第121話 スシバレットトレイン①
福福寿司の騒動は想像よりも早く収束した。
イナリスカウトに撃たれたチャラ男は命に別状はなかったものの、入院が必要な程度の怪我は負っていたらしい。今後チャラ男がどうなるかは知った事ではないが、まともな人間になって欲しいと願うばかりだ。
俺達も関係者として警察に事情聴取されたけど、事務的な確認だけであっさりと解放された。学校での襲撃の時はもっと色々聞かれたのに……もしかしたら寿司罵倒協会が裏で何かしているのだろうか?
一番大事な話を忘れていた。鳥路さんと俺は無事かんぴょうを巻を食べる事ができた。福福寿司のご主人がかんぴょう巻を包んで帰り際に俺達に渡してくれたのだ。
ホテルの個室で食べたかんぴょう巻はその日の疲れやら何やらを癒してくれる美味しさがあった。その事を翌朝鳥路さんに伝えたら俺と同じ感想を抱いていたと教えてくれた。
一悶着あった函館旅行だけど、個人的には結構楽しかった。
神奈川に戻ったら寿司同好会の皆に色々報告しないとな……
◇◇◇
「だぁーっ! 間に合った! ホテルの朝食食べなきゃよかった! 何あの大きさ!?」
「でも美味しかった」
駅に向かう前に例のハンバーガー店に行き、かなり早い昼食を済ませることにしたのだけど、記念だからとタワーのように具材が積まれたハンバーガーに挑戦したのが間違いだった。鳥路さんはペロリと完食したけど、俺はかなり苦しかった。完食するのに時間がかかり、危うく帰りの新幹線に乗り遅れる所だった。実際は出発の10分ほど前にホームに着いていたのだけど、余裕のある行動では無い。乗り換えも一回あったので少し焦った。
……鳥路さんはちゃっかり駅弁買ってるし。どうなってるんだ、その体。
「とりあえず、これで四時間ぐらいはゆっくりできるなぁ……」
飛行機だと一時間半の距離らしいけど、急いでいる旅でも無いし、鳥路さんとおしゃべりしながら過ごすのも悪く無いだろう。別に俺が飛行機が怖いから陸路にして貰ったとかでは無い。我慢すれば飛行機ぐらい乗れるし。
鳥路さんは流石にすぐには駅弁に手を出さず、お茶を一口飲んでから、鞄からスマホを取り出した。
「新幹線に乗れたようですね! 暇潰しにゲームでもしますか? 私は強いですよ!」
フレベがいるのを忘れていた。いつの間にか俺達に同行する感じで鳥路さんのスマホに取り憑いている。実体が無いのが救いだろうか……
「そうだ。鳥路さん、昨日の海鮮丼。大鷲の翼だっけ? なんでフレベをモチーフにしたの?」
紅白のカラーリングに大鷲を冠した名前。真実の大鷲を自称するフレベを参考にしたものだと後々気付いた。
「映えって何? って聞いたら『私です!』って言うから……」
「この美麗な3Dモデル! 細部まで拘った衣装! 映えとはまさに私の事です!」
両手を胸元に置いてドヤ顔を決めるフレベ。
……AIは高度化すると馬鹿になるのかもしれない。昨日のスシバトルは鳥路さんのセンスで何とかなった感じか。
「フレースヴェルグ。日本寿司罵倒協会について何かわかった?」
鳥路さんがフレベに尋ねる。そういえば、フレベに寿司罵倒協会の事を調べさせていたのを忘れていた。
昨日の夜、自分達でも何を言っているか理解に苦しむ寿司罵倒協会の凶行をフレベに説明するのに非常に苦労した事を思い出した。
「残念ながら、定期的に寿司屋にスシバトルを仕掛けている事ぐらいしかわかりませんでした!」
もう知ってる。でも、変に誤情報を教えられるよりはマシか……
「あれ? でも、昨日は襲撃場所を特定したよね?」
福福寿司に寿司罵倒協会が来ると言ったのはフレベだ。その事を思い出して確認する。
「その声はアオイですか? 逆に言うと計画表だけしかわからなかったのです! しかも何重にも暗号化していて閲覧するのに時間が掛かりました! 他にも開けたファイルはあったのですが、私でも読めない言葉で書かれていてさっぱりです!」
それでもそこまでわかるんだから凄いAIだ。
「他の寿司屋の人も寿司罵倒協会の存在を知っていた。何かしら手がかりがあるものかと……」
鳥路さんの言う通り、初日にスシバトルしたお店のご主人は寿司罵倒協会の存在を知っていた。それなのに、フレベが見つけられなかったという事は……
「インターネットを介さずに情報をやり取りしてる組織……? それか、他の別の組織に擬態して原始的な暗号を使って活動しているとか?」
「とても良い推理だと思います! 私の力を持ってしてもわからなかった原因として十分です!」
「さすが山本くん」
フレベと鳥路さんに褒められた。悪い気はしないな。
「そうなると、司先生に一度話を聞いた方が良さそうだね……」
「先生なら詳しそう」
司先生は俺達が所属する寿司同好会の顧問をしてくれている桶ヶ丘高校の教師だ。
過去にスシバトルをしていたらしく色々と詳しい。それに今も寿司罵倒協会に対抗する組織に所属しているような事を俺には話してくれた。
「私の方は不服ですがニックにも手伝ってもらいましょう。計画表はお二人のメールに送っておきます! 何かわかったら私にも教えてくださいね!」
誰だニックって。海外の人?
まぁ良いか。計画表は後で確認しておこう。人間目線だからこそ気付ける事があるかもしれない。
「そろそろ駅弁を食べようかな……」
鳥路さんの目線が駅弁に移る。まだそんなに時間経って無いと思うんだけど……
鳥路さんが駅弁に手を伸ばしたその時、客室乗務員の女性が慌てた様子で俺達のいる車内に飛び込んできた。
「お客様の中に寿司職人かスシバトラーの方はいらっしゃいませんか!?」
鳥路さんの手が止まってしまった。
俺も何を言っているのか理解できなくて思考が停止した……
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




