第68話 褒め言葉に照れ隠し
「うわ、すっごーい!」
遙が目を輝かせながら叫ぶ。子供のように興奮している彼女とは違い、晴翔は顔を引き攣らせていた。
「お前、この量どうしたんだ? 流石に買い置きしてたやつなんだよな?」
孝也は質問してきた晴翔の顔を見ながら首を傾げる。
「何言ってんだ? テスト頑張った自分へのご褒美で作ったに決まってるだろ」
当然の如く、といった感じで言うと松原と星乃も食いついてきた。
「え? これ孝也くんが作ったの?」
「流石にこの量はすごいですね……。一人でこの量食べようとしていたんですか?」
「まあ、そうなるな」
2人は何度も目を瞬かせていた。
そんなに驚くことか? と疑問を持ち、少し考える孝也。テストは普段よりも頭を使うのだからそれが終わったら減った分の糖分補給は必須だと思っている。
しかし1番酷かったときは練乳を直にチューブから飲んでいたが。これを晴翔たちに言ったら「さすがにおかしいだろ」なんて言われてしまった。
後半から全くどうでもいいことを考えていた孝也だったが、遙に声をかけられ我に返った。
「ねえ、たかちゃん。何考えてるかわかんないけど食べようよ〜」
そう言いつつも遙は既にケーキを持っていた。
「俺は別であるからいい」
孝也はダイニングチェアのところに戻った。そして頬杖をつきながら4人をじっと見ていた。
「じゃあ俺はプリンもらおう」
「うーん、、、私もプリンにしよ」
「……それでは私はケーキをいただきます」
悩みながらもそれぞれが食べたいものを手に取る。それぞれ全員に行き渡るように持ってきたのだ。そんなに考えなくてもいいとは思うのだが。
「それじゃあ、いただきまーす」
「「「いただきます」」」
遙の声の後に3人の言葉が聞こえてきた。孝也は鼻で笑いながら返事をする。
「ああ、好きなだけ食え」
だが孝也の声は既に届いていなかった。全員、目の前にあるスイーツに釘付けになっていた。
「なにこれ、めっちゃ美味しいんだけど!」
「ほんと! たかやくんすごく美味しいよ」
「……相変わらず美味しいですね」
「いやーまさか孝也ガッカリこんなに美味いもん作れるとはなー」
各々感想言いながら食べている。
誰かに料理を振る舞ったのはだいぶ久しぶりだし、まさかここまで喜んでもらえるとは思わなかった。
少し照れと嬉しさのあまり、口角が上がっていることが自覚できた。誰にも見られたくないので思わず頬を支えていた腕を崩して顔を隠してしまった。
「……予想外だな」
孝也が照れている一方で4人は一心不乱に食べており、そして一口食べるごとに褒め言葉が入るので孝也は彼女らが食べ終わるまで悶えなくてはならなかった。
「ふうー、美味しかった〜」
「さすが孝也だな」
「また食べたいね」
「これならいくらでも食べれちゃいそうです」
満足そうな笑顔を浮かべながら遙が呟くと3人も続いて褒めてくる。もう十分もらった孝也はさすがに静かにして欲しかったので彼らとは反対側のキッチンを見ながら言う。
「うるさい。もう黙ってろ」
ちゃんと聞こえていた晴翔はニヤつきながら口を開いた。
「もしかして孝也。お前照れてんのか〜」
「ええ〜、たかちゃん照れてるの? かわいいなー」
「遙、晴翔、うるさいぞ。お前だけでも家から追い出したやろうか」
口角を下げ、顔を無理矢理元に戻して晴翔の目を見ながら語気を強める。口角を下げすぎた孝也の顔は遙と晴翔からすれば般若に見つめられてるようなものだろう。
「冗談だからそんなに怒んなって」
「そ、そうだよ!」
笑って宥めながらも晴翔は少し焦ったような雰囲気だった。遙も少し声が震えているような気がした。まさかここまで怖がられるとは思っていなかった孝也だった。
家の空気が居た堪れないものになりかけていた。
その時、パンっと手を叩く音がした。それは星乃がやったことだった。
「せっかくの打ち上げなんですし、今回のテストについて話しませんか?」
どうにか空気を変えようと話題の転換を試みたようだ。そして星乃の一言でも今回のテストの会話になった。
大方、ここに来る道中で話しているものだとばかり思っていたが、違った。聞けてなかったことの方が多かったようだ。
何の教科の何番目の問題の答えは何にした、とかあの問題難しかった、とかそういう会話になっていた。自信のある教科から全くダメな教科まで笑いながら話している。
チラチラ星乃が孝也の方を見てきており何度も目が合うのだが、当の本人は合うとすぐに逸らしてしまう。聞きたいことでもあるのだろうか。
そんなことを考えていると遙が質問をしてきた。
「そういえばたかちゃんはどうだったの? 今回は東海林くんと勝負してるんだし」
「いや、別にいつも通りだけど。多分今回も変わらないだろ。東海林がどこまでやってるか知らないが、あいつが俺に勝てるはずがない」
「うわー、すげえ自信。俺にもその自信分けてくれよ」
晴翔が皮肉っぽく言うが、特に気にしなかった。
「なら頑張れ」
「そりゃないぜ〜」
孝也の言った言葉があまりにもテキトー過ぎて晴翔は肩を落としていた。
女子3人は笑いながら彼らのやりとりを見ていた。
気がつけば雨はもうすっかり止んでいた。
第68話目を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
孝也くんが照れました〜!! あんまり人に褒められ慣れてないんでしょうね
彼はケーキとプリンを作っていましたが実際はプリンの方が好きです
次回で打ち上げ回を終わらせてテストの結果発表と行きたいです。
それではまた次回、お会いしましょう




