21.質問しあった2人・アメジストの輝き
夜の高速はどこか切ない。
マネージャーである冴島さんの運転する車に乗りながら、私は窓の外を眺めていた。最後のミニライブが終わり、もうすぐ私がデビューしないことがファンにも伝わる。
私の顔は罪悪感で歪んでいなかっただろうかと、私は窓に映る自分を見つめながら今日の反省をする。終わるころになって自分のファンが増えていくのが、目に見えて分かった。
どこからか、誰かの寝息が聞こえてくる。全員寝ているわけではないはずだが、車内はシンと静まり返っていた。
高速を降り、見知った道へ戻ってくる。夜の街はギラギラと光りながら、もう一つのに非常を演出している。
私の家の近くまでやって来、最寄りのコンビニで車が止まった。
「ありがとうございました。またーー」
「あ! 冴島さん、僕もここでおります。家に帰ったらすぐ連絡するんで」
そこは祈織たちの住んでいる寮からかなり離れているはずだが、祈織が後者の意を告げた。冴島さんは驚きながらもそれを認め、私達はコンビニで下ろされた。
「なんか、用事だった?」
「いやー、かおると話しときたくて。これからゆっくり話す時間なんてなくなるやろしな」
「そ、っか」
私は驚きながらも祈織の提案?を受け入れ、そのまま家までの道を歩き始めた。秋の冷たい風が、私達の間と吹き抜けていった。
「今日のライブもいいライブやったな」
「そうだね。だいぶ全体のクオリティも上がった気がする」
「特に恋星ノリノリやったよな?」
「それは、僕も思った。最近特にキレキレだよね」
何でもない話をつづけながら、ゆっくりと歩く。もうそこが私の家となった時、祈織は立ち止まった。
「おれにもキミの事、教えてや」
「え?」
「この前、俺の事質問責めにしたやん。今回はボクのターン」
確かに約ひと月前、私は祈織を質問攻めした。
あの時は何も聞き返してこなかったのに、なぜ今?という気持ちが無いわけではなかったが、私は祈織からの質問を待つ。
「好きな色は?」
「……取材ではメンバーカラーのピンクが好きって言っているけど、本当はエメラルドグリーンが好き」
「好きな曲やアーティストは?」
「もう引退したけど、一ノ瀬愛涙っていうアイドルが好き。曲なら、スターダストベイビーって曲」
「へぇ。ボクも聞いてみよ」
「小さい頃なりたかった職業は?」
「物心ついた時にはアイドルになりたかった。さっき言った一ノ瀬愛涙に憧れて、それで」
「かおるがそこまで言うならものすごいアイドルだったんやろな」
「学生時代の一番の思い出は?」
「……あんまり、友達いなかったんだけど、中学の時の修学旅行は楽しかった。いわゆる陽キャばっかのグループで、対して仲良くなかった僕をワイワイ巻き込んでくれて……」
「へぇ。良かったなぁ」
「最近、怒ったことは?」
「……アンチコメント」
「ははっ、なんも気にせんタイプかと思ってたわ。好きに言わせとけ、みたいな」
「ソロならそうかもしれないけど、今の僕はAioonの一員だから。Aioonの桃井薫がいろいろ言われるのは許せないし、申し訳ない」
「あんま、気にすんなよ」
「ストレス発散方法は?」
「ボディメンテナンスしてる時かな。全身マッサージしたり、ストレッチしたりするときは、落ち着く。……ダンスとか、歌っているときも好きかな」
「こんなところも仕事に通じとるんやな」
以前、私が祈織にした質問をなぞるように、祈織は私に質問を投げかけてきた。そこに何の意味があるのかはわからなかったが、私は聞かれるままに答えていく。
「じゃあ、最後の質問。……理想のアイドルは?」
「……ファンを顧みないアイドル。それが許されるアイドル」
「一ノ瀬愛涙さんみたいな?」
「うん」
最低なことを言っている自覚はあったし、もっと違う言い回しがあることもわかっていた。でも、口から出てきたのは最低な言葉だった。
「歌、ダンス、全てのパフォーマンスが卓越していて、視線をそらすことを許さない。そんなアイドル。……観客を焼き尽くして、傷跡になる、そんなアイドル。みんなに追いかけられるような存在になりたかった。そして、その手を振り払って引退する」
祈織は私の言葉を静かに聞いていた。私の最低な一言に対し、眉の一つも動かさなかった。
そうして、祈織はゆっくりと頷くとそのまま私の肩に手を置いた。
「よう、わかったわ。キミの事」
「そう? なんか恥ずかしーー」
「キミ、やっぱり女の子やろ?」
時が止まった。
突然発砲されたかのように体が固まり、恐怖で支配される。
「流石にこんなに近くで過ごしてたら分かるやーーいや、分かってない奴もいるか。まぁ、ボクは君の事、男とか女じゃなく、アイドル星人って思ってるから、そんな怖がらんくてええよ」
「……僕は宇宙人かなんかなの」
「ははっ、似たようなもんやろ。でもまぁ、ファンや仕事相手にはバレてへんよ。ちゃんと会社も考えてる。ここは外やけど、人の気配はない。誰も聞いとらん」
まるで「明日の夕ご飯どうする」とでも言うかの気軽さで、祈織は告げる。それに対して私は、取り調べを受ける犯人だ。それだけ緊張感が違う。
「どこで気が付いたの?」
「んー、最初から線の細い子だとは思ってたよ。デビューできないって話を聞いて、その可能性が強まった。んで、今の質問で確信したって感じ」
そんな、女だと確信されるような話をしただろうか。先ほどの問答を思い出しながら、私は目をつむる。どこかで、間違ったのか?
「……なんか、かわいそうなことしたな。別に責めたいわけじゃない。誰も君のことを責めん。答え合わせしたかっただけなんや。また明日な」
祈織はそう言って私の頭を軽く撫でると、立ち去った。
残された私は、丸裸にされて雪山に放置された死体のように、ジッとその場でうずくまった。
私がデビューできないと言っても、女だと分かっても祈織は何も言わなかった。
それは、喜ばしいことだと思う。激高されたり、世間に暴露すると言われたりしなくてよかった。でも、私の頭は真っ白になっていたし、心はぼっかりと開いていた。
ともにデビューできないと言った時もだれも私を責めなかった。
恋星は一番に反抗してくれたし、「私は悪くない」と言ってくれた。
結は「そんな気がしていた」と言い、引き留めてくれた。
朝は私を師匠だと言ってくれて、そっと次を見据えた一言をくれた。
正樹は初めから知っていたからこそ、「共犯に慣れなくてごめん」と謝ってくれた。
何が正解かわからない。私はどうしたらよかったんだろう。
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