第59話 交流と順位
落ち着きを取り戻した孝也は隣にいる星乃を見ると、彼女は既にテスト勉強に打ち込んでいた。
「ま、やれるだけのことはやるさ」
星乃を見つめながら、彼女にだけ聞こえるかわからないほどの声で囁いた。もちろん、彼女には聞こえていないようでしっかり勉強をしている。
4人が集中しているのを確認した孝也は静かに席から立ち上がり、本棚の方へと向かった。応援された手前、本当はテスト勉強をした方がいいのかもしれないが、なかなかどうして彼は勉強をするのは嫌いだった。
様々なジャンルの小説が並んでいる本棚へと来る。ここはテーブルからから少し離れているところで棚で丁度隠れられるので勉強している4人の様子を見ることは出来はない。
滅多に人が来ることもなかったはずなので静かに本が読めるいい場所だった。ただ近くにイスがないことがマイナスポイントだ。
タイトルをよく見ずにテキトーに小説を棚から取り出す。棚と反対側は壁になっているので、そちらに背中を預けるように寄りかかると本を開いて読み始めた。
人目につくことがないこの空間は静寂に包まれており、集中して読むことができた。
そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。
「あれ、三河くんじゃん」
「ああ〜これが噂の?」
静かに本を読んでいたところに突然声をかけられた少し機嫌が悪くなり、眉間にうっすらと皺がよる。開いていたページに指を挟んで本を閉じ、声の方を見てみると知らない男子二人組が孝也を見ていた。
「誰だ?」
率直に思ったこと言ってしまった。
「え? 俺だよ? 同じクラスの澤入だよ。まあ、こっちは別のクラスだから知らなく当然だけど……」
そう言って名乗ってきた男は、親指を立てて隣の男を指していた。
「ひでぇなぁ。ちゃんと紹介ぐらいしろよ。ああ、初めまして、俺は古沢だ。よろしく」
澤入の方を軽く叩きながら彼は自己紹介をしてきた。
「あ、ああ……俺は三河だ」
取り敢えず孝也も挨拶をする。彼ら2人は孝也のことを知っているようだったが、念のために名乗っておいた。
ひとまず、同じクラスと言った澤入の方を見る。微妙に金に近いような明るい髪色だが他の容姿普通といった感じだ。体はガッチリとしていて制服越しでも筋肉がよく付いていることがわかる。
隣の男ー確か古沢と言ったかーも髪色は焦茶色で澤入と似たような背格好だ。
2人とも陽キャと呼ばれてそうな感じだった。
澤入はさん同じクラスと言っていたが、全く憶えておらず本当に同じクラスなのか、別の人に確認したくなった。またあとで松原に確認しよう。彼女ならクラス全員のことを知っている筈だ。
少しの間、黙り込んで考えていたが結論が出たので孝也は2人に質問をした。
「それでなんかようか?」
本を持っている方の腕を下ろし、壁から背中を離して2人の方へ少し体を向ける。わざと気怠そうな声でを出した。だが、あまり意味はなかったようだ。
孝也の態度に気付いた様子はなく、2人は明るい声で話し始めてきた。
「いやー廉と勝負することになって大変そうだなって思って」
「いやいや、澤入そんなこと思ってないだろ。さっきどっちに賭けるか話してたじゃん」
「ちょ、お前。それ本人の前で言うことじゃないだろ! あ、三河くん気にしないでね?」
笑いながら2人だけで盛り上がっている。
用件を言うどころか、どうでもいい話だったのでテキトーに頷きながら2人の話し声を右から左へと耳の穴から通り抜けていく。
「あいつ、ああ見えて結構頭いいからな」
2人の会話の中で気になることが聞こえてきた孝也は思わず反応した。
「それ詳しく聞かせてくれ」
急に会話に混ざってきたことに2人は一瞬驚いていたがすぐに元通りの雰囲気に戻った。
「それって廉が頭いいってやつ?」
澤入が言った言葉に頷く。
「ああ、そうだ。結構頭がいいと言っていたが、実際東海林はどれくらい頭がいいんだ?」
「そうだなぁ。多分学年でも三分の一よりは上にいるんじゃないかな。俺も詳しいことは聞いたことないからわかんないけど」
「前に人伝で聞いた時は確か……学年でも35位とかじゃなかったっけ?」
別クラスのはずの古沢から思わぬ情報が出てきた。孝也は2人に気づかれない程度にうっすらと笑みを浮かべると本を棚に戻す。
「教えてくれてありがとうな」
それだけを言い残して2人の前から立ち去った。
三河がいなくなったあと2人は焦っていた。
「あ! 三河くんの順位聞くの忘れてた。やっべー廉に怒られる……」
「逆に教えちまったもんな。どうする、今から聞きに行くか?」
古沢が提案をするが澤入は首を横に振った。
「やだよ。あいつ星乃さんと少し会話してるからって調子乗ってるんだぜ?」
澤入は苛立ちを表すように下唇を噛みながら言う。古沢は諦めたように別に案を出す。
「なら諦めてテキトーな順位言っておくか?」
「そうする。三河くんだっていつもぼーっとしててそんなに頭良さそうに見えないし学年の半分いってなさそう。多分130位くらいだろ」
「よし、じゃあ報告しに行くか」
そう言って2人は図書館をあとにする。勝手な憶測と不確かな情報を東海林へのお土産にして。
「そういえば廉って本当に35位くらいなのか?」
澤入が古沢に訊ねる。古沢は肩をすくめ両手を広げながら平然と答える。
「俺が知るかよ。人伝に聞いただけ。実際にあいつのテストの点を見たって言う奴すら知らないけどな」
「なんだよ、それ。俺よりも頭いいんだけど」
「あんなの廉の嘘に決まってるだ」
「そうだよな。あいつこそ、そんな順位に見えないわ」
2人の高笑いが廊下に響き渡る。
2人から離れた孝也は4人が勉強しているテーブルへと戻ってきた。また休憩に入っているらしく、4人はペンを机の上に置いて話していた。
孝也の存在に気がついた晴翔が話しかけてきた。
「やっと戻ってきた。どこ行ってたんだよ?」
「小説を読みに行ってたんだよ。それよりも面白いこと聞けたぞ」
晴翔から色々文句を言われそうなのは目に見えてわかったので話を逸らす。
「面白いことってなになに!?」
孝也の言葉に食いつくように遙が反応した。
「うちのクラスに澤入ってやつがいるらしんだが……」
孝也が話し始めると同じクラスの3人が各々反応をした。
「確かにいるな」
「ええっと、いたっけ?」
「ちゃんといるよ。澤入くんは確か、東海林くんとも仲が良かったはずだよ。でもどうしたの?」
予想通り、松原の情報が1番信用できる。しかしまさか、遙も覚えていないとはな……
星乃はわかるはずがないので静かに聞いている。
「そいつから東海林の学年順位を聞くことができた」
本当は澤入の横にいたやつから聞いたのだが、黙っておこう。
「ええ! ほんと!? あ、すみません……」
驚いて思わず立ち上がり、声を上げた遙に無数の視線が飛んできた。それに萎縮して静かに謝る。
「それで何位だったんだ?」
晴翔がやけに真剣な面持ちで聞いてきた。晴翔に東海林の順位はあまり関係ないように思えたのだが。
「35位くらいだってよ」
「え!? 私たちより高いじゃん……」
順位を聞いた晴翔と遙は分かりやすく肩を落としてガッカリしていた。なるほど、自分達の順位と比べるために真剣な顔をしていたのか。と先ほどの晴翔の表情に納得できた。
松原は何も言わなかったが、ホッとしている様子だった。
「なら三河さんは大丈夫ですね」
星乃は安心したように呟いた。孝也は頷きながら席に着く。
「そうだな。まあ、あと1週間真面目に勉強してみるか」
そう言って孝也は鞄からノートを取り出して机の上に広げた。
「そういえばたかちゃんのテスト勉強のノートってちゃんと見たことないかも〜」
「あ、俺も俺も。ちょっと見せてくれ」
「別に見ても面白いもんじゃないと思うが」
そう言いつつ孝也はノートを見やすいように上下を逆さまにして差し出す。
晴翔と遙以外の松原と星乃も少し気になっていたようでノートを覗き込む。興味本位でびっしりと細かな文字で埋め尽くされたノートを見て4人は少し顔が引き攣っていた。
「見せてくれって頼んでおいて引くのは酷くないか?」
ノートを奪うように回収した孝也は4人に問いかけた。
第59話目を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
次回で60話目です! 1週間という時を飛ばしていいのかわからずに書いてました。この話です。
ちょっと悩んでますが、次回は飛ばそうと思ってます。違和感あってもすみません。
それではまた次回、お会いしましょう




