第75話 やってきたその時
5人で図書館に来るといつもの席に座った。孝也はテストや東海林との勝負といった面倒なことを全て片付け、気が抜けたのか孝也は全身の力が抜けたように頬を机に当て伏せていた。
そんな様子の彼をことをそっとしておき、4人は遂に数分前に起きていたことについて話す。
「無事に勝てて良かったです」
「まあ、たかちゃんが2位っていうのはずっと変わらないから〜」
「しかし、東海林の順位には驚いたよな」
「ほんとに吃驚だったね。まさか177位だったなんて……。調子悪かったのかな? 前に孝也くんが聞いた時は35位くらいだったんでしょ?」
意識せずに孝也に問いかける形になってしまった。ハッとしたように松原は孝也の方を申し訳なさそうに目を向ける。
聞かれた孝也は体を起こしぼーっとしながらも口調だけははっきりと応える。
「確かに俺はそう聞いたな。本当に調子が悪かっただけなのか、アイツが周りに対して自分の順位の嘘を吐いてた可能性もある」
思考が纏まっていない状態で口を開いて適当に言ってしまった。案の定、孝也の言ったことに疑問を持った晴翔が首を傾げながら訊ねてくる。
「そんなことやる意味あんのか?」
「知らね。見栄でも張って自分のクラスでの立ち位置でも上げたかったんじゃないか?」
孝也の返答に目を細めて怪訝な顔を向ける晴翔。ウザったらしくずっと見続けてくるので窓の方に視線を逸らして逃げることにした。
「ねえねえ、たかちゃん」
「何だ?」
頬杖を突きながら遙の方を向く。隣に座っている晴翔がまだ視線を送ってくるが遙が「やめよ?」と少し圧のかかった一声で躾けられた犬のように大人しくなった。
「東海林くんになんのお願いするの?」
「それ私も少し気になってました」
「あ、俺も」
「私も」
全員が気になっていたのか、遙の質問にドミノ倒しのように賛同の声が続いていく。4人の視線が孝也という一点に集められ、皆、期待の眼差しを向ける。
少し圧倒されつつ、頭を掻く。
「いや、特に何も考えてない」
「なんで!? どうして? 勿体無いよ!」
遙が勢いよく席を立ち、前のめりになって大声で叫ぶ。彼女の声はしっかりと司書の先生の耳にまで届いていたようで遠くからだが司書の額に青筋が浮かんでいるように見えた。遙自身はここを図書館だということが完全に抜け落ちている。
「せっかく勝ったんだよ? 何でもお願いしていいんだよ!? たかちゃん、何もしないのはほんとに勿体無いよ!」
未だ彼女の熱は冷めず、捲し立てるように孝也に訴えてくる。だが、その熱は孝也には届かず、興味なしといった顔をしている。そして大声を出し続ける彼女は背後に忍び寄る影に気が付かない。もちろん、気が付いていないのは遙だけである。
晴翔、松原、星乃はしっかり気が付いていた。近づいて来ていることに一向に気がつく感じがしない遙に焦りを覚えた3人はなんとかして遙を宥めようとする。
「はるちゃん、少し落ち着いた方が……」
「そうですよ、花香さん。一度深呼吸をしましょう」
「2人とももう遅いかも……」
松原が諦めたように肩を落とし、小声で呟く。遙の背後には目が笑っていない笑顔の司書が立っていた。
司書がそっと遙の肩に手を置く。話に夢中だったのでビクッと全身を震わせた。
「び、ビックリした〜。もう、脅かさないで、よ…………」
ようやく気が付いた彼女の顔は一瞬にして青褪めていく。しっかりと肩を掴まれており、逃げることは叶わない。
晴翔は手を合わせて祈ることしか出来なかった。
「花香さん、ちょっと来てください」
「は、はい……」
断ることのできない要求に従い遙は司書と一緒にカウンターの裏にある小部屋へと連れて行かれた。その後ろ姿は哀愁が漂っていた。
部屋に入るまで3人は心配そうに見ていた。
「花香さんは大丈夫でしょうか?」
星乃が不安気に呟く。連れてかれてから5分ほどが経った頃だった。
「前に友達から聞いたんだけどね、司書の先生って怒ると結構怖いんだって。泣いた子もいるって聞いたよ」
松原持ち前の交友の広さから得た情報を聞いて今度が晴翔の顔が真っ青になる。
「はるちゃん大丈夫かなぁ……」
「とりあえず図書館には出禁になりそうだな」
対して心配している様子が全く見受けられない孝也は一言呟く。
先ほどまで悪雲立ち込めていた空は何かに荒らされたように雲が散り散りになっていた。そしてその隙間から真紅に金色を混ぜたような空が顔を覗かせていた。
第75話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
1日更新が遅れしまい、すみません。
それはそれとして日別PVがまたまた新記録を達成しました! 本当にありがとうございます!
それではまた次回、お会いしましょう
(夏休み本格的に入るにもしかしたら80話超えてからなんじゃ……)




