17.受け入れる人と受け入れない人
「あぁ、そろそろMV撮影始まってる頃かな」
私は雲一つない快晴の空を見上げながら、一人、事務所の共有スペースでボーっとしていた。
私が、桃井薫がデビューできないと告げた後のメンバーの振る舞いは様々だった。
感情のままに部屋から出て行く者。
今死ぬと言わんばかりに、体を心配する者。
何も言わず、ただ私の肩を叩く者。
納得した様に、何度も頷く者。
はじめから知っていたからこそ、痛ましげに顔を歪める者。
みんな優しかった。乱暴に出ていった恋星でさえ、その後に「お前は悪くない。それだけは言いたい」とメッセージを送ってくれた。
みんなの優しさが、ただ痛かった。
× × ×
デビュー曲のMV撮影は滞りなく進んでいった。
有名作曲家提供の素晴らしい楽曲。
アイドルのMVを数多く手掛ける、ベテラン監督。
多くのアイドルプロデュースを務めてきた敏腕社長のアドバイス。
すべてが一流のもので、素晴らしいはずなのに、俺たちの心の中はどこかポッカリと穴が開いたようだった。
デビュー曲が正樹の曲ではないと言われた時、モヤモヤしながらも受け入れることができた。それに、すぐに薫が裏デビュー曲という裏技を出してきた。
この数カ月は本当に忙しかったが、充実していた。希望があった。
でも今は違う。先の見えないトンネルの中を走っているようだ。昔は一流のステージに居続けることを夢見ていたはずなのに、今は継ぎはぎの未来を夢見ている。
心は暗く沈んでいるのに、体は練習通り動いた。
一番心配していた朝も、練習通り、いや、それ以上のパフォーマンスを魅せていた。朝はその事を「師匠のおかげっすね」と言って、困ったように笑った。
正樹と祈織もいたって普通で、恋星には言葉に言い表せることのできない気迫があった。
でも、雰囲気は最悪で、MV撮影が終わった後は何もなく解散かと思われた。大事な時期なのにこれでいいのかと思い悩んでいると、正樹がそっと俺の手を引いた。曰く「恋星が呼んでいる」という。
俺は手を引かれるまま、個室のレストランへ行った。そこには既に他のメンバーが待っていた。
不思議な雰囲気のまま料理を頼む。皆が皆、距離感や話題を推し量るように、辺りを伺っていた。
でも、俺たちをここに呼んだのは恋星だ。自然と恋星に視線が集まる。
「みんなに提案がある」
「お? れんせいも? 実はボクもあんねん」
恋星と祈織は、ほとんど同じ提案を俺たちにした。正樹は事前に恋星に聞かせられていたらしく、何も知らないのは俺と朝だけだった。
その提案は桃井薫というアイドルの最後に花を添えるためのものだった。
恋星はあんなに動揺していたのに、数日考え、桃井薫というアイドルの終わりを受け入れたようだった。せめて、あの子のために出来ることをしようと考えを切り替えていた。
裏デビュー曲の話に乗った時のような、未来への光がその場に浮かんだが、俺は演技の笑みを浮かべることしかできなかった。どこかで、薫の終わりが認められなかった。
薫のデビューを拒んだ、体の不調。それには心当たりがあったが、あえて考えないようにしていた。ずっとそこに居てくれるようで、離れていくであろうことを予感していた。
俺は桃井薫に何を求めているのだろう。
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