27話 軍師、場を収める
アキトたちはコルベスを追い、ノルトアルスの市街を進んでいく。
「む。どうやら、人だかりのほうへ向かうようですな」
シスイが言う通り、コルベスは広場らしき開けた場所へと向かっていた。
アカネも目を凝らして言う。
「皆さん、同じ方向を向いてますね」
「ああ、演説か何かを聞いているのかもな」
アキトはそう察した。何かを訴えるには広場が適している。
やがてコルベスは広場に着くと、兵士たちと共に群衆を解散させようとする。その声に従う者半分、従わない者半分といった感じだ。
アキトたちも広場に着くと、何事かと周囲の状況を確認した。
すると鎧に身を包んだ男たちが数名、広場の中央の噴水を演壇に声を上げているのに気が付く。
「……かように、北魔王軍の脅威は高まる一方! 北の我らがやられれば、次はこの街がやられる! 諸君らも次の戦には、どうか武器を手に参加してほしい!!」
言葉から察するに彼は兵を募っている。アキトはそう察した。
しかし一方でノルトアルスの領主であるはずのコルベスが、募兵を中断させようとする矛盾。
「伝令がノルデン伯の手の者と言っていたな。つまり、勝手に募兵しているわけか」
アキトの察した通り、コルベスは認めていなかったようだ。
コルベスは群衆をかき分け噴水のノルデン兵のもとへと着くと、声を荒げる。
「貴様ら、勝手なことはするなと言っただろう!」
ノルデン兵は臆せずに答える。
「コルベス殿! しかし今は一大事だ! しかもそなたたちの主君アルシュタート大公は死んだのだろう!?」
「それは確認できて……いや、死んでなどいない!!」
「馬鹿を言う。諸君、聞け! すでにアルシュタート大公は主君としての役目を果たしていない! 諸君らは我らノルデンの庇護下に入るべきだ! 誰が、諸君らを南魔王軍から守れる!? 我らの主ノルデン伯その人以外におるまい!!」
ざわつくノルトアルスの民衆たち。実際、ノルトアルスの民からすれば、アルシュタート大公などもはや何も頼りにならない存在だった。
このままでは皆、ノルデンとの合併を認めてしまう……コルベスはついに剣を抜いた。
「ノルトアルスの領主コルベスが命じる! この不法侵入者たちを追い出せ!」
その声に、ノルトアルスの兵が槍を構える。
「我らはノルデン伯から直々の命を受けやってきた! 我らへの不敬は、ノルデン伯への不敬と同じ!!」
ノルデンの兵士たちは怖気づくことなくそう話した。
しかしコルベスたちも引くつもりはない。じりじりとノルデン兵へ近づいていく。
一触即発の状態。アキトはこのままではいけないと、ノルデンの兵たちの前へと歩いていく。
「待て。ノルデン伯はなにか勘違いをしておられるようだ」
「何?」
ノルデン兵は口を挟むアキトを睨む。
「アルシュタート大公は生きておられる。それに、大公はアルスに籠城し南魔王軍を南へと追い払った。やつらは軍勢の大半を失い、しばらくは戻ってこないだろう」
「ば、馬鹿を言え! 一時的に撤退したのは知っているが、とても大公の兵だけでは」
「嘘ではない。近く、スーレ様はこのノルトアルスにも訪れる。それでも、ノルデン伯はこの街がアルシュタート領でないと言えるのかな?」
「ぬっ……口から出まかせを」
しかしコルベスが民衆に向けて言う。
「前も言ったが、南魔王軍が撤退したのは本当だ。スーレ様も生きておられ、近くこちらに来られる」
その言葉に民衆はおおと声を上げる。
「この兵たちは、自らの領地を守りたいがために我らノルトアルスの民を使おうとしているだけだ。彼らはこのアルシュタートに魔物が責めてきたとき、俺たちに兵を出してくれたか?」
民衆はコルベスの話に静かに耳を傾けていた。中にはうんうんと頷く者も。
ノルデン兵たちは旗色が悪いと思ったのか黙り込む。
アキトはそんな彼らにこう伝えた。
「ノルデンや北の諸侯たちが苦しいことは我らも知っている。大公閣下も当然、できる限り手は貸すつもりだ。しかし、勝手な募兵はもう二度と許さない。ノルデン伯にはそう伝えてもらえるか?」
悔しそうに口を噤むノルデン兵。
「ちっ。誰が弱小領主なんかに助けなんて求めるか……おい、行くぞ」
ノルデン兵はそう吐き捨てると、仲間と共に広場から退散していく。
一方でノルトアルスの民衆たちも、解散していった。皆、スーレ様がこられるぞと口にして。
とりあえずは場が収まった。
コルベスははあと疲労交じりのため息を漏らすと、アキトのもとへと歩いていく。
「助かった。礼を言う。俺だけでは、収めきれなかった」
「気にするな。それにこうなったのは、中央のアルシュタットの力不足でもある。これからは、そうならないよう、積極的にこのノルトアルスや他の領地を助けていくつもりだ」
そう答えるアキトにコルベスは感心したような様子だった。しかし、すぐに顔を曇らせる。
「……だが」
「心配するな。スーレは必ず連れてくる」
拒否するような子ではない。それにアルスの者たちも、数日であればスーレが留守にしても不安に思わないだろう。アキトはそう考えていた。
だが、コルベスは尚も複雑そうな顔だ。
「それはありがたい……しかし」
「何か問題があるのか?」
「ああ。今、この街にお呼びするのは危険だと考えている」
「それはつまり、この街が危険だから、ということだな」
「その通りだ。だが、ここでは話せない。一度、俺の屋敷まで来てくれるか?」
アキトはもちろんと首を縦に振る。
そうして広場を去ろうとするアキトとコルベスだが、隣を歩くシスイが足を止め突如後ろへ振り返った。
鞘に手をかけ、いつでも戦えるような状態だ。
「姉様?」
「どうした、シスイ?」
アカネとアキトはそんなシスイに声をかける。
シスイは広場の民衆に目を凝らしながら言う。
「いえ……何やらずっと監視されているような気がしましてな。ですが、これでは」
広場には数百人の人間がいる。そもそも多くの者が、アキトたちに目を向けている。とても特定の誰があやしいなどと断じることはできなかった。
アカネはいつもの調子で言う。
「勘違いではないですか、姉様?」
しかし、コルベスはこう呟く。
「いや、そこの姉ちゃんの勘は間違ってない……俺も、この街に何かが潜んでいると思っている。ともかく、屋敷まで向かおう」
こくりと頷くアキト。
それからアキトたちは屋敷へと向かっていった。
その間、アカネとシスイは周囲を確認しながら進んでいたが、特に不審な者を見つけることはできなかった。




