第76話 出禁の慰め
遙が連行されてからしばらく時間が経ち、そして部屋から出てきた。
「あ、帰ってきた」
目に入った景色をそのまま口に出しただけの孝也の言葉。それを聞いた晴翔がバッと後ろを振り返ると肩を落とし顔を俯かせてトボトボと歩いてくる。
晴翔は急いで彼女に駆け寄り、声をかけている。
「はるちゃん大丈夫?」
「うん、心配してくれてありがと……」
遙は口ではそう言っているが少し声が震えている。結構真面目に叱られたのだろう。普段の彼女はどこへ行ったのやら意気消沈している。そしてずっと俯いているので表情が見えない。
「とりあえず、図書館から出ますか?」
星乃が遙を心配そうに見つめながら全員に尋ねる。無言のまま晴翔と松原が頷き、各々荷物を持って席を立つ。
「三河さんも行きますよ」
相変わらずぼーっと眺めているだけの孝也に星乃が声をかける。早くするように促され、孝也も椅子から腰を上げる。
そして一行は図書館を静かに出て行く。
「うわ〜ん! 怖かったよー」
早々に晴翔の胸に飛び込み叫ぶ遙。それに応えるように晴翔は彼女を抱き締め返し頭を撫でる。
「よーしよし。もう大丈夫だよ、はるちゃん」
完全に2人だけの世界に入り、3人はそんな風景を眺めることしかできなかった。ある意味で2人は図書館の司書に感謝しているのかもしれない、公然とイチャイチャできることを。
特に空気を気にすることなく道中でこれからどうするのか気になった孝也は口を開いた。
「それで今日はお開きでいいのか?」
昇降口に着き、靴を履き替えながら聞く。
「そうだな。はるちゃんがこんな状態だし……。俺ははるちゃんを元気付けながら帰ることにするよ」
一番最初に答えたのは晴翔だった。遙は晴翔の胸に顔を埋めながら頷く。
「それじゃあまた明日話そっか」
松原の一言に全員が頷きその日はこれでお開きとなった。雨は止んでいたおかけで水溜りにさえ気をつけていれば濡れずに帰ることができた。
翌日、孝也はいつも通り学校へ登校する。勝負から1日が経ったが特に何か変わることはなく朝を過ごしていた。
だが一部分だけ少しの変化があった。それは教室に入ってくる生徒の多くが孝也を見ながら入ってくるということ。今まで視線を感じた事はなかったのだが、なぜか今日の朝はクラスメイトとやたら視線があった。
そして遙は1日経ったら復活していた。笑顔で晴翔と登校した。
「たかちゃんごめん!」
そして孝也のところに来て早々に謝ってきた。孝也はなぜ謝られているのか見当がつかずはてなマークを浮かべている。
「急にどうした?」
遙は両手の人差し指をツンツンとつけたり離したりしながら言いづらそうに目を泳がせる。なぜ遙はそんな態度を取っているのか、孝也は予想を口にする。
「まあ大方、図書館でも出禁になったんだろ」
「正解! よくわかったね!」
悪びれもせず当てられたことに喜び孝也にもおめでとうなんて言葉を送っている。適当に言っただけでまさか本当にそうだとは思わなかった孝也は呆れて頭を抱え、ため息混じりにつぶやく。
「図書館出禁なんて聞いたことないんだが……」
「まあ滅多に聞かないだけで結構いるらしいぞ」
晴翔が横から補足と言わんばかりに説明を付け足す。
「滅多に聞かないのに結構いるのか?」
「期間が長いんだと。半年とか1年とか。まあ使わない人間からしたらどうでもいいんだろうし、誰が図書館出禁になったかなんて知りたい人もいないだろうしな」
「まあ、それもそうか。それじゃあこいつの期間は?」
気になった孝也は遙に視線を移しながら訊ねる。そして遙が嬉しそうに笑顔を浮かべながら右手の人差し指を立てる。
「なんと1週間だけだって!」
「なんだ、一年じゃないのか……」
「ちょっとちょっとなんでガッカリするの!? 流石にひどいよ!」
残念そうに肩を落とす孝也に頬をプクッと膨らませて怒りを露わにする。
「ま、出禁になったのは遙だけだろ」
「そうだけど……。でも私抜きでみんなで集まるとかなしだからね!」
朝から彼女の叫び声が教室に響き渡っていた。
第76話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
1週間ほど休んでました。休息って大事ですね。まあこの1週間ずっと忙しかったので全然休めてはいないんですけど……。
これからは週2で更新頑張ります。
短編小説も書き始めようかなと思いつつ、いつまでもやらない困った人間です。
それではまた次回、お会いしましょう




