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第100話 スシネバーダイズ後編④

前回のあらすじ:

マグロ勝負は帯刀棄権のため、まさかの鳥路の不戦勝。

二人のスシバトルの決着は最終勝負の自由枠に!


◆◆◆


「最終戦の前ですが! ここで一度休憩を入れます! 両者万全の状態で勝負できるように体を休めてください! 10分後に再開です!」


 四本目の勝負の前に取る予定だった休憩がずれ込んだようだ。鳥路さんの体力的には問題ないだろうけど……恐らくこれは帯刀のコンディションのために設けられた休憩のように感じる。休憩時間が始まるとスシバトル部員の一部がマグロの寿司を観客達に配り始める。反応は薄いけど……受け取って食べてはいるな。

 それよりも…… 


「鳥路さん! ナイス寿司! 最終戦に持ち込めたね!」


 今はまず鳥路さんを労おう!


「寿司屋の人達に感謝しないといけない……でも、まずは金星さん……皆、ありがとう」


 鳥路さんは金星さんと俺達に深々と頭を下げる。この過酷な勝負の中で他人を先に気遣える精神性……鳥路さんは凄い。


「ふふ、近い内にお世話になった寿司屋にはみんなで食べに行きましょうね」


 金星さんは笑いながら提案してくれた。きっとそれが一番喜んで貰えるだろう。

 成金寿司があれからどうなったかも少し気になるしね。

 そんな感じで和やかな空気が流れる寿司同好会側だけど……スシバトル側は何か揉めているようで騒がしい。

 

「笹垣! お前が休憩を取らずに勝負を進めたから部長がミスをしたんだ!」


「ケジメ案件! ケジメ案件ですよ!」


「お前が余計な事をしなくても部長なら勝てる試合だった!」


 スシバトル部の部員同士で言い争っているようだ。帯刀本人はそれには参加せず、少し離れたところで椅子に座って体を休めている。


「はぁ!? 勝つために何でもするって全員で決めた事でしょ!? そもそも四天王が揃って鳥路に負けた上にちっとも消耗させられてない方が問題よ!」


「何だと!?」


「笹垣っ!!」


 取っ組み合いの喧嘩になりそうな勢いだ……誰か止めてくれ。あと四天王が五人いた事については真面目に反省してほしい。


「あ、あの!」


 聞き覚えのある声が体育館に響き、殴り合い寸前のスシバトル部員を静止させる。

 その声の主もスシバトル部員の中の人物……ギャラリーの目線の先にはとどろきさんがいた。彼女の顔を見るとスシドライバーが思い浮かんでしまうが……今の彼女にはあの時のノリと勢いを感じられない。小柄な一年生の女子生徒が勇気を出して声をあげた……そんな感じだ。


「スシバトル部のスシバトルって……これで良いんですか?」


 轟さんが震えながら訴える。スシドライバーを握ってないと普通の子だな……あれ以来普通に寿司の練習を頑張っていたようだし。


「何言ってんだ轟! 私達のスシバトルがスシバトルだろ!」


「てか寿司同好会とスシバトル部でやってる事は何も変わらないでしょ! 何が違うのよ! 結局寿司を握って強い方が勝つのよ!」


 轟さんの疑問はスシバトル部の先輩達の声に掻き消される。


「勝つためにしてもやりすぎじゃないですか!?」


 轟さんはそれでも言葉を続けた。

 笹垣が部員を押し除けて轟さんの前に立つ。


「スシドライバーとかふざけたルールを考えたあんたが言える立場? しかも負けたし。今スシバトル部に在籍できているだけでも感謝することね! スシドライバーも封印されて、むしろ寿司同好会を恨んでるんじゃないの!?」


 笹垣が轟さんのおでこを小突きながら小馬鹿にする。

 轟さんは今にも泣きそうだが……その目は敗者とは異なるものだった。


「確かに私も勝つために少し卑怯な事もしたし、食べ物で遊ぶなとも言われました……でも! スシドライバーの可能性は否定されなかった! 真面目にルールの改善点とかも考えてくれたし! 調子に乗っていた私の事を本気で怒ってくれた!」


「ちっ! お前さぁ! 何が言いたいわけ!?」

 

 笹垣が苛立ち始める。それでも轟さんは逃げずに笹垣に立ち向かう。


「こんな卑怯な勝ち方のスシバトルなんて楽しくない! それにスシバトルに勝ったからってそのお店を潰そうとするのも間違ってる!」


 轟さんの叫びが体育館にいた全員の耳に入る。この静寂が……俺がそうだと思う証拠だ。


「み、店を潰すって言ったあの子!?」


「寿司警察じゃん!」


「スシバトル部ってそんな事しようとしてたの!? それともしようとしてるの!?」


 轟さんの言葉がギャラリーをざわつかせる。慌ててスシバトル部員が轟さんの口を押さえるがもう遅いだろう。

 ……帯刀、いや、日本寿司罵倒協会の思惑がこんな形で露見する事になるとは。

 俺達が言っても信憑性のない噂にしかならなかっただろうけど、内部の人間の声となれば別だ。


「鳥路さんが寿司警察じゃないとしたら……やっぱスシバトル部の誰か?」


「スシバトル部のサービスは私達を騙す演技だったって事!?」


「説明しろ! スシバトル部!」


 怒りに燃えるギャラリー! スシバトルの火が……逆にスシバトル部を燃やそうとしている!


「こ、これはこの子が狂ってるだけでスシバトル部は健全な部活! 顧問である理事長が認めるオフィシャルな部活動よ! 今までの実績だけが真実! そうでしょう!?」


 笹垣が鎮火を試みるが……無理だろうな。それよりも、だ。


「あの……司先生、スシバトル部の顧問が理事長ってマジですか?」


「……マジよ」


 だ、だから他の先生方が寿司同好会の顧問になりたがらなかったのか!?

 下手したら理事長の不興を買う可能性があるから!?

 というか日本寿司罵倒協会の手先が学校に簡単に侵入できたのも理事長の手引き?

 どどど、どうなってんだこの学校は!?


「あの、その、休憩時間終わりです。盛り上がってるところすみません……」


 綿貫さんが申し訳そうに休憩時間の終わりを告げるとギャラリー達が鎮まっていく。司会進行に優しい学校だな……


「ゴホン! 泣いても笑ってもこれが最終対決! そしてそれを決めるのは……何でもありの自由枠! ネタのチョイスが全てを決めると言えるでしょう! 果たして鳥路さんと帯刀さんはどのような寿司ネタを持ってきてくれたのでしょうか! 注目です!」


 盛り上がるギャラリー! 何故だか急に理性的な集団に思えてきた。


「と、鳥路さん! 頑張ってね!」


「任せて」


 寿司同好会全員で声援を送り、鳥路さんを見送る。頼もしい背中だ。


「それでは五本目のスシバトル! 開始です!」


 ギャラリーの歓声と共に二人が寿司の準備を開始する。


「鳥路さんは何を握るの?」


 松風先輩が俺に質問する。


「え? あの……握らないんじゃないですかね……」


「え?」


 俺の回答に固まる松風先輩。

 答え合わせをするように鳥路さんは巻きまきすを取り出した。


「え!? 巻物!? 何を作る気!? 特殊な太巻き!? じ、自由枠で思い切ったわね!?」


 松風先輩が混乱している。俺も正直大丈夫なのかと思っているけど……鳥路さんが自信ありの食材だからなぁ。


琴音ことねさん……太巻きでも無いんです」


 賀集さんが太巻きを否定する。

 あの時、鳥路さんが助六寿司の中から指差した寿司。そして鳥路さんが一番好きな寿司ネタ……俺はその事を思い出しながら答えを松風先輩に伝える。

 


「鳥路さんが作ろうとしているのはシンプルな……かんぴょう巻です」



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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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