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18話 軍師、凱旋する

「アキト!」


 スーレがアキト達の元へ駆け寄ってくる。ハナや何人かの住民も一緒である。

 命からがら逃げてきた兵士達にも、砂浜で待機していた人々から水や食料が配られた。


「アキト……よかった!」


 スーレは泣きじゃくりながら、アキトに抱きついた。


「ただいま、スーレ。皆を連れて帰ってきたよ」


 アキトはこの時、自分はやり遂げたと思った。後に大司教と爺がいないことに気付くまでは。


「……うん! ありがとう」 


 同時に、スーレはアキトの手元の杖に気が付く。


「アキト、それ……」


 アキトが海底で拾った、天使の羽の彫刻が付いた杖。


「やっぱ、エリオさんの物か」

「うん。おじい様ので間違いない。わたしが小さい時、おじい様は必ずそれを持ってたから……」

「そうか。じゃあ、これはスーレが持ってないとな」


 スーレは涙ぐみながら頷くと、杖を受け取り、大事そうに頬を寄せる。


「おじい様の杖……アキト、ありがとう」

「俺は拾っただけだ。フィンデリアが海を開いてくれたんだし。きっとその杖が、スーレにも良い出会いをもたらしてくれるはずだ」

「うん!」


 スーレの声にアキトは、自分の師駒達の顔を見た。そして頭を下げる。


「皆、本当によくやってくれた。アルシュタットへの移住計画が上手くいったのは、皆のおかげだ」


 アキトの言葉に、まずセプティムスが答えた。


「アキト殿の計画があればこそ、ここまで逃げてこられたのです」

「某、此度はこれといった手柄を立てておりませぬ、アキト殿。礼には及びませぬよ」

「姉様の言う通り。旦那様のため尽くすことは、我らにとっての悦びですから」


 シスイとアカネも、アキトへそう返した。


「いや。セプティムスと軍団は、居住区の水道敷設まで幅広く仕事をこなしてくれた。シスイとアカネは偵察、それにさっき矢を放った者達へ訓練してくれたじゃないか」


 アキトは、ハナとベンケーに向かって更に続ける。


「ハナは食料の生産、ベンケーは居住区の建設をやってくれたな。それに、リーン。お前が危険を冒してまで敵の接近を知らせてくれたり流言を放ってくれたおかげで、俺達はここに立っている……皆、改めて礼を言わせてくれ」


 そう言って、アキトは再び頭を下げた。


「アキト様、私もハナも喜んでいます。ベンケー様も!」


 リーンはそう答え、ベンケーは胸をドンドンと叩いて喜んでいる。


「皆の働きに、俺は何か報いたい。しばらくここでは貧しい暮らしを強いられることになると思うが、俺に出来ることなら何でも言ってくれ」


 アキトはそう言い残して、足早にフィンデリアの方へ向かって行った。


 スーレもそれに付いていく。


 残された師駒達は、それを見て盛り上がり始めた。


 まず、アカネは嬉しそうに口を開く。


「聞きました? 姉様。旦那様が望みを叶えてくださるそうですよ! わたくしは床を共にさせていただこうかしら」

「アカネよ……我らは大手柄を立てていない。それで褒美に預かろうなどと」

「む! 姉様は本当に堅物ですね!」


 アカネはシスイの言葉に、頬をぷくっと膨らませた。

 それを聞いていたセプティムスがこう口を開く。


「あれもアキト殿のお優しさの顕れなのだろう。師駒に過ぎない我らに、礼を言うのだからな」

「うむ。使い捨ての駒として扱う者も多い。アキト殿は、正反対だ」


 シスイは、うんうんと首を縦に振った。


「そ、そんな乱暴な主君がいらっしゃるのですか?」


 セプティムスは、シスイに困惑した表情を見せる。


「私としては、アキト様のためもっとお役に立ちたいです」


 リーンの呟きにセプティムスが答える。


「うむ、リーン殿の仰る通り。我らもより一層アキト殿のため、尽くさねばいけませんな」 

「某とアカネは戦闘以外、とてもお役に立てぬ。何か、我らなりに貢献できることを探さねば」


 シスイの言葉に、ハナが何やら人には分からない言葉で語り始める。


「……何なに? 私はアキト様に、育てた美味しい物を食べていただきたい……ハナ様、素晴らしいお考えです!」


 リーンはハナの言葉を訳した。ハナはその植物の成長を早める力で、美味しい物をアキトへ食べさせたかったのだ。

 そんな中、セプティムスはベンケーが何かをしていることに気が付く。


「うん? ベンケー殿何をされて?」


 ベンケーは近くの岩を取り出すと、それを器用に掘り出していく。一分もかからない内に、アキトの等身大の彫像が出来上がった。


 少し本物のアキトを美化したような顔立ち。着てもいない壮麗な鎧を身に着け、持ってもいない立派な剣を、天に向かって突き上げている。


 その像を見て、アキトの師駒達は驚く。


「おお! これは何とも見事な!」


 セプティムスは声を上げて、ベンケーを称えた。

 他の師駒達も、ベンケーを褒める。


「ああ、何と勇ましい!! わたくしにも一体下さい、ベンケー様!」


 アカネの言葉に、ベンケーはもちろんと頷く。すると、すぐに同じものを作り上げてしまった。


「お見事です、ベンケー様! 私の変身能力以上です」


 リーンも、ベンケーが作った彫刻をそう評価した。


 ベンケーは、恥ずかしそうに自分の頭を掻く。


 アカネは、それを見て再び口を開いた。


「姉様、これは負けておられませんよ!」

「うむ。しかし、アカネ。我ら姉妹は何をすれば良いのだろうな」

「まずは湯浴みの際、アキト殿のお背中を流すというのはどうでしょうか!」

「それは名案だ! だが風呂などあるのか?」


 シスイの声に、セプティムスが答える。


「浴場なら造ったことがございます。ベンケー殿のお力があれば、民衆のための大浴場も造れるでしょう」

「おお、ならば早速お願い申し上げる。我ら姉妹もお手伝いしますゆえ!」


 シスイはそう言ってセプティムスとベンケーへ頭を下げた。

 いつしかどういう褒賞をもらうかと言う話ではなく、アキトへどう尽くすかに、師駒達の話題は移っていった。


 盛り上がる師駒達を背に、アキトはスーレと共にフィンデリアの前で足を止める。


 素足で砂浜に立つフィンデリア。長いブロンドの髪と白い長衣が、潮風に揺らされた。すっかり昇っていた陽の光が、その髪と服を照らす。


 海を割るという神業も相まって、アキトにはフィンデリアが女神のように見えた。


「フィンデリア……ありがとう。君のおかげで、皆を助けられた。だが、体の方は大丈夫なのか?」


 アキトの言葉に、フィンデリアは海水を指さした。


 ただの綺麗すぎる透明な水。一瞬アキトは頭を捻るが、すぐにその意図を理解した。


「アルスの水……大司教が人々を癒す水って言ってたな」


 アルス島の頂上、丘の上の湖に湧き出るアルスの水。

 その膨大な水の力が、フィンデリアに海を割る力を授けたのだろうと、アキトは納得する。


「看病中、ずっとフィンデリアさんにアルスの水を飲ませていたんだ」

「そうだったのか。この水でフィンデリアは元気になれたんだな。スーレ、ありがとうな」

「わたしなんて何も。このアルスの水がすごいだけだよ」

「スーレが看病してくれなかったら、こんなにフィンデリアは元気にならなかったぞ」


 アキトの言葉にフィンデリアは頷いた。


「そうかな?」

「もちろん。誇っていいことだよ。スーレもアルシュタットの人々を救ったんだ」


 スーレはそれを聞いて照れる。

 そんなスーレを微笑ましく思いながら、アキトは続けた。


「しかし、本当に良かった……もう君が目覚めないんじゃないかって。君がいなければ、俺はここにいなかっただろう」


 フィンデリアは、それを聞いて顔を赤らめる。その恥ずかしさを紛らわすためか、すぐに両手を腰に置いて、どうだと自慢するようなポーズを取った。


「フィンデリアさん、本当にすごかった! わたしもあんな魔法が使えたらな」

「スーレ。多分、あれは魔法じゃ真似できないと思う。って、フィンデリア何を!」


 フィンデリアは再び、両手を天にかざす。すると、アルシュタット側へ大きな波を引き起こした。


 沿岸の南魔王軍を殺すつもりだろうか、とアキトは焦る。


「ま、待てフィンデリア。これ以上、殺す必要は!」


 アキトはそう言って、アルシュタット側の砂浜を見た。すると、そこには続々と南魔王軍の魔物が打ち上げられているではないか。


「魔物達を、助けてあげたのか」


 フィンデリアは、アキトを見て深く頷いた。


 その圧倒的な力にも関わらず、殺生を好まない。アキトはフィンデリアに感心した。


 師駒が元々何なのか、どこからやってきたのはアキトや人間にはよく分かっていない。帝国の軍師達の間では、違う世界の人間や魔物だとか、天に召された者達なのだと言われている。


 しかし、どれも推測の域を出ない。師駒は決して、自分がどうしてこの世界に召喚されたのかを語らないからだ。 


「すごい……フィンデリアさん、かっこいい!!」


 スーレはフィンデリアの足元へ抱き着く。


 フィンデリアは嬉しそうに微笑み、スーレの頭を撫でた。


 髪の色は違えど、まるで親子みたいだと、アキトは心を和ませる。

 そんなアキトの名を呼ぶ声が。


「アキト様!!」


 声の主はリーンだ。その後を追う、アキトの師駒達。


 リーンはアキトの胸へ飛び込むと、興奮した口調で。


「私達、アキト様へ進言したいことがあるのですが!!」


〜〜〜〜


 こうしてアルシュタート大公領の人々の新たな生活が始まった。


 風光明媚なアルスの島々。大陸との間には、南魔王軍を阻む海と潟湖が広がっている。


 質素な家と、いくつかの農地しかないこのアルス。それが帝都や魔都をはるかにしのぐ大都市になるのは、そう遠い未来の話ではなかった。


 アキトは、スーレ、師駒、領民と共に、このアルス島を発展させていくのであった。

これにて一章は終わりです。最強の領地と駒を手にいれひとまずの安全を確保したアキト。助けられる展開が多かったですが、二章以降は活躍していく予定です!

二章は、明日投稿いたします。

また、ナナイロコミックス様で、キョウ屋斎先生によるコミカライズが連載中です!

4月12日からはPixivコミックス様でも連載が始まります! 更新を追っていけば無料で読めますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!

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