第72話 喧嘩とテスト返し
「それで4人揃ってどうしたんだ?」
孝也を囲むようにして立っている4人に訊ねる。特に別のクラスである星乃の方を見る。なぜ彼女がここにいるのかわからなかった。
首を傾げていると遙がテンションを高めた弾んだ声で口を開く。
「テストも終わったし、あとは夏休みを待つだけじゃん!」
「まあそうだな。それで?」
遙のテンションとは真逆に先ほどのこともあって暗い孝也は興味がなさそうだった。ただそこを読み取ってくれる者はいなかった。
「察しが悪ないなあ、孝也。この5人でどっか行こうってことだ」
晴翔がスマホの画面を見せながら言う。そこには山、海、プールなどの夏のレジャー関係のサイトが映っていた。
「孝也くんはどこ行きたい?」
「別にどこでもいいんだが……」
圧倒的にインドア派の孝也は普段の土日ですら買い物以外で外には出ない。それも食糧を買うために外出しているので遊びに行くことは滅多にないので違いがイマイチわからなかった。
いや、海、山、プールとかの違いはわかる。ただ楽しみ方がわからないだけで。
「困りましたね……。三河さんが決めてくれないと」
星乃の言ったことに納得するように頷いている。
「なんでそうなる。別にそっちで決めればいいだろ」
「実はですね、先ほどの三河さんがいない時に多数決を取ってみたんです。そしたら山と海で2票ずつに分かれてしまいまして」
「だから孝也の意見で決まるんだよ! 孝也、山の方がいいよな、な!」
「いや、たかちゃんなら絶対に海だよね!」
遙と晴翔がそれぞれ同調を求めてくる。毎度、暑苦しいことに変わりはない。
「またやってんのか……」
中学校の時からの付き合いだが、2人のことはよく知っている。2人は完璧と言っていいほど息があってた。どちらかが右を選べばもう1人も必ず右だったし。付き合い始めてからはずっとこの2人はクラスも一緒だったし。
だが晴翔、遙は意見が絶対に合うことがないことが幾つかある。その一つがこの山と海のどっちに行くか論争だ。毎年恒例のことでその間に挟まれている孝也はいつも「どっちも行けばいいだろ」と言っているのだが、肝心なのは最初にどっちに行くか、らしい。まあ、全く理解できんが。
そんなことを思い出しているといつの間にか2人は口論を始めてしまった。
「絶対に山だよ! はるちゃん、なんで山だって言ってくれないんだ!」
「いや、海だよ! はるくんこそどうしてわかってくれないの!」
アワアワしている松原が肩を揺すってくる。
「どうしよう、喧嘩始めちゃったよ!」
「三河さん、お2人を止めてください!」
焦っている星乃と松原に言う。
「別に放って置いていいぞ。それよりそろそろ次の授業が始まるぞ。2人はもう戻れ」
「でもはお2人をこのままというわけには……」
「そうだよ! どうするの!」
2人とも心配そうな表情と言い争っている晴翔と遙を見ている。孝也はため息を吐いて2人に告げる。
「気にすんな。中学の時からこの時期は毎年やってることだ」
「そう、なんですか……」
「毎年……」
それを聞いた2人は唖然として心の声が漏れているようだった。
「それではまた放課後に図書館で話しませんか?」
「そうだね、そうしよっか。2人にも伝えとくね」
「はい、お願いします。それでは戻りますね」
そう言って星乃は一礼をして自分のクラスへと帰って行った。ちょうど予鈴が鳴り、晴翔たちにも聞こえていたのか争うのを一度やめていた。
「はあ……はあ……。やっぱり、山の魅力を理解できてないね」
「はるくん、こそ……。海の良さが、わかってないよ」
なぜ息が切れているのか、そこに疑問を持ったが敢えて聞かないことにした。声をかけ席に戻るように促す。
「おい、ひとまず席に戻れ。授業が始まる。そのどうでもいいことはまた放課後にやれ」
「「どうでも良くない!」」
孝也の一言が余計だった。2人は理解してもらえない怒りをぶつけるように孝也に向かって叫んだ。そしていつもの仲の良さはどこへ行ったのか。ツンとしたまま2人は何も言わずに席へと帰った。
そのまま午後の授業が始まった。これも毎年のこと。
※ ※ ※
6時間目。月曜日のこの時間はホームルームになっており、今日はテストの総合結果の用紙が一人ひとりに配られる。自分の1教科ごとから全教科も総合点数のクラス順位と学年順位が載っている。
「じゃあ名簿順に取りに来て」
そう言うと担任の先生があ行から順に名前を呼んでいく。既に全教科が返ってきているので総合点数はわかっている。誰もがそんな情報は求めていない。求めているのは自分の順位だけ。
結果用紙が渡された生徒は順位がよければ自慢をし、悪ければ静かに席に戻り頭を抱えている。
知り合いの中で1番最初に呼ばれるのは晴翔だ。プリントをもらった晴翔は自席に戻らず真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
「おい孝也、見ろ! 俺は109位だったぞ! ついに本気を出してしまったからな」
「そうか、よかったな」
前回から70位くらい上がったんじゃないか?、とニヤケながらぼやいている。順位の部分を何度も見せてきてはニヤニヤとしながら自慢をしてくる。
毎回、本気を出していれば赤点取ったら遙と別れろなんて親からそんなことを言われることにはならなかったんじゃないか、とさえ感じた。
そうこうしているうちに遙も似たように向日葵のような満開の笑顔で近づいてくる。
「見て見て、たかちゃん。私も109位だったー! はるくんと一緒!」
「やったね! さすがはるちゃんだよ。やっぱり俺とはるちゃんは運命共同体なんだね」
さっきまで海と山で喧嘩していたことを忘れているのかいつも通り目の前でイチャつき始める。
視界に入れたくなかったので目を瞑り、頬杖をついて自分の名前が呼ばれるまで待つ。しかし、あまりにも周りが騒がしく、盛り上がってしまい名前を呼ぶ声が聞こえづらくなった。
「次は……三河!」
担任の先生も周りの声に掻き消されないように声を張って呼んだ。さすが、うちにクラスの担任だ。大人数の高校生の声量に負けないくらい腹から良く声が出ている。
適当な感想を持ちながら受け取りに行く。
「良く頑張ったな三河。今回もクラスでお前が1位だ。学年はまあ、惜しかったな。次回もこの調子で頑張れよ」
渡す時に先生は毎回言ってくれる。いつも騒がしすぎてクラスの誰も聞いていない。まあ聞かれない方がいいんだが。
席に戻り紙を二つに追って引き出しへと放り込む。結果はわかっていたし、狙っていた通りなのでもう見る必要もない。あとは東海林との勝負の決着をつける時に見せればいいだけだ。
窓の外を見ると雨が窓や地面に激しく当たると音と共に雷鳴が空に轟き始めていた。
第72話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
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それではまた次回、お会いしましょう




