表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
107/175

第107話 スシインザサマー②

前回のあらすじ:

鳥路さんがキレた。


◆◆◆



「ああん!? 寿司が泣くわけねぇだろ!」


 鳥路さんの寿司泣き発言にお約束の反応を返す店主!


「穴子をここまで不味く握れる寿司屋は初めてだ!」


 鳥路さんの言う通り、この店の穴子は不味かった。


「最近流行りのスシバトラーか……浮かれたカップルだと思って舐めてたが。そこまで言うなら握ってもらおうじゃねぇか! スシバトラーみたいな素人がそもそも穴子を捌けるはずがねぇ!」


 最近流行ってるのか、スシバトル……この遠く北海道の地でも……

 鳥路さんが北海道に残っていたとしても、鳥路さんはスシバトルに巻き込まれる運命だったのかもしれない。


「す、スシバトルだ!」


「これが噂の!? 初めて見るわ!」


「スシバトラーって本当に女の子多いんだなぁ!」


 お客さんがギャラリーに変化していくのもいつも通り。スシバトルは人を狂わせるのか、それとも遺伝子に刻まれた日本人の本能なのか……


「私はスシバトラーではない。でも、あんたがそれで満足するなら……握るわ!」

 

 鳥路さんの啖呵に盛り上がるギャラリー!

 もうこうなったら誰もこの勝負を止める事はできない。一度始まったスシバトルを止める事はできないのだから……



◇◇◇


 調理場に立つ鳥路さんのまな板の上には三匹の穴子。流石に生きてはいないけど鮮度は良さそうだ。

 鳥路さんはお店から借りた包丁の状態を確認し終えると今度はまな板の状態を確認する。まな板の隅っこの傷を確認すると鳥路さんは穴子の頭をそこに置き、目打ちを迷いなく穴子とまな板に突き刺した。包丁の腹で目打ちを軽く叩くと穴子はしっかり固定されたようだ。

 さも当たり前のようにやってるけど普通はできない芸当だと思う。

 その証拠にまともに捌けないとタカをくくっていた店主が鳥路さんの手際の良さにビビっている。逆にギャラリーは鳥路さんの腕前に感嘆の声を漏らしていた。


「……目打ちって言うけど、目には刺さないんだね」


 目打ちという名前なのに、実際に刺さっているのは穴子の頬とかその辺だ。


「目に刺すとズレやすい。それに、目打ちは目印を付けるという意味で目打ちだから、本当に魚の目を刺す必要はない」


 俺のふとした疑問に鳥路さんが答えてくれた。勉強になるなぁ……

 そうこうしている内に背開きになった穴子はあれよあれよとヒレやら骨やらが次々に取られていく。最後に頭が取られると良く見る穴子の開きが完成していた。


「は、早い! なんだこの嬢ちゃん!? まさか……まさか! 寿司罵倒協会すしばとうきょうかいの刺客か!?」


 店主の顔が一気に青ざめる。寿司罵倒協会……! 鳥路さんの手が一瞬止まる!

 日本寿司寿司罵倒協会にほんすしばとうきょうかい

 スシバトルの原型となる寿司罵倒の総本山……らしいという事しかわかっていない。目的のためなら手段を選ばない連中である事だけは身を持って実感している。

 寿司屋の中では割とメジャーな存在なのだろうか……


「鳥路さんは寿司罵倒協会とは無関係ですよ。でもどうして寿司罵倒協会の名前を?」


 一応、鳥路さんの名誉のためにも否定しておく。


「か、関係ないなら良いんだ! お前の連れは随分手練のようだが……漁師とか寿司屋の娘なのか!?」


「どちらでもないですよ。ただ、その……挑んだ相手が悪いのは間違ってないかと……」


「なっ……!」


 対寿司屋の鳥路さんの勝率は非常に高い。鳥路さんがキレる程度の寿司を握る店主が相手なのだが当然なのだろうけど……

 よそ見をしていたら鳥路さんは三匹の穴子を全て捌き終えており、それらをまな板の上に並べてからお湯をさっとかける。すると穴子の皮の表面が白く濁り始めた。


「このぬめりの除去が甘いとどんなに煮込んでも臭くなる、ちゃんとやってるのか?」


 鳥路さんは店主の普段の作業工程を確認するかのように、包丁の背で穴子の皮からその白いぬめりをこそぎ落とし始めた。


「や、やってるに決まってるだろ!」


 店主は鳥路さんの力量を理解し始めたのか、少し戸惑いながらもしっかりと回答する。嘘はついていない感じだ。

 鳥路さんはぬめりを取り終えると、今度は捌いた時に取った穴子の骨を手に取る。


「これはわかる?」


 鳥路さんは骨にくっついている赤い部分を指差す。血合……って言うんだっけ?


「ち、血合ぐらい知ってる! バカにするな!」


 流石に店主も知っているか。


「……煮詰める時にちゃんと血合を取り除いているのかと聞いている」


「あ……ああ!?」


 店主が鳥路さんの指摘に狼狽える。


「鳥路さん! それを取らないとどうなるの!?」


 そういえば穴子を煮る時に骨も入れるんだっけ……だとすると……


「このまま煮込むとツメごと生臭くなる。まぁ、この店の穴子の臭みはぬめりも原因だろうけど……」


 鳥路さんはそう言いながら骨抜き用のピンセットで器用に血合を骨から取り除いて、三本まとめてぶつ切りにしてから水の張ったボウルの中に骨を放り込んだ。


「ははーん! どうしてこの店の穴子がくせーのかわかったぜ!」


「若いのに几帳面なのねぇ!」


「料理は細部に魂が宿るって言うからな。仕事の丁寧さが全てだな!」


 ギャラリーもこの店の穴子には文句があったようだ。


「ぐっ……そんなべっちょでダメになるのかよ……」


 店主の仕事の雑さがそのまま穴子をダメにしていた感じか。鳥路さんがキレるのも仕方がない気もする。


「ダメな理由はそれだけじゃないけど」


 鳥路さんが無慈悲に指摘を続行する。

 もはや店主から反抗の意思は見えず、鳥路さんの指摘に怯えているようにすら見える。もうスシバトルするまでもなく結果が見えてしまっているな……


 骨を水にさらしてから10分ほど待っていると、鳥路さんは大きめの鍋に水、酒、醤油、砂糖というかザラメを適量入れ始める。


「本当は骨を焼いてからの方が良いけど、今回はそのまま……」


 鳥路さんはそう言って、水にさらしていた穴子の骨も鍋の中に入れて煮込み始める。

 

「……」


 ギャラリーを含め、この場にいる全員が鍋の動きに注目している……が、そこまで気合いを入れて見るものでもない気がする。鳥路さんも煮立つのを待つしかないらしく、何も見せれるものが無くて若干気まずそうである。


 そろそろ皆気付き始めてるんじゃないだろうか。

 俺は……シャコ対決の茹で時間の時にも少し感じていた。 


 

 煮込み時間の長いネタを使う寿司は……スシバトルに向いていない!


感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。


◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ