第110話 スシロボメカマシン②
前回のあらすじ:
函館の大学のオープンキャンパスに参加する山本と鳥路。
模擬講義に参加し、寿司職人ロボのIKASUSHIの寿司を食べれるチケットを手に入れた。
◆◆◆
大盛況の質問コーナーは惜しまれながら終了となり、模擬講義も無事に終了した。
あとは展示物やキャンパス内の見学をしていくことになるのだけど……
「山本くん、IKASUSHIの展示に行こう」
鳥路さんの希望で真っ先にIKASUSHIの寿司を食べにいく事になった。俺も気になっていたし、売り切れとかになったら目も当てられないしね。
講堂の下段側の入り口から出て、吹き抜けになっている渡り廊下を通って展示スペースへと向かう。吹き抜けのため廊下なのに壁はなく、色々な場所が見渡せる状況は俺が思っている大学の建築物とは少し異なる景色であった。
それにしても柵はあれど筒抜けすぎて高所恐怖症の人は移動だけでも大変そうだ……鳥路さんは特に気にせず歩いているけど。うーん、これが普通なのか?
地に足は付いているのに吊り橋を渡るような浮遊感を感じながら歩みを進めていくと、ようやく地面らしい地面の場所、展示スペースに辿り着いた。実際は大した距離ではなかったのだけど……新鮮な体験中は不思議と体感時間が長く感じる。
「山本くん、あそこだ」
鳥路さんが指差す方向にはパンフレットと講義中のスライドで見たまんまのIKASUSHIが鎮座していた。ふざけたイカのロボットに見えるが、その裏には数多くのハイテクが仕込まれていることを模擬講義で学んだ。
準備中の札がまだ掛かっているけど……公開の時間にはなっているはず。
近くに寄っても付近に人はいない。そう言えばこの展示の担当って……
「お昼時と重なってるから真っ先に来る人は少ないと思ってたけど……物好きだね君たち」
俺達の背後から声を掛けてきた女性はクーラーボックスを肩に掛け、右手に大きめの炊飯器、左手に大きい木桶を握っていた。小さい体に対して過積載である。
「鳴海さん! 先程の講義ではありがとうございました!」
「非常に勉強になりました」
俺と鳥路さんは鳴海さんに頭を下げて先程の模擬講義のお礼を伝える。
「私は質問に答えただけなんだけどね。まぁ、でもありがと。IKASUSHIに興味持ってくれて嬉しいよ」
鳴海瑠奈さん。修士一年、松木教授の研究室に在籍する女性。
学年的にも二十歳を超えているはずなのに、身長が低めなためか俺と鳥路さんよりも若く見える。ただ、こうして近くで話してみるとしっかり大人の女性の余裕を感じる。
「今準備するからちょっと待っててね」
鳴海さんがIKASUSHIから準備中の札を外し、近くに畳まれていたテーブルを設置すると、持ってきていた荷物を手際よく並べていく。
特に木桶に米を入れて寿司酢を混ぜる様子はさながら寿司職人のようだった。
「鳴海さんは寿司を握れるんですか?」
鳥路さんもその様子が気になったのか、鳴海さんに寿司の経験の有無を尋ねる。
「んー、全然? IKASUSHIの準備する部分だけかなぁ……保健所に許可もらったり、食品衛生責任者の資格取らさせたりはしたけど……はぁ……」
溜め息混じりに語る鳴海さん。華やかな研究の裏で見えない努力があったようだ……
「よし。じゃ、起動するねー。二人ともチケット頂戴」
鳴海さんにチケットを渡すと、鳴海さんは上着のポケットに仕舞い、代わりにそこからスマホを取り出してIKASUSHIから伸びているケーブルに接続する。接続してから数秒待つとダンスのような準備動作をしながらIKASUHIが動き始める。
生で見てわかる動きの滑らかさ。触腕の先を見ると人間の指を再現するかのように分かれており、これで寿司を握るのかと一人で関心していた。
「いらっしゃいませ! 大鷲寿司のIKASUSHIです! お名前とご注文をお願いいたします! まずはそこの女性から!」
「しゃ、喋った……」
鳥路さんが目を丸くして呟く。
喋っただけではない。こちらを認識している。デフォルメしたようなイカの姿なのに随分と高性能なようだ。
「ほら、鳥路さん、注文しなきゃ」
「わ、わかってる。ええっと……鳥路英莉です、初めまして。おすすめは何ですか?」
鳥路さんはテーブルに置かれた寿司ネタを見てから、おすすめを確認する。恐らく、IKASUSHIがどんな反応を返すのかを試したいのだろう。
「鳥路さん! 神奈川県から来ているんですね! お疲れ様です! こんな田舎の大学は遠かったでしょう?」
ど、どこからそんな情報を!? オープンキャンパスの申し込みリストから引っ張ってきているのか!?
「思っていたよりは近かったけど……気軽に通える距離では無いですね」
鳥路さんは少し驚きながらも会話を続ける。
「折角なので函館市の観光もして行ってくださいね。今日は天気もいいので函館山の夜景なんかも綺麗ですよ!」
会話が途切れないが、寿司のおすすめについて答えが返って来ない。
「あ、おすすめはスルメイカですね。IKASUSHIだけにイカす寿司を握りますよ!」
だ、ダジャレ……いや、名前にそういう意図は込められてそうだったけどさ。
「イカすしって、そういう……ふ、ふふっ! い、イカでお願いします。ワサビじゃなくてショウガで」
鳥路さん? そういう感じの結構好きなの?
笑いながら薬味の指定までしっかりこなす所は流石である。
「はーい! イカですね!」
元気な返事と同時にIKASUSHIの触腕がヌルヌルと動き出す。
人間離れした動きにしか見えないけど、果たしてIKASUSHIはどんな寿司を握るのだろうか……
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




