14.シンメ研究学
「Aioonのシンメってどうなるんすか?」
仕事の合間に最近のアイドルについて朝に語っていると、そんなことを聞いてきた。
シンメとは、アイドルにおいて立ち位置が左右対称になる2人組の事だ。それ以外にも、同期やシナジーがあるメンバーのことをそう呼ぶ場合もある。この場合は、関係性があるからこそ左右対称に置く、という運営の戦略もあるかもしれない。
確かに考えたことはなかった。今のところダンスの立ち位置は固定されておらず、能力によって臨機応変に変更されている。
「だから、今のところAioonにシンメは産まれていないんじゃないかな?」
「そーゆーもんなんスか? むずいっすね」
「でも、将来的にシンメがあるのもいいかもね。立ち位置とか歌割とか固定して、みんなに覚えてもらおうって戦略」
そう朝に返し、Aioonのシンメについて考え始める。
朝と私はどうだろう。
教育係という関係性は中々シナジーがある。でも、それってシンメとは違う気がする。
歌声という点では、似たような声質の二人を組ませるのは、歌としては調和しても判別し辛くなるだろう。
そう考えると声質が高めの私と結、低めの恋星と祈織は合わせない方がいいのかもしれない。
ダンスという点なら、難しい技術を求めても問題ない祈織と結はセットで使いやすいだろう。年もグループの中で年長の2人だ。
私がふわふわと想像に沈んでいると、同じくシンメを考えていたらしい朝が声を上げた。
「俺、恋星クンと正樹クンは良い感じなんじゃないかなって思うんすよね~」
「恋星と正樹?」
「うん。 2人、仲良さそうじゃないっすか。声質もいい感じだし」
確かに低く甘い声の恋星と、透き通った癒しボイスの正樹は声質が合っているかもしれない。
でも、2人の仲がいいことは初めて知った。休憩中とか話しているところは時々見かけるがーー
ピンと来てなさそうな私に気が付いたのか、朝は恋星と正樹について語り始める。
「この前も、2人でレコードショップ巡り? したらしいっすよ。でも、計画的に遊ぼうってなったんじゃなくて、突然正樹クンが恋星クンの家に突撃してきて、そのまま遊んだらしいっすよ。話聞いた時『どゆこと?』って思って笑っちゃったんすよ」
「正樹は衝動的に行動するところあるから……」
「正樹クン、気つかいしいなところあるのに、突拍子ないっすよね……でも、性格に関しても2人の相性は良さそうっすよ。恋星クンは俺様なとこあるっすけど、振り回される方が輝いてるっすよね」
朝はケラケラと笑う。私もつられてヘラりと笑う。
そうか、そんなに2人の相性はいいのか。でも、いつの間にそこまで仲良くなったのだろう。正樹はメンバーと雑談はしても、休日は独りがいいタイプだと思っていた。結局、謎は残る。
その流れでシンメの話は流れ、最近の仕事やメンバーの話になった。
「そう言えば昨日、薫クンと正樹クンの仕事どうでした?」
「どうって言われても……うーん。情報番組のご飯ロケだったんだけど、正樹が苦手なものが出できて、それがもろに顔に出てて焦ったな」
「え、大丈夫だったんすか? ってか、偏食家の正樹クンがグルメロケって、中々挑戦的っすね」
「向こうのキャスティングだからしょうがないで。まぁ、MCの芸人さんが上手くいじってくれて、放送事故にはならなかったよ。味付けのおかげで正樹も難なく食べれたし」
「へぇ、放送楽しみだなぁ」
昨日のことを思い出しながら、朝に話をする。
昨日のロケは本当に冷や冷やした。正樹だって努力していたが、本当に素直なのだ。出された料理に対し「これはちょっと……」というのが、ありありと顔に浮かんでいた。
ほんの数分のコーナーなので、ロケは一店だけで終わった。そして帰る時にーー
「ロケの終わり際、そこのお店の店員さんがファンですって言ってくれて……他のメンバーのファンかと思ったけど、僕のファンだって」
「え、良かったすね!」
「うん。嬉しかった。顔真っ赤にしてくれてさ」
店員の彼女は、顔真っ赤にしながら私たちに話しかけてきた。
芸人さんの提案で彼女と握手をするとき、女の手だとバレるんじゃないかと一瞬ひるんだ。でも、彼女の顔を見たらどうでもよくなった。
水仕事で荒れた手は仕事人の手だった。それに対して私の手は保湿をきちんとした綺麗な手。その事に彼女は申し訳なさそうにしていたが、日々生活をし生きていることが感じられるその手が、私には好ましく感じた。
嬉しい出来事に思い出しにやけをしながら、私は朝の方に話をふることにした。
「朝たちは昨日何してた?」
「俺たちは普通に次のミニライブのリハしてましたね……。そう言えば、そん時に発覚したんすけど、恋星クン、結クンのファンだったって」
「え?」
「親御さんが西園寺歌劇のファンで、その影響で結クンの事知ってたんすよ! 雑談の流れで、結クンの出演作がスラスラ出てきて……びっくりっすよね。その場に冴島さんいたんすけど、『そう言うネタになりそうなことはメディアの前でやりなさい』って怒られて」
「冴島さん言いそう……。恋星はなんて?」
「顔真っ赤にしてたっすね。『オーディションで一緒のグループになった時に言おうか迷ったけど、今は同じ立場っているプライドが許さなかった』らしいっすよ」
想像がつくようで、中々難しい。恋星が結のファン。確かにどこかの雑誌で趣味の欄に『舞台鑑賞』って書いてあった気する。あと、恋星って照れることあるんだ。弄られると不機嫌になると思っていた。「結クンもうれしそうだったなぁ」と呟く朝を横目に、私は驚きを隠せなかった。
「その後、みんなでラーメン食べに行ったんすけど、もうみんなずっと変なテンションで! 祈織クンが恋星クンを弄りまくるから、恋星クンも意地になって、大変だったんすから」
「そうなんだ」
朝の話を聞きながら、内心は穏やかじゃあなかった。
自分以外のメンバーの仲が、自分の知らない所で仲良くなっていく。この経験はRecorDにいた時もあった。それは別に悪いことじゃあないけど、言葉にできない疎外感に襲われる。
でも、RecorDの時ならともかく、いなくなる私以外が結束を深めていることは良い傾向だろう。いや、元々オーディションを通じた絆が4人にはあるのか。
最近、ずっと思考が暗いものになっている気がする。これは、私の、桃井薫というアイドルの死が近づいているからだろうか。デビューという光に向かって歩んでいるみんなとの差を感じるたびに、ぐっと体が強張る気がする。
昨日の私と正樹の仕事終わり、私だけ事務所の社長室に連れていかれた。
そしてそこで、桃井薫というアイドルがデビューしないことが、正式に決定していた。
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