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28話 軍師、餌を撒く

 アキトたちはコルベスの屋敷の執務室に案内されていた。


 執務室の家具はボロボロで高級品の類は一切置かれていない。


 最初にスーレや爺と会った時、アルシュタットの家もこんな感じだった……アキトはコルベスも同じように質素な生活を送っているのだろうと察する。


 そんな執務室で、コルベスはアキトたちにノルトアルスで起きている事件について語っていた。


 すでにアルスへ報告に戻っていたリーンも合流し、シスイとアカネら従魔も同席している。


「なるほど。最近、行方不明者が多発している、か」

「ああ。この一か月ですでに二十人」


 コルベスがそう言うと、アカネが訊ねる。


「今日のノルデンの方々に賛同し、付いていったのでは? 彼らの演説は今日が初めてではなかったようですし」

「ついていくやつは確かにいる。でも、ほんの数名だ。それに行方不明になっているやつらは、家族にすら行き場所を告げていない」

「なるほど。戦に赴くならご家族に伝えるでしょう。たしかに、おかしな話ですね」


 コルベスはこくりと頷く。


「本当におかしな話だ……行方不明になるのは夜が多い。だから夜間の警備を増やし、朝まではすべての城門を閉めている。とても外部の者のせいとは思えなくてな」

「内部の殺人犯か誘拐犯の類……」


 ノルトアルスに限らずどのような町でもある話だ。


 しかし、このノルトアルスの近辺は最近、魔物たちが襲来している。


 アキトは魔物が関係していたらと仮説を立てていた。


 一方で、スーレが来ようとあまり関係ないかもしれないとアキトは考える。昼間は比較的安全で、しかもスーレを連れてくるとすればアキトは警備を厳重にするからだ。


「スーレが来たところでスーレが襲うとは思わないが……」

「いや、この事件は、ノルトアルスの住民にとって今、一番の不安でもある……スーレ様の軍師であるお前さんの活躍もあったとなれば、皆スーレ様を歓迎してくれるはず」


 そこまで考えていたか、とアキトはコルベスに感心する。


 おそらくは今までもノルデンの庇護下に入るよう、コルベスにも誘いがあったはず。しかしそれを拒否し、こうしてノルトアルスを守ってきた……


 コルベスの忠誠心に疑いはない。アキトはアルシュタートにこういう男がいたことを内心で喜んだ。


 とはいえ、事態は予断を許さない。


 アキトはすぐさま事件を解決する手段を考える。


 ……ヴォルフを呼び寄せるのも手だろう。彼はこういう何かを探る事案に適している。しかし呼び寄せたとしても来るのは明日。ヴォルドの守りもあるし、なるべく自分たちで片づけたい。


「コルベス、状況は分かった。一つ聞きたいんだが、行方不明になる人に夜に行方不明になる以外の共通点はあるか?」

「そうだな……特に性別の差はない。特徴と言えば、若者が多いことか。まあこれは、そもそもこのノルトアルスに老人が少ないというのもあるがな」

「なるほど。決して弱そうな者を狙っているわけじゃないんだな。つまり相手は、若者を相手にしても問題ない力を持っている」


 そして若者を好む……もし、相手が魔物とすれば、あの種族が考えられるな。


 アキトのある魔物の存在が頭に浮かぶ。


「コルベス。状況は少し複雑かもしれない」

「複雑?」

「ああ。だが、まずは尻尾を掴まなければいけない。そこで、俺が囮になる」


 コルベスの「お前が?」という言葉を打ち消すように、リーンが訴える。


「アキト様、それは危険すぎます! ここは私に囮を!」

「私も危険と思います。若者という条件なら、私や姉様という手もございますし」


 アカネもそう買って出る。


 しかしアキトは首を横に振った。


「いや、俺の仮説が正しければ、今回の作戦において囮はそこまで危険じゃない」

「なぜ、そう言い切れるので?」


 シスイの問いにアキトはこう答える。


「敵は、吸血鬼の可能性がある。奴らは人の生き血を糧にする」


 しかも、やつらは若い血を好むのだ。若者が多く行方不明になっていることから、アキトは吸血鬼の可能性を考えた。


「つまり、生きたまま捕えなければ意味がないと」

「そうだ。だから皆には、囮ではなく捕獲に専念してほしいんだ。敵が逃げられたとき、追跡を任せられるのはリーンしかいないしな」

「なるほど。ですが、それなら某かアカネがどちらか捕虜でもいい気が」

「いや。俺が囮になるのは、もう一つ理由がある。先ほど、シスイも言っていたが俺たちを見ていた可能性があるだろう」


 首を傾げるシスイだが、アカネがこう答えた。


「旦那様は我らの主人。先ほどの演説を聞いていれば、アルシュタート大公の軍師というのも分かっているはず。もし彼らが魔王軍の手の者なら、アルシュタートを混乱させようと旦那様を狙って襲う可能性もありますね」

「そういうことだ。俺は途中までコルベスと共に行動を共にする。途中で別れ、小路に入るから、皆は敵を捕まえるために周囲に展開しておいてほしい」

「承知しました!」


 こうして俺たちは、ノルトアルスに潜む者を捕獲することにした。

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