第111話 スシロボメカマシン③
前回のあらすじ:
寿司ロボット、IKASUSHIの寿司……果たしてその腕前は……
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準備運動を終えたIKASUSHIの触腕が動き出す。右の触腕の先っぽが開き、シャリを掴み……いや、掬うが正しい表現だろうか。とにかく、シャリを取り込むと、一瞬で型に嵌めたような綺麗な形のシャリ玉が完成していた。
「おお……」
鳥路さんが驚くシャリ玉なので、本当にいい感じの出来なのだろう。
IKASUSHIはそのまま左の触腕で器用に切り分けられたイカを掴み、右手のシャリ玉とドッキングし、両手でその二つをギュッと握る。
左手がロボットらしく180度回転すると、目の前の紙皿の上に綺麗なイカの寿司が乗せられていた。人間で言うと一手でこの寿司を完成させたようなものだ。
鳥路さんも一手で握った事があるけども、その時の寿司よりも形が綺麗だ。
「すごい……」
鳥路さん的にも良い寿司に見えているようだ。相当な腕前だぞ、このロボ!
二貫もスムーズに素早く握り終えると、IKASUSHIはイカらしく右側の二つ目の触腕で刷毛を握って、さっと寿司に醤油を塗った。
「おあがりよ!」
IKASUSHIの完成の合図に対して、集まったギャラリーから拍手が巻き起こる。い、いつの間にこんなに集まっていたのか!?
「頂きます」
鳥路さんは割り箸で寿司を掴み口の中に。イカの寿司を味わい始める。
鳥路さんは周囲を気にも留めず、寿司に集中している。
果たしてロボットの寿司は鳥路さんを満足させる事ができるのか!?
「……美味しい」
鳥路さんは驚きながらも感想を言い残し二貫目を食べ始める。
これだけで昨日の寿司屋を超えている。すごいぞ、IKASUSHI!
「美味しかった」
「そうでしょう! 私の寿司を食べたくなったら未来大学に入学しましょうね!」
「……前向きに検討します」
ちゃっかりしてるな。IKASUSHの表情は一切変わらないのに腕の動きでドヤ顔してそうな感じが頭に浮かんでくるぐらいに表情豊かだ。どことなく鳥路さんっぽい。
まぁ、当の鳥路さんが満足そうな顔をしているし良いか。
「人も集まってきたし、サクサク行こうか。次の人どうぞ」
鳴海さんに言われ、IKASUSHIの前に立つ。ちらっと後ろを見ると、しっかりと列が形成されていた。この人達、他の展示を見ながら実はIKASUSHIが起動するのをずっと見張っていたのか? 周囲の展示から人が減ってるぞ!?
と、とにかく俺の番だ。
「お名前とご注文をお願いいたします!」
「山本葵です。えーっと……イカで。薬味も生姜でお願いします。」
鳥路さんと同じチョイスにする。失敗する事は無いだろう。
「山本さん! いや、いっぱいいるから葵さんと呼びましょう! 鳥路さんと同じ高校なんですね! エントリー番号も隣ですし、二人は仲が良いのですか?」
IKSUSHIが俺と鳥路さんの関係について聞いてくる。人間と会話している感じで違和感を感じない。
「同じ同好会の友人です。今年の四月からなんですけど」
「そうなんですね! そうすると友人歴なら私とナルの方が上ですね! まぁ、期間の長さが全てでは無いと思いますが!」
ナル……? 鳴海さんのことか? 講義の時も確かそう呼んでたよな。苗字から取ってきたアダ名かな?
それにしても会話内容が鳥路さんの時と違う。テンプレ質問と回答で凌いでいる訳では無いようだ。
「おあがりよ!」
そんな事を考えていたらあっという間に寿司ができていた。
鳥路さんの時とほぼ同じ寿司。再現度も相当高いんだな。折角なら他の寿司ネタを頼んでも良かったのかも……
「頂きます!」
IKASUSHIのイカの寿司を箸で掴み口に放り込む。
鮮度の良さそうなイカは臭みがなく、ほんのりと旨味が口の中に広がる。
醤油の量も絶妙だ。下手な寿司屋の寿司なんかよりも間違いなく美味い。
「美味しい! けど……いや、何でも無いです」
鳥路さんが握ってくれた寿司の方がやっぱ美味しい気がする。
中途半端に舌が肥えてしまっているなぁ……この寿司も美味しいはずなのに、ちょっと違うと思ってしまった。
比較しちゃダメだよな。鳥路さんもその辺弁えて美味しいとしか言わなかったのだろうし。
「けど?」
が、俺の言いかけた言葉にIKASUSHIが反応する。
「え、いや、何でも無いです!」
「何か気になる点があったのでしょう? 改善しますので教えてください」
なんかAIに詰められてるんだけど……
「美味しかったんですけど、あの、ちょっと知り合いの寿司と比較しちゃっただけで……」
「どこの寿司屋ですか? 教えてください」
表情は当然見えないけど声色が明らかに不機嫌である。な、なんだこのAI!
「寿司屋じゃなくて鳥路さんの寿司の事で……」
「鳥路さん? あなたの前にいた鳥路英莉さんで間違いないですか?」
「は、はい。間違いないです」
全部素直に言ってしまった。別にそれっぽい嘘でも良かった気もするのに……
俺を激詰めしたIKASUSHIはまるで何かを考えているかのように静止している。
面倒事を察知した鳥路さんが目を細めて俺を睨む。ご、ごめん。
「えーっと……フレべ? 次のお客さんに行くわよ? 聞いてる?」
鳴海さんは列を進めるべく、動かなくなったIKASUSHIの頭部を右手で軽くコンコンと叩く。
「鳥路英莉さん! まだ近くにいますね!?」
結構な大きさの音量で鳥路さんを呼び出すIKASUSHI!
「い、いるけど……」
俺達から少し離れて様子を見ていた鳥路さんが戻ってきた。
「少し調べましたが、あなたは大学教授のご両親の娘さんで寿司屋ではない! なのに私の寿司より美味い寿司を握れるのですか!?」
まるで指をさすように触腕を鳥路さんに向けるIKASUSHI!
「握れるけど、別に山本くんはIKASUSHIの寿司が不味いと言った訳では……それに比較するものじゃ無いと思う」
鳥路さんがフォローを入れてくれた。俺の迂闊な言葉で本当にすみません……
「機械の私の寿司は人間の素人の寿司にも勝てない……そう言うのですね!?」
「え!? 言ってな……」
「スシバトルです! スシバトルしましょう! 最近覚えました!」
「え!?」
鳥路さんの弁明を遮り、IKASUSHIが鳥路さんにスシバトルを申し込む!
鳥路さんもまさかのスシバトル宣言に驚いている。
「す、スシバトルだ!」
「これが内地で流行ってるって噂の!?」
「しかもAIと人間のスシバトルだ! こんなの見逃せねぇぜ!」
ギャラリーがスシバトルという単語で盛り上がり、すっかり鳥路さんが逃げ出せない状況になってしまった。どんどん人が集まってきており、物理的にも逃げるのは難しそうだ……
「な、鳴海さん! 止めてください! IKASUSHIの様子がおかしくないですか!?」
鳴海さんに助けを求める!
「……まぁ、この程度の規模で済むならこのままやらせた方が安全かなぁ。やろうよ、その……スシバトル? ってやつ」
「鳴海さん!?」
諦めているのか達観してるのかわからない感じで鳴海さんがスシバトルを承認。
というか、過去になんかもっと酷い事が起きたんですか!?
い、IKASUSHIと鳥路さんのスシバトルが……始まってしまう!
ごめん! 本当にごめん! 鳥路さん!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




