第119話 ジャパンスシインサルトアソシエーション⑤
前回のあらすじ:
鳥路さんとチャラ男の仁がスシバトルをすることに。
◆◆◆
「スシバトルのルールは……ズバリ、SNS映えする海鮮丼だ!」
落ち着きを取り戻したチャラ男はカメラを気にしながらスシバトルのお題を鳥路さんに伝える。
「SNS映え……?」
鳥路さんはそういうの気にしてなさそうだな。妹の輝理がこの場にいたら鳥路さんに的確なアドバイスをしてくれただろう。
「この配信に相応しい……そう! 俺のように美しい海鮮丼を作るだけだ!」
どんな海鮮丼だ……とにかく芸術面を重視したスシバトルという事だろうか。
「勝敗はこの配信の視聴者に決めてもらう。食材は自由だ、この寿司屋にあるものを好きに使うと良い! 金はどうにでもなるからな!」
鳥路さんがご主人の方を見ると好きにしてくれと右手でOKサインを返してくれた。
「わかった。そのルールでやろう」
鳥路さんがチャラ男の提案に同意!
「くっくっく……映えで俺に勝てると思うなよ、ガキ! スシバトル! 開始だ!」
チャラ男の宣言でギャラリーが湧き上がる!
開始と同時に鳥路さんはカウンターを乗り越え、調理場からガラスケースの寿司ネタを集め始める! 相変わらずの身のこなしだ。
一方、チャラ男はゆっくりと調理場に入り、冷蔵庫の野菜室を開けてきゅうりを一本手に取った。きゅうり!?
「食材集めか、結構! だがなぁ! 映え勝負で何がモノを言うのか……! おたくはわかっちゃいねぇ!」
チャラ男は両手で白いスーツを脱ぐと、ホルスターのような装備に包丁が二本納まっていた! チャラ男の派手なパフォーマンスで取り巻きの女性陣から黄色い声援が飛ぶ!
大きさの違う二本の包丁は……多分、太いのが出刃包丁で細いのが柳刃包丁とかいうやつだ!
「キエエエエエエ!」
チャラ男は奇声を発しながら柳刃包丁を使い、ものすごい速さできゅうりを刻む……違う! 千切れない程度に切り込みを入れている!
更にきゅうりの先端に何度も刃先を通していくと、気付けば見事な龍の頭が出来上がっていた!
チャラ男は海鮮丼用サイズの黒塗りの寿司桶にシャリを盛り付け、作った龍をそこに置く。龍の胴体は蛇腹状になっており、少し曲げるだけで生命力を感じる躍動感が表現される。す、すごい!
「キャアアアア! 仁くんカッコイイ!」
「流れの寿司職人っていうのは本当だったのね!」
「同接数がすごい事になってる! 私達は超大型インフルエンサー誕生の現場に立ち会っているのね!?」
取り巻きの女性達が盛り上がる!
「ちっ、チャラ男のくせに普通につえーのかよ!」
「そこは噛ませみたいな腕前であれよ!」
元合コンの男性陣からはアンチコメントが飛び出す!
「どうだ! 俺のカービングテクは! さらに俺の映えはこれだけじゃねぇぞ! ガールズ! カモン!」
チャラ男が指を鳴らすと、取り巻きの女性の一人が小さめのクーラーボックスをチャラ男に手渡す。チャラ男がそこから取り出したのは……瓶詰めのイクラ!
「も、持ち込みなんて卑怯だぞ!」
鳥路さんは慣れないお店で勝負しているのに!
「食材は自由と言ったはずだぜ! 用意してないそっちが悪い!」
チャラ男は瓶の蓋を開け、そのまま豪快にいくらをシャリの上にかける!
まるで龍が無数の龍玉を抱いて守っているような構図……! ば、映えそうだ。
「これが俺の作品! 『イクラを守る胡瓜龍』だ! ふはは! これが大人の実力ってやつだ!」
このチャラ男、見た目によらず実力派だ……! 鳥路さんはこれにどんな反応を!?
「……」
……鳥路さんはチャラ男を無視してスマホを操作していた。
「お、おい。お前、何してんの?」
鳥路さんのまさかの行動にチャラ男が動揺している!
「調べ物。今終わった」
鳥路さんはスマホを軽く放り投げると、スマホは綺麗に鞄の中に音も無く納まった。
「何?」
「み、見ろ! これが俺の作品! 『イクラを守る胡瓜龍』だ!」
チャラ男がもう一度作品名を叫ぶ! 今度はちゃんと鳥路さんも見ている!
「……ふっ」
鳥路さんはそれを見て鼻で笑った。
まるでお話にならないと言わんばかりの表情だ!
「何がおかしい!」
「おままごとレベルで自慢されたら笑いもする」
鳥路さんの辛辣な返し! チャラ男が怒りで顔が真っ赤になる!
「て、てめぇ! 材料だけ集めて何も作ってねぇくせに! 口だけなんじゃねぇのか!? ああ!?」
チャラ男の言う通り、鳥路さんの手元にある海鮮丼の器にはシャリが盛られているだけで、肝心の具材がまだ載っていない。何なら具材の切り分けもまだのようだ。
「映えに疎くて調べていただけだ」
やっぱり映えに詳しくなかった鳥路さん。
「……でも、理解した」
鳥路さんは手を洗い、調理場に置かれていた包丁……出刃包丁を手に取り、サクのマグロを切り分け始める! 鳥路さんは握りだけじゃない! 全ての所作が美しい!
「じょ、嬢ちゃん! 柳刃じゃ無くて良いのかい!?」
ご主人が細身の柳刃包丁を手に取り、鳥路さんに確認する。
「普段から使い慣れている方が良い。お気遣いありがとうございます」
鳥路さんは丁重に断る。鳥路さんが普段愛用している包丁「スッシーフィン」は出刃包丁的な万能包丁だったと記憶している。
鳥路さんによって切り分けられた刺身は切断面が綺麗で、まるで宝石のような輝きを見せる。
派手さは無いけれど、鳥路さんは実力でギャラリーを黙らせる!
「職人顔負けの包丁さばきだ!」
「何もんだ!? あの嬢ちゃん!?」
「じ、仁くんよりカッコよくない?」
「女の子よ!? いや、わ、わかるけど!」
黙ってなかった。
……けど、鳥路さんの実力はわかって貰えたようだ。
「出刃で引くなんて……ふざけた真似を!」
包丁に自信のありそうなチャラ男がそう言うなら、鳥路さんはイレギュラーな事をやっているっぽいな。
寿司屋でスシバトルする時は鳥路さんも細い方を使ってた気がするけど……切っているのがマグロとかハマチみたいに比較的丈夫そうな身だから大丈夫なのかな。
鳥路さんが切り終えた刺身を器に盛り付け始める! チャラ男みたいに何か添え物を置く様子は無いようだ!
「カービング無しで俺に勝てると思っているのか! 映え勝負だって事を忘れているようだな!」
その様子を見たチャラ男が吠える!
「味と見栄えも両立できない程度のサンシタ……大した事ないな、寿司罵倒協会は」
「なっ!?」
鳥路さんの言葉にチャラ男がわずかに慌てた表情を見せる。
サンシタ呼ばわりでの反応では無い……寿司罵倒協会に反応したのか?
チャラ男が何か言い返す前に鳥路さんは盛り付けを終える!
「名前を付けるなら……大鷲の翼」
マグロの赤身、中トロ、大トロ! そこにハマチやタイといった白身が加わり綺麗な紅白のグラデーションが生まれる! そして黄金比の構図のように盛り付けられたそれらはまるで鳥の翼! 寿司桶という小さなキャンパスにここまで表現できるというのか!?
「美しい……これが本当に料理なのか?」
「しかも美味しそう! あ、いや、仁くんのもだけど……」
「でもよぉ、嬢ちゃんのに比べるといくら丼の方は龍が凝っているだけで、何も面白味がないよな……」
「そうかも……」
取り巻きの女性達も正気に戻すほど鳥路さん優勢だ!
「なんだこのスシ圧……素人じゃねぇのか!? いや! まだだ! この狭い空間の評価なんて何の価値もねぇ! インターネットの意見こそ全て! おい! 今すぐアンケートを開始しろ! 制限時間一分だ!」
「は、はい!」
女性の一人がチャラ男に言われてPCを操作し始める。配信でたまに見る視聴者アンケート機能だろうか。
「くっくっくっ……はーっはっはっ! お前は最初から負けてるんだよ! 俺のチャンネルに集まってる視聴者だぞ! 俺の作品に投票するに決まってるよなぁ!?」
しまった! そこまで計算されたルールだったのか!
「泣いて土下座しろ! ガキが大人に歯向かうからこうなるって事を悔いながらなぁ!」
勝ちを確信したのかチャラ男は鳥路さんに土下座を要求!
……無論、鳥路さんはそんなもの無視して、使った道具の片付けを始めていた。
「アンケート! 結果出ました!」
女性が声を上げる! 決着の時だ!
「読み上げろ! 俺の圧勝をこの場にいる馬鹿どもに教えてやれ!」
高笑いするチャラ男!
「じ、仁くんの海鮮丼は9票! 女の子の海鮮丼は……18,712票! 女の子の圧勝です! 投票者の99.9%が女の子支持です!」
「なんでだよぉおおおおおお!?」
崩れ落ちるチャラ男。
というか、見てる人がめちゃくちゃ増えてるな……
「食べる人の気持ちを無視した浅はかな映えが画面越しでも見透かされただけだ。何も不思議な事では無い」
床に転がるチャラ男を見下しながら、鳥路さんは自分で作った海鮮丼を食べ始める。
SNS映え勝負! 鳥路さんの圧勝だ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




