第70話 テスト返しでの楽しみ
朝のホームルームが終わり、10分の休みを挟んで白髪のオールバックに綺麗に整えられた顎髭が特徴的のダンディな現代文の先生が教室のドアを開けて入ってくる。妙な緊張感の中、授業が始まった。
「それじゃあ、先に解答用紙を配るぞ」
渋い声が教室に響かせ、プリントを配り始める。
テスト返しは毎回見ていて面白いものだ。
名簿順に渡され、自分の点数を見て歓喜を上げるものがいる一方で悲鳴を上げるものがいる。
人によって感情の温度差が変わるのは見ていても退屈しない。
普段は特に気にするような人はおらず、適当に見ているのだが、今回は特に注目しなければいけない人物がいる。
その人物は勝負を仕掛けてきた東海林だ。俺に大口を叩いたのだ。さぞ勉強をして高得点を取ってくれることだろう。人伝だが前回の順位ならまあ確かに死に物狂いで勉強すれば1桁まで届くかもしれない。
名簿順だと彼は孝也よりも早く呼ばれるのでじっくりと表情を観察することができる。
最初に返却される教科は現代文。その後に数学II、英語、地理、化学、物理だ。世界史、数学B、古典は来週の月曜日。つまり勝負の行方は結局のところ来週まで持ち越しだ。
そして東海林の番になり、名前が教師に呼ばれ、答案用紙を受け取る。
点数を見た瞬間に一瞬、苦虫を噛み潰したように顔が歪んだように見えたが、席に戻る時に目が合うと不敵な笑みを浮かべていた。
良かったのか悪かったのか、イマイチ分からない。不敵な笑みが偶々、表情が歪んだように見えたのかもしれない。
東海林の表情の意味を考えながら待っていると孝也が教師に呼ばれた。
「次、三河」
「はいはーい」
軽い調子で返事をしながら教壇まで歩いていく。解答用紙を受け取ると先生が小声で囁かれる。
「今回もクラスで1番だ。よく頑張った」
「……どうもありがとうございます」
少しガッカリした様子で孝也はダンディ先生に感謝を言う。しかしその態度に違和感を覚えた教師は声を張る。
「もっと嬉しそうにしたらどうだ!」
自分の点数と他者の点数を比べて盛り上がっているクラスメイトの一部に先生の声が聞こえて孝也に視線を移した。
「ワーイ、ヤッター」
作り笑いをしながら精一杯嬉しそうに言う。それを聞いた教師は呆れ果てた顔で言ったきた。
「もういい、席に戻れ。次……」
腑に落ちない孝也は不満そうな表情をしながら呟いた。
「なんだよ。頑張って嬉しそうにしたのに」
席に着き、改めて答案用紙を見る。右上に書かれた96という数字。最高点と言われてしまえば東海林の点数を聞いて比べることもできない。先ほどの教師の言葉で結果はわかってしまった。
「はあ……わかりきっていたことだが、第三者から言われると楽しみが減るもんだなぁ」
ため息を吐きながら見直しをする。といっても間違えたところが4問だけ。それもすぐに終わってしまい、答案を畳んで引き出しにしまうと机に突っ伏した。
そのまま過ごしているとチャイムが鳴り響いた。
「それじゃあ、ここまで。赤点取ったやつはまた後で連絡するからな」
そう言い残して先生は教室から出て行った。
先生が居なくなるのを待っていたのか、すぐに晴翔、遙、松原がやってきた。
「どうだった、孝也! 俺は69点だったぞ! 前回から30点以上も上がったぞ」
「私はなーんと73点でした! いやー勉強会のお陰だね〜。こんな高得点を取れるなんて……!」
点数を堂々と公表し、答案を見せつけながら孝也に報告してきた。緩み切った笑顔の2人。このまま放っておいたら小躍りでもしそうな雰囲気で喜んでいる。
「「赤点回避できてよかった〜」」
声を揃えて安堵の息と一緒に出てきた。
もはや2人だけの世界に入ったようだ。まだ返ってきたのは1教科だけなんだがな。
そんな2人を隣で眺めて微笑んでいる松原に声をかける。
「お前はどうだったんだ、松原」
「私もお陰で点数上がったよ。81点だった。2人に比べたら上がった点数は少ないけどね」
えへへ、と頬を人差し指で掻きながら寂しそうに笑う。
「いや、そこの2人は元々が低かっただけだ。気にするな。お前も頑張ったんだろ。ならそれでいい」
「……うん、そうだよね。ありがと! そういえば孝也くんはどうだったの? 東海林くんには勝てそう?」
いつもの笑顔に戻った松原が訊ねる。
「まあな。さっき先生に俺が現代文の最高点だってさ。確認するまでもなかった」
「え、すごいじゃん! でも、よかった……。とりあえず出だしは安心だね」
驚きながらも孝也以上に安心してくれる松原。
「ま、当然だな」
「たかちゃんだからね」
なぜかドヤ顔の2人が返事をする。
ていうかいつ2人だけの世界から出てきたんだ? ずっとあのまま、世界に居てくれれば静かだったのにな。
今回のテストについて色々と話しているとスマホが振動する。取り出すと星乃からのメッセージだった。
『テストは大丈夫そうですか?』
明らかに心配されていた。チラッと3人を見ると会話に夢中になっているようだ。
『これでも一応学年2位なんだ。心配すんな』
『その様子だと大丈夫そうですね。それでも心配させてください。私だってあなたの勝負は気になっているんですから』
『安心しろ。最初の教科は勝った』
『そうですか、それはよかったです。また次の休み時間に聞きますね』
また聞かれるのか……。文字にはせずに心の中に留める。直接話してるわけではないのでイマイチ、星乃の感情が読めない。
アプリを閉じるとあと2分で授業が始まってしまう。会話に夢中で時間を気にしていない3人に声をかける。
「おい、授業が始まるぞ」
3人は黒板の上にある時計を見る。
「あ、ほんとだ! それじゃ」
「また後でね」
「孝也、こっそり星乃さんとラインするなら俺の目の届かない範囲でやったほうがいいぞ」
晴翔だけがなぜか気づいていたことに恐怖を覚える孝也だった。
それから今日はある意味で忙しかった。
答案が返却されるたびに変に注目が集まるし。休み時間になれば晴翔達3人からの結果の報告とテストはどうだったか、と質問をされ、星乃にも結果を報告をしなければならなかった。
東海林との勝負だが、返却された教科は大体1位であり、違ったとしても2位だった。孝也が2位の時は松原が1位を取っていた。
この結果からわかると思うが、もはや東海林の点数が良かったとしても孝也には勝てる要素がなかった。
そうして長い1日を終えた。疲れた孝也はそっと教室を後にした1人静かに帰宅したのだった。
明日は土曜日。堕落した生活をしよう。
第70話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
なんと70話達成です! 昨日は色々あり更新できませんでした。すみません。
その代わりではないですが、いつもより長くなっています。
土日の話はSSかなんかでかく予定です。
(あくまで予定)
次回は月曜日から、最後のテスト返しと勝負の行方について書きます。
(これもあくまで予定。もしかしたら2話構成になるかも…)
それではまた次回、お会いしましょう




