 俺の気が変わらねぇ内にさっさと出しな!」
チャラ男が厨房にいるご主人に聞こえるように大声で恐喝!
スシバトルに負けたらこれかよ! 寿司罵倒協会は本当にろくでもないな!
でもどうしたら良い!? 相手は凶器を持っていて危険すぎる!
万が一があったらやばい。俺は鳥路さんをチャラ男から隠すように一歩前に出る。
「あ、あー。聞こえますかー? エリの大勝利だと思ったら配信が切れてしまったのですが。何かありましたか?」
鳥路さんの鞄から女性の声が聞こえてくる。この声……フレベか!?
「だ、誰だ!? 出てきやがれ!」
声だけの存在に驚いたチャラ男が包丁を構えたまま周囲を威圧する。
「フレースヴェルグ、スシバトルに負けた男が包丁を持って暴れている。警察を呼んで」
鳥路さんがフレベに警察を呼ぶように指示! 冷静!
「ま、待て! 警察なんかじゃ俺は止めれねぇぜ! なんせ俺の背後には警察の権力すら通用しない巨大な組織があるからなぁ!」
一気に胡散臭くなった。色々言いたい事はあるけど、こいつは包丁を握ってるし……下手に刺激するのはまずい。
「スシバトルチャンネル仁さん。本名、田中仁、二十六歳。高校卒業後は就職がうまく行かず、すすきのでホストに。ですが、二年前にお店のお金を横領してクビに。今は無職のようですが……どのような組織がこの男の背後にあるのですか?」
フレべがチャラ男の個人情報を陳列。
「な!? な!? なぁっ!?」
動揺するチャラ男。全部事実のようだ……
「ちょっと! 仁くん!? 嘘ついてたわけ!?」
「流れの寿司職人じゃないの!?」
「手伝ったらバイト代弾むってのも嘘!?」
一応味方だった取り巻きの女性達から問い詰められ、たじろぐチャラ男。
「ち、違う! でたらめ! 全部でたらめだ! 誰だか知らないが全部嘘だ! 俺は! 俺は最強スシバトラー仁! なんだああああ!」
「きゃあ!」
包丁を振り回し女性達を退けさせるチャラ男。
危険を察知した元合コン参加者の男性達が女性達を安全圏に退避させる。
「とんでもねぇペテン師だ!」
「女の子に手をあげるなんて許せねぇ!」
人間追い詰められた時に本性が出ると言うけど……取り巻きの女性達は素直に合コンに参加するべきだったようだ。
「あ、勿論、警察は呼んでますからご安心ください! それにしてもヒトシはこの二年間何をされていたのですか? 調べても何も出てこないんですよ。もしかして、二年間ずっと胡瓜で彫刻を?」
フレべが無邪気にチャラ男を刺激する! やめて!
「か、か、か、関係ないだろ! 俺が何してようが勝手だろ!」
俺の予想とは異なり、チャラ男は暴れたりせず何かにひどく怯えた様子を見せる。
「くそっ! やってられるか! 逃げた方がマシだ! お前らのせいでめちゃくちゃだよ!」
チャラ男は入り口の扉に向かって駆け出す!
その時! 扉が開かれ、何者かがチャラ男の前に立ち塞がった!
「ひ!? あ、あんたは……あなた様がなぜここに!?」
白い狐のお面に、黒いフード付きのコート……!
「イナリスカウト……!」
鳥路さんが来訪者の名前を叫ぶ!
神奈川で俺にソルトガンを撃ち込んだ犯人……! なぜ函館に!?
「……」
イナリスカウトは無言で大型のソルトガンを構え、銃口をチャラ男のみぞおちに向ける。
腰を抜かして床に倒れ込むチャラ男。
「ま、待ってくれ! 次は成功させる! どんな手を使ってでもこの店の権利書を手に」
大きな破裂音!
チャラ男の上半身が床に叩きつけられ、頭部が数回床でバウンドする!
イナリスカウトはショットガンと同じやり方で大型ソルトガンをリロードし、再び至近距離で無慈悲に発砲!
イナリスカウトはそれを三回繰り返すと、チャラ男はついにピクリとも動かなくなった。
し、死んでないよね……?
「ご安心ください。非致死性のソルトガンです」
イナリスカウトはそう言いながら、コートの下にソルトガンを仕舞った。
「……この男は日本寿司罵倒協会とは無関係。良いですね?」
目撃者全員に静かな圧力を掛けるイナリスカウト。大人達は無言で頷く。
「仲間がスシバトルに負けたら毎回こんな事をしているの?」
鳥路さんがイナリスカウトを睨みながら沈黙を破る。
「まさか。それよりも、あなたには良い物を見せて頂きました。そのお礼として我々は今後このお店に関わらない事を約束しましょう。他にやる事もできましたしね」
そう言ってイナリスカウトは店から立ち去ろうとする。
「待て! 俺の顔を忘れたとは言わせないぞ! もうすぐ警察が来る! あの日の罪も償って貰うからな!」
「……子供の知り合いは居ないはずなのですがね」
イナリスカウトは一瞬足を止めたがすぐに走り去ってしまった。
慌てて店の外まで追いかけて周囲を見渡すも、既にイナリスカウトの姿はどこにも無かった。
「くそ! 馬鹿にしやがって!」
また逃げられてしまった……!
「山本くん!」
鳥路さんが俺の隣に駆け寄ってきてくれた。
「寿司罵倒協会……何が目的なんだよ……!」
鳥路さんもわからないと首を横に振る。
「エリに言われた通り救急車も呼びましたけど……本当に何が起きているんですか?」
鳥路さんの右手に握られたスマートフォンからフレベの声が聞こえる。
俺達がこの状況を整理してフレベに伝えるには……少し時間が必要だった。
◇◇◇
ジャパンスシインサルトアソシエーション おわり
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




