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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
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第108話 スシインザサマー③

前回のあらすじ:

下準備の重要性を理解した。


◆◆◆


 煮立った鍋から骨を取り出してから一度火を止め、丁寧に穴子を鍋に入れていく鳥路さん。そこから更に火を入れ、沸騰したら火を弱め落とし蓋をして30分ほどゆっくりと煮込んでいく。


「大きめの鍋で煮ないと煮崩れしやすい。竹製の引きざるとかに乗せて煮る方法もあるけど……好きな方法でやると良い」


 鳥路さんが待ち時間や作業に余裕がある時に解説を入れてくれるので非常に勉強になるのだけど、もはや料理教室のようになっていてスシバトルという空気では無くなってきている


「へ、へ! さっきから理論だけは立派だがなぁ! 俺は煮穴子の作り方を知りたいわけじゃねぇ! 嬢ちゃんが俺より美味い寿司を握れるかで勝負してるんだ!」


 店主が諦めていないのはせめてもの救いだろうか。ギャラリーからは冷ややかな目で見られているようだけど……


 鳥路さんは穴子をざるの上に置いて粗熱をとっている間に、煮汁を使ってツメを作り始める。醤油と砂糖とみりんを加えてさらに煮詰めているだけのように見えるけど……良い香りが店の中に広がる。


「出来立ての穴子とツメで握って見るのも悪くないか……」


 鳥路さんはついに握りの体勢に移る! 


「お手並み拝見と行こうじゃないか!」


 店主はこの後どういう反応を見せるのか手に取るにようにわかってしまう。


 鳥路さんが右手で木桶のシャリを手に取ると、数秒転がすだけで綺麗な形のシャリ玉が作られた。

 そのまま左手に持った穴子とシャリ玉が合わせると右手の人差し指と中指で一回押さえ付ける。

 一度右手の指に乗せた寿司を左手に持ち替え、もう一度右手の人差し指と中指で押さえる。

 左手の寿司を指の位置に転がし、ネタが上になった状態で右手で回すように形を整えると……綺麗なアーチを描いた寿司が寿司げたの上に置かれていた。

 鳥路さんの無駄の無い流れるような握りにギャラリーは言葉を失っていたが、出来上がった寿司を見て息を吹き返したかのように盛り上がる。

 鳥路さんが先程作ったばかりのツメを刷毛はけでさっと塗ると、見事な穴子の寿司が完成した。


「なんだこの握りの完成度は!? 素人じゃねぇ!」

 

 店主が予想通りの反応を見せる。


「自分の穴子を思い出しながら食べると良い」


 鳥路さんは穴子の寿司が乗った寿司げたを手に取り店主の前に差し出す。


「お、同じ材料だぞ……! 味が劇的に変わるわけがねぇ!」


 店主は鳥路さんの寿司を口に放り込む。そして固まってしまった。


「バカな……そんなはずが……べつもんだ! この穴子は煮崩れもしてねぇのに味が染み込んでいて、すっきりとした旨みがガツンときやがる……! これに比べたら俺の穴子は……カスだ……!」


 膝を突き項垂れる店主。

 ……こうして素直に過ちを認められるのは偉いと思う。


「俺の負けだ……!」


 店主の言葉を聞いてギャラリーが湧く! 鳥路さんの勝ちだ!


「うおおお! 穴子食いてぇ!」


「姉ちゃん! 俺にも穴子握ってくれよ!」


「私も!」


 ギャラリー全員から穴子のリクエストを受け、鳥路さんは少し困ったような顔で俺の方を見る。


「俺も食べてみたいな……その穴子!」


 丁寧に作られる穴子を見ていたのもあって、俺の口もすっかり穴子になってしまっていた。


「……ある分だけ握るわ」


 鳥路さんは少し呆れたような……それでも嬉しそうな表情で穴子の寿司を握り始める。



◇◇◇


 

 鳥路さんの穴子の寿司を堪能したギャラリーが自席に戻り、店の雰囲気は元に戻ったけど、店主は何も言わず鳥路さんの前に立ったまま動かない。


「どうした? 嬢ちゃんの勝ちだ。何でも言うと良い」


 ……競技スシバトルじゃないから、習わしを実行しなきゃいけないのか。鳥路さんは少しだけ悩んでから口を開く。

 

「今後は下処理も丁寧にやってもらえれば……包丁は手入れされていたしできるはず」 


 鳥路さんは美味い寿司屋が増える事を望んでいる。先程のスシバトルで丁寧に説明していたのが何よりの証拠だろう。


「そ、そんなのは当然だ! これからは心を入れ替えるよ! だがなぁ! それだけじゃ旅行中のあんたらに迷惑を掛けちまった俺の気持ちが収まらねぇ!」


 スシバトルで改心してくれるのは良い事なのだけど……別に鳥路さんはお店を罰したいわけじゃないだろうしなぁ……


「山本くん、どうしよう」


 俺に聞かれても困るんだけどなぁ。うーん……


「あ、そうだ。寿司罵倒協会について知ってる事教えてもらうのは?」


「そうしよう。教えて」


 鳥路さんは俺の意見を即採用して店主に尋ねる。


「わ、わかった。俺も新参者だから詳しくは把握してないが……近々この函館に寿司罵倒協会のエージェントが来るって噂だぜ! 老舗のおっちゃん曰く定期的にまずい店を潰しに来てるらしいぞ」


 だから店主は鳥路さんを寿司罵倒協会の刺客と勘違いしていたのか。

 それにしてもエージェントか……俺を撃ってきた狐仮面みたいな奴が他にもいるって事?


「……どこの店が狙われているかわかる?」


 鳥路さんは質問を続ける。

 ま、まさかと思うけど……寿司罵倒協会のエージェントに会うつもりなのか鳥路さん!?


「と、鳥路さん!?」


「わかってる。ただ……何をしている連中なのかこの目で確認しておきたい」


 帯刀さんの寿司マニュアルのために、神奈川でスシバトルテロを手伝おうとしていた連中だ。しかもスシバトル外で対戦相手を攻撃しようとしたし、碌でも連中なのは疑いようが無い。ただ、憶測だけで相手を見極めるのは良くない。自分の目で確かめて判断すべきだろう。

 鳥路さんも恐らくそう考えての行動だと思う。


「すまねぇ、流石にどの店までかは……お、俺の店だったら助けてくれたりするのか!?」


「私に頼る前に自分で何とかすべきでしょ」


 鳥路さんはキッパリと断った。まぁ、この店は仕事が雑ではあるけど、寿司ネタの鮮度は良いし、別に寿司の技術が低いと言うわけではない。簡単に潰れたりはしなさそうだ。


「そ、そうだな。自分の店だ! 自分で何とかしねぇと! ありがとな! 目が覚めたぜ!」


 店主も前向きに鳥路さんの言葉を捉えてくれて何よりだ。

 

 ふと、時計の針を見ると18時を過ぎていた。夏とは言え夜が近い。


「鳥路さん、一回ホテルに戻ろうか」


「うん。お会計お願いします」


 俺と鳥路さんが財布を取り出そうとすると店主がギョッとする。


「おいおいおい! あんたらから金は貰えねぇよ! 俺の奢りだ! 函館を楽しんでくれよな!」


「いや、でも、結構食べてますし……」


 主に鳥路さんが。


「美味い煮穴子の作り方を教えて貰った勉強代だ! それでも安いもんだ! 良いから良いから! 二人の時間を邪魔して悪かったな!」


 そこまで言われると俺も鳥路さんも断る訳にも行かず、大人しく店主のご厚意に預かる事にした。正直お金を節約できて幸運ではあるけども……ちゃんと他の場所で函館にお金を落とさないとね。

 


◇◇◇



 ホテルに戻り、一息ついてからロビーの談話スペースで鳥路さんと合流する。

 流石に異性の部屋に入って作戦会議するのはお互いヤバイと思っていたらしく、鳥路さんからもすんなりと集合場所について合意を得る事ができた。


「明日は11時受付だからそれより前に現地入りだね。普通にホテルの朝食を食べてからで間に合いそう。観光は……オープンキャンパス終わってからで良いか」


「夏だしバスは遅れないと思うけど……15分前ぐらいには到着するように動こう」


「おっけ。多分起きれると思うけど、朝食にいなかったら鬼電して貰えると助かる」


「わかった」


 そんな感じで鳥路さんと明日の予定を決めていく。


「そう言えば模擬授業の内容、あんまり把握してないんだけど……FaiNだっけ? 大学のAIとドローンやロボットの動作の最適化とか? 付いていけるかなぁ」


 大学に興味はあるけど、この大学の学科にまでは気が回っていなかった。場違いにならなきゃ良いけど……

 でも、鳥路さんってこの辺興味あるってことだよな。ご両親の研究分野とも違う感じだけど……


「高校生レベルの話になるだろうし大丈夫だと思う。私もそこまで詳しく無いし、これ目当てでこのコースを選んだだけだから」


 鳥路さんはスマホを操作し、画面を俺に見せてくれる。

 大学のオープンキャンパスのページか……


「……スシロボット、IKASUSHI。器用に動く触手型アームをFaiNが制御して注文された寿司を握る! IKASUSHIを作るのに必要な技術や制度についてお話しする予定です……って、え?」


 鳥路さんが知能コースが良いと言うから何も調べずに知能コースにしたけど……こ、これを見るためだったのか!? 


「寿司の形も綺麗だし、どんな技術が使われているのか楽しみ!」


 鳥路さんがちょっと興奮気味に語る。いや、確かに凄いけど……



 え、AIの……寿司職人!? 




◇◇◇

スシインザサマー おわり

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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