19話 軍師、大陸を望む
アルシュタットからアルスへの移住が完了して一週間。
アルスの一ノ島に逃れた領民たちは、質素ながらも安定した生活を送っていた。
皆、フィンデリアをはじめとするアキトの師駒たちのおかげで、アルス島という比較的な安全な地に移住することができたのだ。
食料事情は決して良いとは言えないが、アキトの師駒ハナによってカブなどの成長の早い作物が大量に収穫できる目途が立っている。二ノ島と三ノ島にはすでに大きな畑ができていた。
それに、もともとアルシュタットの住民は港町で育った人々。皆、簡単な漁船を作り近海で漁を始めていた。
だから食料は心配ないと、アキトは安堵する。
四ノ島では木材も取れるし、六ノ島では鉱物も取れる。加えて、大陸とは海で隔絶されている。大軍の南魔王軍でも、簡単には落とされない。なにより、フィンデリアが海を割ったのを見れば、南魔王軍も攻めるのを躊躇うはず……
領民たちが皆、不安そうな顔をしないのはアルスの地勢に加え師駒たちの存在による安心感もあるからだろう。アキトは改めて強力な師駒に出会えたことを心の中で感謝した。
そんな中、スライムのリーンが鳥の姿で帰ってきた。
「アキト様! 南魔王軍の残党ですが、すでに歩きで数日のところまで南下しています! 占領した土地も放棄しているようです」
「そうか……浜に上がった死体を確認しただけでも、数千のオークの死体があった。これ以上の進撃は無理と考えたんだろう」
「とすると、しばらく南魔王軍はやってこないと」
「その可能性が高いな。とはいえ、他の部隊がやってくる可能性もあるし、フェンデル村を襲った奴らみたいに小規模な魔物の一団が各地で残っている可能性もある」
アルシュタート大公領の領民がまだ大陸側に多少残っている。今が彼らを救出するチャンスかもしれないとアキトは考えた。
それにと、アキトの頭にある者たちの顔が浮かぶ。
「爺と大司教……やっぱり、アルシュタットでは見かけなかったんだよな?」
「はい……遺体は見つからず」
となれば、アルシュタットの外の村に逃れた可能性がある。
もちろん、可能性でしかない。遺体が残らなかった可能性や、南魔王軍に連れ去られたことも考えられた。
二人のことは気になる……スーレも同じ気持ちだろう。でも、スーレは落ち込まない。
この一週間、アルシュタットにいたときと変わらず領民たちの世話をしていた。
自分も二人のことは一旦おいて、アルシュタート大公領の人々のために尽くそう。
アキトはそう考えることにした。
「よし、リーン。師駒たちを呼んでくれ。大陸での救出活動の作戦を練りたい」
「かしこまりました!」
アキトは、師駒たちと大陸に渡る作戦会議を開くことにした。
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まずは誰を大陸にいかせるか。あまり大勢で動けば、南魔王軍に警戒される。
アキトはそう考え、自身と少数の師駒を同行させることにした。
「留守だが、ベンケー、セプティムス、ハナ、フィンデリアに頼む」
「はっ」
セプティムスは声で、ベンケーとハナは身振りで応じる。フィンデリアはいまだ調子が悪いのか、別室で寝ていた。苦しそうな表情でなくただ眠いだけのようなので、アキトも特に心配はしていない。
この中で、実質的に留守の中心となるのはセプティムスだ。
もともと多くの兵士をまとめていただけに、判断は冷静。アキトの信頼も厚かった。
セプティムスと彼の配下第十七軍団は、皆が百人力の兵士。それに下水道の整備など都市計画も進めてもらっている。だから、彼らを連れていくわけにはいかなかった。
また都市計画にはベンケーの腕力を上げる力も必要。ハナも食料のために畑から離せない。フィンデリアはアルスの切り札ともいえるべき存在。
だから、同行させられるのはリーン、シスイ、アカネ。本音を言えばもっと同行させたかったアキトだが、この三名でも十分戦えると判断した。
セプティムスもそれを心配しているのか、俺に訊ねた。
「……よろしいのですか? 私含め、配下数名をお連れになっても」
俺が答えようとする前に、シスイが口を開く。
「セプティムス殿、心配ご無用。某一人でも十分、アキト殿はお守りできる」
「……姉様、作戦を聞いてました? 旦那様だけを守るんじゃないんですよ?」
それはともかくと、アカネはこう続ける。
「私もリーン様もいます。どうか心配なさらず」
「うむ……どうか、アキト様をお願いいたします」
セプティムスはそう頭を下げた。これだけ心配してくれてるのは素直に嬉しい。
「よし。それじゃあ、皆頼む。明日未明にも、大陸に渡るぞ」
「おう!」
こうして俺たちは大陸へと渡ることにした。




