16.私の為の死刑宣告
「桃井薫はデビューしません。 AioonとしてCDデビューするのは、永瀬祈織、福良結、夏焼恋星、清野朝、そして宮原正樹の5人です」
「ちょーー待ってください! どういうことだよ!」
恋星の怒号が、響き渡る。
私の顔はいつの間にか下がっており、視界にはレッスン室の床が広がっていた。それでも、数人が私の方を見ているのがわかる。何かが背に刺さる。
「こいつの実力はアンタが一番認めてんだろ! だから、アンタはオーディションスキップさせてまで、桃井をAioonに入れたんだろ? オレだって、最初は反対してたけど、今ではAioonに桃井が居なくちゃ始まらないって思ってる! なのにーー」
恋星の熱い言葉に、目元がジンとする。
最初はあんなにつんけんしていたのに、ホント、調子のいい奴だ。でも、嬉しい。
恋星は社長に掴みかかろうとし、それを祈織に羽交い絞めにされていた。社長と恋星の間には冴島さんも壁として立っている。
だが、社長はその壁を押しのけて恋星の目の前に立ち、視線を合わせにらみ合った。
「えぇ。私が一番、桃井薫というアイドルの完全性を理解している。貴方よりもね。……でも、違う。桃井薫がデビューできないのは、実力うんぬんではない。体の問題よ」
「……体?」
そこまで来てようやく、恋星は私の方を振り返った。パチッと音を立てて視線が重なる。
その私と恋星の視線を遮るかのように、社長は私の前に立ちふさがった。そして「貴方達には伝えていなかったけど」と前置きをして、話始める。
「別に死ぬような病気じゃないけど、桃井は体に重要な欠陥がある。このプレデビュー期間は桃井の体がアイドルとして十分かを見極める時間だったの。……そして、結果は不可」
「薫クン、からだ大丈夫なんすか?」
「……うん。本当に死ぬような病気じゃあないから」
状況を処理しきれていないかのような朝の声が、私をえぐる。
嘘でも本当でもない話だ。私の体は男性アイドルとして不可。女だからだ。でも、病気かのように誘導している。
嘘でも本当でもない。最初からそうだった。桃井薫というアイドルは嘘でも本当でもないアイドルなのだ。
「私はどうしても桃井薫というアイドルアイドルを世に出したかった。……でもそれは叶わなかった」
社長は本当に悔しそうに、その美しい顔を歪めた。そして、恋星たちの反論を許さないかのように、圧をかけながら、説明を続ける。でも、私の頭には、いや、他のメンバーの頭にもその説明は入って行かなかっただろう。
恋星は途中途中でその話を遮ろうとしたが、最終的には歯ぎしりしながらその話を聞いていた。そしてぼそりと呟く。
「俺は認めねぇし、諦めないからな」
「……ごめん」
「お前が、謝んじゃねーよ。……お前が一番、悔しいだろ」
「でも、俺には謝ることしかできないから。……それに体のことが無くても、アイドルは長く続けられる職業じゃない。分かるだろ?」
「――っ」
「ごめん」
私はただ謝ることしかできなかった。
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