↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
76/93

第74話 決着

 東海林の睨みを気にすることなくいつも通りの無気力なまま孝也は口を開いた。

 「お前と話すのも疲れるし、色々めんどくさいから成績表だけ貸してくれ」

 右手を出して早く差し出すようにクイクイッと動かし、紙を要求する。だがその仕草を見た東海林はその手を叩き、眉間に皺を寄せて苛立ちを表す。

 「ふざけんなよ。どうせ周りに仲間がいるから強気でいられるんだろ」

 「そうだ、調子に乗んな」

 東海林の言葉に周りにいる取り巻きが騒ぎ始める。普段なら殆ど人が残っていないはずの教室には騒動を聞きつけたクラスメイトや他クラスの生徒が珍しいもの見たさに残っていた。

 「……痛いなぁ」

 対して痛くもない弾かれた右手を摩りながら呟く。

 「大丈夫ですか?」

 一歩後ろで見ていた星乃がそっと近づき、孝也に声をかける。彼女の目は孝也に叩かれた右手に向けられていた。対して赤くもなっていない、自分が叩かれた訳でもないのに辛そうな顔をしている。

 「心配すんな」

 「……ッ!」

 孝也は自分の行動が無意識によるものだった。星乃は目を丸くし、何度も目を瞬かせている。そして見る間に彼女の顔が朱色に染まっていく。

 世界の時間が止まったかと錯覚するほど静寂に包まれていた。

 「あっ……」

 彼女の表情を見て暫くして、間の抜けた声と共に漸く何をしたのか気がついた。

 孝也の右手が星乃の頭の上に乗っかっているのだ。なかなかどうしてサラサラと手入れの行き届いた彼女の髪はシルクのように触り心地が良かった。

 嫌がって振り払うかと思ったが、存外星乃はじっとしていた。大人しく撫でられるためか、やや俯き加減で孝也には彼女の表情は見えなかった。

 「テメェ、何してんだよ!」

 2人の様子を見ていた東海林は呆気に取られた顔をしていたが、頭を振って止まっていた思考を動かして大声を出し、今度は孝也の左腕を掴む。

 止まっていた時間が動き出してすぐに2人の険悪な雰囲気がクラスに充満し、先程までこちらを見て勝手な憶測をしながら笑っていた他の人にまで緊張感が走っていた。

 「別に俺が何をしようが東海林、お前には関係ない。それよりもさっさとこの面倒な勝負を終わらせよう」

 星乃の頭から手を離し、東海林と向き合う。孝也の手が離れた瞬間、星乃は名残惜しそうに孝也を見ていた。

 「マジでムカつくなあ!」

 「お前だって面倒なことはさっさと終わらせたいだろ。だから提案したんだが?」

 「じゃあ、お前のを見せてみろ」

 東海林は掴んでいる孝也の左腕に力を入れる。仮に渡したとして内容を読んで破かれでもしたら元も子もない。多分、先生に言えばまた用意してくれるのだろうが、一々頼むのが面倒くさい。

 「本当に関わっちゃいけない2人だよね……」

 「そうだね。合わない人って孝也くんと東海林くんのことを言うのかも」

 話が全く進まない孝也と東海林を見ていた遙と松原がコソコソと小声で話し合っている。聞こえないように配慮してくれているのかもしれないが、ちゃんと孝也の耳には届いていた。

 「はあ……。もう一層のこと同時に見せ合えばいいんじゃないか?」

 晴翔が呆れて早く終わらせろ、と言わんばかりのため息を吐く。

 「そうだな。それが一番いい案だな」

 「東海林もそれでいいか?」

 「……わかった」

 「それじゃ見届け人として星乃さんは2人の間に立って」

 「あ、はい。わかりました」

 突然、自分に話を振られた星乃は少し遅れて返事をし、孝也と東海林の間に立つ。といっても東海林を警戒した晴翔が東海林側に立った。

 星乃が出てくると東海林の顔をが少し曇る。つい昼休みまでずっと勝ち気でいた筈なのに今の東海林は結果を見せるのを渋っているように見える。

 「ついでに俺も見届けまーす。それじゃあせーので見せろよ。いいか? はい、せーの!」

 晴翔のデカイ掛け声と共に孝也、東海林はお互いに成績表を開いて見せつけるように出す。この場にいた全員がその瞬間に注目していた。

 「なっ……!?」

 孝也の結果用紙を見て東海林は絶句した。

 「見せるだけ、だ」

 奪い取ろうとした東海林の手を避けて見下したように笑みを浮かべ一言だけ言う。

 「は? 2位……って何だこれ!?」

 「……ありえない」

 「三河君ってこんなに頭良かったの……?」

 気になっていたのか、東海林の取り巻きまで覗き込んでくる。それぞれに驚嘆してれている。しかも最初に声を発した奴が順位を堂々とバラしてくれたお陰で、場が少しざわつきはじめる。

 そんなことは気にも留めずに紙を見る。

 「さてさて強気だった東海林の結果は……………………」

 東海林とは別の意味で孝也は声が出なかった。

 「どうだったの〜?」

 「私も気になります」

 遙と松原も両側から覗き込むように見てくる。そして黙ってしまった。

 「35位って嘘だったんだ……」

 「177位……」

 あえて言わないでおいたのだが、驚きのあまり心の声がダダ漏れだな。

 遙たちの心の声が聞こえていたらしい東海林取り巻き軍団が彼に問い詰めていた。

 「おい廉。どういうことだ? お前、俺が前に聞いた時は学年で46位だって言ってたよなぁ」

 「私が聞いた時は35位くらい、って聞いたんだけど?」

 「いやお前ら、ちょっと話を……」

 所謂、修羅場ってやつか。使い方が合ってるかは知らんが色々とバレて大変そうだな。

 目の前で行われている尋問紛いのことを他所に見届け人になっている2人に視線を移す。もう確認する必要もないだろうし紙は閉まっておこう。

 「ま、互いに確認できたし。晴翔か星乃には悪いんだが勝敗だけここにいる人に聞こえるように宣言してくれ」

 「なら私がやりたいです」

 「え、いいの? 声の大きさなら俺の方が……」

 「川瀬さん、お気遣いありがとうございます。でも元を辿ればこの勝負の原因になったのは私ですから。私が終わらせます」

 「それじゃあ、お願いするよ」

 星乃の顔を見て決意が固いことを理解した晴翔は笑顔で頷く。

 一歩前に出て目を瞑り深く深呼吸をする。目を開けた星乃は孝也と目が合うと全てを安心させてくれるような優しい笑顔を一瞬だけ見せてくれた。

 そして背筋を伸ばし、引き締まった表情で星乃は口を開く。

 「東海林さんと三河さんのテスト勝負ですが、結果は三河さんの勝利です」

 声量自体は決して大きくなかったが、彼女の透き通った、風鈴のように優しく美麗な声はその場にいた全員の耳に届き、そして虜にした。

 特に歓声が上がることなく、この勝負は静かに幕を閉じた。見るものがなくなった他の生徒たちは各々、帰り支度を始める。

 孝也は星乃の見ると口を開く。

 「おつかれ、面倒なこと頼んで悪かったな」

 「いえ、大丈夫です」

 屈託のない笑顔で応えてくれる星乃。そして唐突に遙が割って入ってくる。

 「そう言えばさ、たかちゃんが勝ったら東海林くんに何でもお願いできるんでしょ?」

 「ああ、忘れてたわ」

 遙に言われて思い出したように頷く。そして再び東海林の方を向く。

 「おい、東海林。後日、ちゃんと要求するから待ってろ。それと紙も用意するからちゃんとサインしてくれよ。それじゃあな」

 言いたいことだけを言い、再び遙たちの方に向き直る。

 「面倒事も片付いたし、取り敢えず図書館で夏休みについて相談しに行こ〜」

 「そうしよう〜」

 テンションの高い晴翔、遙がすぐに鞄を持つと人でごった返している教室の出入り口に先陣を切って教室から出ていく。松原、星乃、孝也は急いでその後を着いていった。


 「三河孝也……!」

 1人取り残される東海林。順位の詐称で友からの信頼を失い、誰にも見向きもされない。そして孤立した東海林は拳を握りしめて憤恨の眼差しを教室から出ていく孝也の後ろ姿にぶつけていた。

第74話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。

遂に長かったテスト編が終わりました! 5月くらいから始まったテスト編ですが、最初はこんなに続くとは思いませんでした。言うて1ヶ月半とかぐらいでしょ、と当初の私は思ってました。

しかし、結局のところその役2倍以上かかりました。次回からは夏休みに向けて書きます。そして夏休み!

ちなみに第74話は普段の2倍くらいあるのでいつもよりは読み応えあったらいいな。

それではまた次回、お会いしましょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。