特別編 ハロウィーン後編
4人の揃った声が家の中響く。呆気に取られた孝也が固まっているとこれ見よがしに両手の平を見せながら言う。
「さあさあ、たかちゃん。お菓子を出すか、悪戯をされるかどっちか選ぶといい!」
「……お前、俺に悪戯とかそんなことできるのか?」
我に返った孝也は威圧感を出しながら遙を見据える。怯えた遙は晴翔の影に隠れながら威勢を張る。
「仮に私が出来なくてもあと3人もいるんだから!」
「はるちゃんのためなら!」
と反応を示したのはもちろん晴翔だけ。星乃と松原は少し困惑気味に孝也と遙の顔を交互に見ている。そのまましばらく玄関先で待機をさせている。
流石に痺れを切らした遙が口を開く。
「ハックションっ!」
盛大なくしゃみをした。格好が格好なだけに実に寒そうだ。
そう思った孝也も家の中の暖房を堪能するために長袖ではあるがそんなに分厚い生地のものを着ていないので寒い。そろそろ帰ってもらおうと声をかけようと思ったその時。
「たかちゃん、お菓子くれないとほんとに悪戯しちゃうよ? 主にはるくんが」
「俺はいつでも準備できているぞ」
ワクワクした様子でじっと孝也に視線を送る。それよりも星乃、松原が何も言わないがずっと肩を震わせている様子が目に入った。
「はあ、わかった。入れ」
家のドアを目一杯開き、4人を招き入れる。外から見るとコスプレ集団にしか見えない。
「やったー!!」
「やっと入れる……」
「「お邪魔します」」
晴翔は先にリビングに行くとすぐに遙が早歩きでやってきた。
「あ、これ駅前の限定スイーツじゃん!」
キッチンに立つ孝也のところにきた遙がそこに置かれている箱を見て歓喜の声を上げた。
「これ結構有名なところだよ、これ….…」
「ここのケーキって美味しいって評判ですよね」
残りの3人もリビングにきたが、遙の声に釣られてくる。松原も箱を見て驚いたよう呟き、星乃までそれを見て目を輝かせていた。
一人で食べたかったが冷蔵庫にも入らないし、ケーキを5個も一人で食ったら晩飯が食えない。仕方がないが彼らにあげるハロウィーンのお菓子はこれに決まった。
「これでいいんだな?」
「もっちろーん!」
「ありがとう孝也くん」
確認のために聞いたが、女性陣はむしろこれ以外望んでいないようだった。テンションがかなり高くなっている。星乃まで返事の声が弾んでいた。
フォークとケーキの入った箱をリビングに持っていき、それぞれ好きなものを選んで取っていく。見事に5人が食べたかったものがバラけた。
「「「「「いただきます」」」」」
5人は声を揃えて言う。そしてフォークを手に取りケーキの味を堪能する。ジャックオランタンの顔に容赦なくフォークを刺すものも有れば、お化けの形をした生クリームを崩すのがもったいなくてどう食べればいいか悩んでいる人もいる。
か孝也もケーキの美味しさに十分な満足感を得ていた。毎年買っているのだが、今年は一味違う気がした。
「美味しいですね」
隣に座る星乃が笑みを浮かべながら小声で孝也に聞こえるように囁く。普段と違う格好をしているからかその微笑みは慈愛に満ちた心が癒される気がした。甘いものを食べて得られる満足感とは違う。
星乃のその一瞬の笑みが孝也の心に焼き付いてしまった。
「……ああ、そうだな」
そんな単純な一言を返すのも遅れてしまうほどに見惚れていた。他の3人は夢中で気づいていない様子。というかできれば気づいて欲しくなかった。
「でも、三河さんの作ったケーキ、あれの方が美味しかったです」
そう言いながら目を細めて悪戯っぽく笑う彼女はどこか小悪魔的な雰囲気に包まれていた。心臓が一瞬止まったと錯覚してしまうほど、息を呑んだまま固まった。
もはやシスターなのか悪魔なのか孝也には理解できなかった。ただこれだけは言っておこうと思った。こちらばかり揶揄われるのは性に合わない。
孝也は星乃にだけ聞こえるように呟く。
「その衣装、似合ってるな。かわいい」
彼女の耳にはしっかりと届いたのだろう。一瞬で顔が真っ赤になり、顔を背けてしまった。しかし栗色のサラサラとした髪の隙間から覗く耳が真っ赤に染まっていた。
言った孝也も少し照れて赤くなっていた。仕方がない、彼は生まれてこの方女子に可愛いなんて言ったことはなかったのだから。
そのまま口を聞ける雰囲気ではなくなってしまい、二人は話すことが出来なかった。
こうして今年のハロウィーンは星乃と孝也が少し気まずい雰囲気の中、幕を閉じたのだった。
特別編を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
なんとか間に合いました……。まだギリギリセーフですね。あと30分ですが……
本編には絡んでくることのないストーリーですので楽しんでいただけたら嬉しいです♪
(もしかしたら絡ませるかも……?)
それではまた次回、お会いしましょう




