第117話 ジャパンスシインサルトアソシエーション③
前回のあらすじ:
入った寿司屋の寿司が美味しかった。
◆◆◆
鳥路さんがイワシの次に頼んだのはスズキ。白身魚でこっちを先に食べる物かと思ったけど……何にせよこれも美味しかった。なんというか夏を感じる寿司でさっぱりとしているのに脂も乗っている感じで良かった。結構好き。
鳥路さんはスズキを食べ終えると再びガラスケースに並ぶ寿司ネタを確認する。
「ウニをお願いします」
「あいよ!」
味の濃い寿司ネタを選択。あれ、ウニって高いんじゃ……
「このお店は私が出す」
俺の不安が顔に出ていたらしく、鳥路さんが全額出すと宣言。
「いや、それは流石に……」
鳥路さん程じゃ無いけど、結構貯金はあるし……旅行ぐらい贅沢しなきゃだしね!
「お父さんとお母さんからの軍資金を使うから心配しないで」
「あ、うん。ご馳走になります」
大人のお金なら良いか……良くは無い。でもここで食い下がってもしょうがないし。ご馳走様です! 鳥路さんのお父さんとお母さん!
「ウニお待ち!」
ウニの軍艦が目の前に置かれる。色の濃い粒がはっきり見え、形もしっかり残っている。恐らくこのウニも鮮度が良い。しかもそれが軍艦から溢れんばかりに盛られている。
鳥路さんはこれを海苔なしで握ったんだよな……この柔らかそうなものをどうやったら握れるんだ。
目の前の高級食材に若干手を振るわせながら口の中に入れる。
なんということだ! ウニってこんなに甘くて美味しい物なのか!?
臭みなんか一切無い! 純粋なウニの旨みの暴力だ! そして海苔もウニの風味を邪魔しない程度に存在感を出し、口の中で調和を生み出す!
「バフンウニだ。今年も不作だったはず……」
鳥路さんは品種までわかるのか……確かに普段見るウニより色が濃くて小さめだった気がする。
「うん、その通りであんま獲れてないけど……たまたま手に入ったんでね。数もないから折角だし二人に出しちまおうと思ってさ、観光の思い出には良いだろう? あと、こいつは俺の奢りだ。代わりにいっぱい食べていってくれよな!」
ニカっと笑うご主人。い、粋な人だ。カッコイイまである。
蝦夷の地で江戸っ子の心意気を見たような気がする……!
「ありがとうございます……山本くん、好きなの頼んだ方がいいよ。後悔する」
鳥路さんから自分で頼むように推奨される。異常事態だ。良い方向で……!
「わ、わかった。え、ええっと……マグロ、中トロらへんで!」
「私も同じのを」
「あいよ!」
ここで大トロと言えない貧乏性。でも中トロ美味しいし、そもそも赤身も好きだし……
その後も鳥路さんの注文に便乗しながらすごく美味しい寿司を堪能した。
値段は……見ないように慎重に。
◇◇◇
「かんぴょう巻ありますか?」
「おお? 締めに頼む派かい? 通だねぇ! あっためてくるか少し待っとくれ!」
「あ、自分もお願いします!」
「あいよ!」
鳥路さんの注文を受け、ご主人は店の奥の厨房に入っていった。と言ってもここから何をしているかは見える場所だ。どうやら鍋に火を入れてかんぴょうを温めているようだ。
「いやぁ……食べたね。お金は本当に大丈夫?」
「問題ない。私のわがままに付き合ってくれたお礼もあるし」
これでわがままと言うならうちの妹のそれは何になるんだろうな……
「それよりどうしよう……このお店が寿司罵倒協会に狙われている意味がわからない。こんなに美味しい店、北海道関係なく貴重」
本題を忘れるぐらい美味しかった。鳥路さんの言う通り、確かに不味いという理由で潰れる店では絶対に無い。
「そもそもあいつらの目的がわからないんだよね……スシバトル部を使って神奈川の寿司屋襲撃って話も意味がわからないし……」
「確かに……」
俺も鳥路さんも敵の行動原理がわからず頭を悩ませる。
「難しい顔してどうした? 締めの前にまだ頼むかい?」
ご主人が俺達の様子が気になって戻ってきた。うーん、気が利く……
鳥路さんと顔を見合わせ、俺は恐る恐る口を開く。
「ご主人は……その、日本寿司罵倒協会をご存知ですか?」
「罵倒? いや、知らないけど……それがどうかしたかい?」
知らなくても無理もない。俺も鳥路さんも知らなかったし……なんか神奈川だと当たり前のように存在する悪の組織の雰囲気出してたけど、こっちではそうでも無いのか? でもなぁ、撃たれたし、存在はしてるんだよなぁ!
「いえ、何でもありません。かんぴょう巻楽しみです」
「そうかい? まぁ、パッと巻いちまうからもう少し我慢して!」
鳥路さんが話を流してくれた。俺達がどうこうして解決する話でも無いのかもしれない……
「くそっ女の子達全然来ないぞ!」
「かっぱ巻きで繋ぐのはそろそろ無理だぞ幹事!」
「こ、こんなはずじゃ……勝利確定の合コンだったのに……」
お座敷の男の人達の声が聞こえる。だから片側の席だけ空いてたのか……この様子だと女性陣全員からドタキャンされたようだ。
その時、入口の扉が勢いよく開かれる!
「六名なんだけど? カウンターでも良いぜ」
後ろに複数の女性を連れた、白いスーツを身に纏う男が入店……一見しただけで何もかもが軽そうな人だとわかる。分類上イケメンではあるが、チャラい。
「えーカウンター?」
「仁くんの顔見ながら食べたかったー」
女性陣の数名から不満が漏れる。
「おいおい、ここは寿司屋だぜ? 俺より寿司を見なよ。まぁ? 寿司より俺が魅力的なのは事実だけど?」
そう言いながら男は髪をふぁさぁと掻き上げる。なんだこいつ……
そして、その浮いた台詞を聞いた女性陣が湧き上がる。もうなんだこの空間は。
……鳥路さんはバカを見るような目で彼らを見ていた。鳥路さんの好みではないようだ。ちょっと安心した。
「え、ええっと六名なら、まぁ……ごめんね二人とも、少し端に寄って貰っても良いかな?」
俺も鳥路さんも頷いて席を少しだけ移動する。
「悪いねカップル! お、よく見たら美人さんじゃん? どう? 俺達と寿司食わない?」
「ちょっと!」
俺の隣にどかっと座り、俺の存在を無視して鳥路さんに話しかけるチャラ男。不快感を隠さずに睨んでみたが、チャラ男の視界に俺は全く入っていないようだ……
「もうお腹いっぱいなので結構です。締めを食べたら出るので」
口調は丁寧だが「消えろ」と言わんばかりの殺気の籠った声で答える鳥路さん。
気付けチャラ男! というかお前何歳だよ! こっちは未成年だぞ!
「お、お客さん方! ご注文はどうされますんで?」
鳥路さんを守るようにご主人がチャラ男に注文を確認する。
「そうだなぁ……じゃあ……」
メニューや寿司ネタを見る様子も無く、チャラ男がニヤリと笑う。
「この店の権利書! 貰おうかな!」
何言ってんだこいつ!?
いや、待て、今何時だ!? 16時!?
じゃ、じゃあこいつが、日本寿司罵倒協会からの刺客!?
感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。
◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




