第58話 休憩と原因
鞄を下ろしてひとまず定位置である星乃の椅子に座る。
「孝也と松原さんも来たことだし、やるか」
晴翔の一言で孝也以外の全員が教科書とノートを開いて黙々と勉強を始める。
孝也は案の定、頬杖をついてぼーっと外の青空を眺めている。
しばらくは流れていく雲を見ていたが、それにも飽きたので図書館の中を見渡す。
さすがにテストの1週間前ということで普段よりも多くの人が図書館に来て勉強をしていた。
もちろん、学年一の美少女と言われている星乃と一緒に勉強している孝也達はかなり注目を集めている。実に居心地が悪い。
しかしそんなことを気にしているには孝也だけのようで晴翔達は集中して勉強をしていた。
「あの、三河さん。ここの問題について教えてもらえますか?」
星乃に肩を軽く叩かれ、呼ばれた孝也は頷くと彼女のノートを見るために少し近づく。
「ああ。ここはな……ってこと」
「なるほど……そうやってやるんですね。ありがとうございます」
星乃は感謝を伝えると再び、集中し始めた。その一部始終を見ていた周りの人達が何かを話していたようだが、内容までは上手く聞き取れなかった。
勉強を始めてから30分が経過した頃、遂に集中力の限界を迎えた者が現れた。
「もう無理ぃ……休憩しようよ〜」
それは遙だった。シャーペンを手から放ると机の上にあるノートや教科書を気にすることなく、腕を伸ばしながら突っ伏した。
それを見た晴翔が遙に賛同するように静かにノートを閉じていた。
「2人ともまだ30分しか経ってないよ?」
そう言っているのは松原だ。晴翔達が限界を迎える時間はいつも通りなのだが彼女は毎回言っているのだ。
「いいじゃないですか。休憩しましょう」
星乃も2人に賛同してノートを一旦閉じていた。始めたばかりの頃は松原と同じ意見を言っていたのだが、最近は遙達に賛成することが多くなっていた。
松原は不服そうな顔をしつつも、ペンを机に置いた。
そして雑談タイムに入った。
最初に話題を振ったのは珍しく星乃だった。
「そういえば今日のお昼に噂を聞いたんですけど」
「え! なになに!? どんなこと?」
こういう系の話が大好きな遙は前のめりになりながら食いついた。その勢いに星乃は少し気圧されていた。
「4組で三河さんと誰かがテストで勝負をすると聞いたんです」
「あ……うん。それでそれで?」
星乃以外は全員がその場にいたのでに知っているのだが、4人は少し微妙な表情になっていた。
「その原因が私っていう噂なんですけど。実際のところはどうなんですか?」
星乃からの問いかけに全員が黙り込んでしまった。さらに言えば晴翔、遙、松原の3人が孝也をジッと見ている状態だった。
彼らから当事者が言うべきだろ、という心の声が聞こえて来ているようだった。
そして視線が集まっている孝也を星乃も見つめていた。もはや孝也が言う流れになっていた。小さくため息を吐いてから孝也は口を開いた。
「確かに原因はそうかもしれないが、星乃が気にするとことじゃない」
「そういうわけにはいきません。私のせいで三河さんが勝負をすることになったのなら気にしますよ? 何があってそうなったのか詳しく教えてください」
上目遣いで孝也を見つめる。一度決めたら引くことがない星乃にはできれば知られたくなかったのだが、まさかあった当日に知られるとは。
孝也は仕方なく今朝あったことを話した。
星乃と2人で空き教室に入って行ったところを見られて東海林に絡まれたこと。そして勝負を挑まれ、東海林が勝ったら星乃に話しかけることができないという条件に頷いたこと。
最初は眉尻を下げて申し訳そうな表情だったのだが、次第に呆れたような表情になっていた。
「なんですか、その話……勝手な思い込みにも困りますね」
「まあまあ。孝也が勝てば丸く収まるんだから」
晴翔が笑顔で横から言ってきた。遙と松原もうんうん、と勢いよく頷いていた。
「それでは勝つためにも勉強を再開しましょう」
星乃の一言で休憩が終わった。晴翔と遙は絶望したような表情でペンを握る。
目の前の3人が集中して勉強しているところを眺めていると星乃が肩をトントンと優しく叩いてきた。
また分からない問題があったのかと思い、孝也は彼女のノートを見ながら体を少し近づける。星乃は孝也の耳元に顔を近づけてくる。どうやら3人には気づかれていない。
「絶対に勝ってくださいね」
吃驚して急いで星乃の顔を見ると柔和な笑顔を浮かべていた。一瞬、ドキッとしたが孝也は平常を保つために少しの間、深呼吸を続けた。
第58話目を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
次回ぐらいからようやくテストを始めます!
そして夏休み中に短編小説を書くと言っていたのですが、結局何もせずに終わりました……
ネタが浮かびませんでした。今度はあらかじめ貯めておきますねー
それではまた次回、お会いしましょう




