第118話 ジャパンスシインサルトアソシエーション④
前回のあらすじ:
チャラ男が入店、店の権利書を注文。
◆◆◆
「み、店の権利書だって!? 何をふざけた事を! 冷やかしなら帰ってくれないか!」
チャラ男の無茶な要求にご主人が当然の反応を見せる。
「あ、あいつが連れてる女の子達! 俺らの合コンメンバーじゃね!?」
「どう言うつもりだテメーっ!」
座敷の男性達が声を荒げる。横取りされている状態なら……こちらもまぁ、当然の反応である。
「合コンにこんなシケた寿司屋を選ぶ君達のセンスが良くない!」
「何だとぉ!?」
売り言葉に買い言葉。和やかだった寿司屋の空気が一変する。というか、チャラ男は結局その寿司屋に女性達を連れてきているんだから同類なのでは? いや、このお店をシケたなんて評価をする事がそもそも許されない!
「うっ!?」
殺気を感じ、その発生元の方を見ると、鳥路さんが周囲の喧騒を無視するように……出てきそうにないかんぴょう巻を待つかのように、深呼吸をしながら目を瞑っていた!
俺にはわかる。鳥路さんはキレかけている……!
「もちろんタダで権利書を貰おうとは思ってはいないさ。おたくが美味い寿司を握れるってんなら見逃してやっても良い」
鳥路さんの殺気を感じていないのかチャラ男はご主人との会話に戻る。
「見逃すも何も……あんたに何の権利があって、そんな無茶苦茶な事を……」
ご主人が正論を述べる。でも、ダメだ。こいつにはきっと正論が通じない!
「おたくは逃げられないのさ……今! この場所は! スシバトルオンライブになるのだから! ガールズよろしく!」
ほらぁ!
「す、スシバトルだ!」
「まさかスシバトルを生配信するのかあの男!?」
テーブル席でお酒を飲んでいたおじさん達がスシバトルと聞いて立ち上がった。
さらに、チャラ男の取り巻きの女性達がカメラやマイクやらを取り出し配信の準備を始める。
「スシバトル!? な、何だそれは!?」
ご主人がスシバトルの勢いに困惑している。やっぱ知らない人の方が多いと思うんだよね、スシバトル……
「仁くん! 準備できたわよ!」
「言われた通りセットしたわ!」
「早く終わらせてよね! 良い所に連れてってくれるんでしょ?」
チャラ男に黄色い声援を送る女性達。
この男のどこが良いんだ? 俺が男だからわからないだけなのだろうか……
「おうけぇい! よぉし、カメラを回してくれ!」
チャラ男が右手で指を弾くと、女性の一人がノートPCに繋がったビデオカメラでチャラを撮り始める。
「どうもー! スシバトルチャンネルのぉ……仁でぇす! 今日は函館の福福寿司にスシバトルをしにぃ……やぁって来ましたー!」
始まってしまった……喋り方がより一層うざくなる。
「おい! 待て! こっちはスシバトルをするなんて言ってないぞ!」
チャラ男の身勝手さにご主人も怒りを露わにする。
「ちょちょちょ! だめだめぇ! 視聴者は俺とおたくのスシバトルを楽しみにしてんだからよぉ! ガールズ! 今同接何人!?」
「九人です!」
こんなのに九人も集まるのかという気持ちになった。九人しかと言って良いかわからない。
「それとも? おたくって寿司に自信が無いからそんな弱気な事言ってんじゃないの? 腕に自信のある職人はみんなやってるよ? ス・シ・バ・ト・ル!」
あからさまな挑発! 乗っちゃ駄目だ、ご主人!
「ぐうっ……! そこまで言われて黙っていられるか! やってやろうじゃないか! その……スシバトルやらを!」
ご主人の言葉を聞いてチャラ男がニヤッと笑ったのを俺は見逃さなかった。
福福寿司のご主人の寿司の技術は本物だ。でも、スシバトルとなると話は違う!
このチャラ男が無策でスシバトルを挑んでいるとは思えない! きっと何か、自分が有利になるような条件でスシバトルをしようと企んでいるに違いない!
スシバトラーって奴は大体そう!
「ご主人! 止めた方が良いですよ、スシバトルなんて!」
ご主人にスシバトルを止めるように訴える!
「お客さん、すまねぇ! これは寿司屋としてのプライドの問題だ! 俺にだって譲れない物はあるんだ!」
駄目だ! スシバトルの火に飲まれている!
「良い目になったぜぇ、おたく。くくっ、さぁ始めようか! 最高のスシバトルショーを!」
こ、このままではチャラ男の思う壺だ! どうすれば……!
ダァン!!
力強く何かが叩きつけられる音によって場の空気が凍る。
どうやら、飲み干した湯呑みを割れない程度の力でカウンターに叩きつけて出した音らしい……鳥路さんが……
「……お茶のお代わりをください」
鳥路さんがご主人にお茶のお代わりを要求!
「え、あ、はい。お、おい、お茶を淹れて差し上げろ!」
鳥路さんの圧にご主人が謙譲語になる! 女性店員が慌てて鳥路さんの湯呑みにお茶を注ぐ!
「空気の読めねぇガキだな……おっと、今のカットね!」
鳥路さんにイラつくチャラ男。すぐに切り替えたが、生配信なのでカットは無理だと思う。同接一桁の原因の一つだろう。
「さぁて……スシバトルのルールだが……」
ズズズズズズッ!!
気を取り直して喋り出したチャラ男を遮るように、お茶を啜る音が店内に響く!
と、鳥路さん!? 普段絶対そんな音出さないよね!?
「おい! ガキ! 生放送中だぞ! ふざけるのも良い加減にしろよ! 女のくせに空気も読めねぇのか!?」
チャラ男がキレる。こっちがこいつの本性のようだ。
「ちっ」
鳥路さんが舌打ちをする。
「空気を読むのはそっちだ。私達が先にかんぴょう巻を注文した。店主の仕事中に話しかける馬鹿がどこにいる? お前の目は節穴か?」
「んだと、てめぇ! ガキだからって容赦しねぇぞ!」
「客でも無い奴の相手をする必要は無い。かんぴょう巻をお願いします。ゆっくりで良いので」
「わ、わかった!」
チャラ男の圧より鳥路さんの圧が勝り、ご主人は急いで厨房の方に戻って行った。
「おいおいおい! 何様のつもりだガキ! こっちは生放送で視聴様がスシバトルを待ってんだよぉ!」
チャラ男は相変わらず俺の存在を無視して、鳥路さんに詰め寄る。
「そんなにスシバトルがしたかったら私が相手をしてやる」
鳥路さん!?
チャラ男は一瞬面を食らったような顔になったが、すぐにわざとらしく笑い出した。取り巻きの女性達も釣られて笑い始める。
「はーっ! ガキがスシバトルを知ってるとは驚きだな! でもなぁ! スシバトルはおままごとじゃねぇ! ビジネスなんだよ! ガキはすっこんでろ!」
スシバトルはビジネス……イナリスカウトと同じような事を言っていた。やはり、こいつは寿司罵倒協会の人間のようだ。
「ガキに負けるのが怖いのか? その程度の腕前なら、お前の方がおままごとがお似合いだ」
「んだとぉ!?」
鳥路さんは大人相手でもレスバが強い……! いや、これは相手が弱いのか?
「仁くん!? 同接数が! 二十! 六十! ひゃ、百人!? まだ伸びてる!?」
取り巻きの一人が数字の読み上げを諦めるレベルでネットの方も盛り上がっているようだ。炎上しているだけかもしれないけど……
「同接三桁か……気分が良いぜ! 良いだろう! ガキだろうが関係ねぇ! スシバトルだ! 後悔すんじゃねぇぞ!」
「人の食事を邪魔する奴がどうなるか……その身を持って味わうと良い」
二人の啖呵に周囲のギャラリーが盛り上がる!
「い、インタラプト! インタラプト・スシバトルだ!」
「うおおお! あの女の子! すげぇ度胸だ! ただ者じゃねぇぞ!?」
また知らない単語が出てきた……
と、とにかく! 鳥路さんとチャラ男のスシバトルが始まる!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




