第60話 余裕と嫌味を
「見せてくれって頼んでおいて引くのは酷くないか?」
ノートを奪うように孝也は4人に問いかけた。孝也は眉間に皺を寄せて不服感を表す。
「いや、すまん。まさか孝也があんなにちゃんとやってるとは思ってなくてな……」
「ほんとびっくりだよ〜、まさかあのたかちゃんが隠れて既に勉強してたなんてね」
「口ではテストの三日前からしかやってないとか言ってたけど、しっかりやってるじゃなか」
「実は影で努力してたんだねぇ〜」
晴翔と遙がニヤついた顔でこちらを見ながら好き勝手に言っている。
実はこのページ、前回のテストの範囲のところを見せてるので本当に今回のテスト範囲は手をつけていないのだが反論するのも面倒なのでやめておいた。
「あれ? でもさっきのページって今回の範囲じゃなかったような……?」
「そうですね。細かく書いてあったのとよく見せてもらえなかったので確実とは言えませんが、多分前回の範囲でしたね」
少しばかり見せたことを後悔して不貞腐れていた孝也はそう発言した2人を目を瞬かせながら交互に見る。声の正体は星乃と松原だ。
「よくそこまで見てたな……ま、そんなことよりもとっとと勉強しろ」
孝也は驚きと関心が入り混じった声を漏らしたが、すぐにいつもの冷淡な声色に戻して彼らに一言告げる。
「孝也、ちょっと聞きたいんだけどちなみにそれ、なんページやってあるんだ?」
晴翔は興味本位で聞いたのだろうが、ほかの3人も黙って孝也が答えるのを待っている。
ため息を漏らしながら、孝也は前回の範囲のページを一枚づつ数え始める。ページ数はドンドンと増えていき、晴翔と遙の顔が少しづつ青くなっていった。
「……18……19……20。前回で20ページだ」
数え終わった孝也が顔を上げると晴翔と遙は諦めたような顔で2人だけで話し始めた。
「さて勉強するか」
「そうだね」
星乃と松原も驚いたように目をパチクリさせていたが、そっと自分の勉強に戻っていたので孝也も自分の勉強を始めるのであった。
それから1週間という時間はあっという間に過ぎ、テスト1日目の当日の朝。
いつも通りの時間に教室に入ると既にクラスの半数以上の人が来ていた。
色々な人がいた。目の下に隈があるもの。今更勉強を必死にしているもの。ただ早く学校に来た友人と話しているもの。スマホを横にしてゲームをしているものテスト当日には普段以上に面白いものが見れる。
今回はテストの前日に晴翔たちに急いで教えてくれと言われることもなく、平穏な日を過ごしていた。
ただ一つだけ気になることがあった。それはこの1週間なぜか東海林が一々、煽りにきたことだ。授業と授業の間の休みの時にわざわざ孝也の前に来ては「よう、底辺。しっかり勉強はしているか?」とか「ちゃんと勉強しないと俺に勝てないぞ」などと余裕そうな顔で言ってきた。
腹が立たなかったわけではない。ただそんな馬鹿の言葉を気にしていてもしょうがないのでずっと無視をし続けたが。
どうせ、東海林が勝つなんてことは絶対とは言い切らないが、ありえないからな。
しかし孝也の代わりに怒っていたものが2人いた。それは晴翔と遙だった。見るからに相当なご立腹だったようだ。
2人は心から孝也を友達だと思っており、その友達の順位を知っているからこそ孝也を下に見ている東海林に苛立っていた。
2人を見ていた孝也は一言だけ言った。
「そんなにムカつくならお前らがアイツより高い順位を取ればいいだろ」
その言葉が2人の勉強へのやる気に火をつけた。これを言ったのがテストの三日前なのだが、テスト前日の勉強会が終わる時にはかなりの仕上がりになっていた。
今度からやる気を出させるためにこの言葉を使うのもありか、と心の中でほくそ笑む孝也だった。
教室の自席にてぼーっとこの1週間のことを思い出しているとでかい声で挨拶してくる男女がいた。
「よっ、孝也。調子はどうだ? 俺は絶好調だ!」
「私も! こんなに安心感のあるテストは初めてだよ!」
どこか自信に満ち溢れている表情の2人。それを見て孝也はフッと軽く笑った。
「その自信、やっていくうちになくならないといいな」
前までのテスト当日の2人と比べると相当リラックスしているらしい。普段から1、2週間前からやればいいものを。
「随分と余裕そうだな。三河!」
声を上げながら孝也に近づいてくる男、東海林廉。晴翔と遙の目つきが少し悪くなっていた。
彼は余裕そうな笑みを浮かべているが、その顔は窶れており、目の下に隈があった。
「何しに来たんだ、東海林」
「お前のその何もかも見透かしたような顔を覚えておこうと思ってな。今回のテストの結果で絶望する表情に変わると思うともう見れないかもしれないからな」
嫌味を言いに来たのか。わざわざご苦労なことだな。
孝也はイスから立ち上がると東海林を正面に見据える。
「そうか。なら俺もお前のそのいかにも一夜漬けしましたって感じの顔覚えておこう。目の下の隈と少しボサボサの頭を特に、な」
まさか孝也が嫌味を言っているとは思ってもみなかっただろう。彼は怒りなのか照れなのかよくわからないが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「余裕だと思ってられるのも今のうちだからな!」
そう言って彼は仲の良い友人のところへと戻っていった。
そしてなんやかんやあったがついにテストが始まるのであった。
第60話目を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
ぼーっとしていたらこんな時間になってました。
しかし今回で60話目です! 次回からテストが始まりますが、特に勉強系の小説ではないのでだいぶ端折っていくかもしれません。(とか言いつついつも長くなっているんだよな……)
次回もお楽しみに、です!!
それではまた次回、お会いしましょう




