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傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
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第46話 風邪と電話

 翌日の朝。孝也はベッドから起き上がれずにいた。

 別に布団の誘惑に負けて起きたくなかった訳ではない。

 「ゴホッゴホッ……ああ〜しんど」

 昨日、雨に濡れたことで体が冷えてしまったようだ。朝からだるく、咳も止まらない。完全に風邪を引いてしまったようだ。

 しかし、孝也の家には誰もいない。重い体を仕方なく起こして部屋から出る。壁伝いに歩きながら一階まで降りる。

 「キッツイな。風邪引いたのなんか何年振りだ」

 独り言を呟きながらリビングまで来る。物音ひとつない静かで寂しい空間だった。

 薬が入っている戸棚まで歩いて行き、体温計と薬を探す。働くことを放棄した頭ではどこに何があるのか思い出すのも一苦労だ。

 「……あった」

 なんとか見つけ出した。今から2階まで戻る気力は孝也にはなかった。近くにあるソファに倒れるように寝転がる。

 先ほどよりも体がだるくなっており、もはや今の孝也では起き上がることは出来なかった。薬も飲まなければいけなかったが、何かを食べる気にはとてもなれなかった。

 やらなければいけないことを一つずつ捻り出していく。

 「そういえば、学校にも連絡しないとな……」

 ゆっくりした動きでスマホを探すが、しばらく考えてから部屋に置いてきたままだったことを思い出した。家に固定電話はなく、自分のスマホだけが唯一連絡を取れる手段だった。

 「はあ……」

 大きく深呼吸をすると全身に力を入れてソファから立ち上がる。再び壁に寄りかかりながら階段を登り、部屋の前まで来た。

 ドアを開けて覚束ない足取りで部屋の中に入る。ヘッドボードに置いてあるスマホを見つけたその瞬間にスマホからけたたましい音が鳴り響く。

 頭が割れそうなくらい痛くなってきた孝也は今出来る最大限の速さで歩き、スマホを手に取ってベッドに仰向けに倒れる。そして着信相手が誰かをよく確認せずに電話に出る。彼には電話の相手よりも音を止める方が重要だった。

 「……はい、もしもし? 誰?」

 今まで小さくっ短い言葉しか発していなかったので気が付かなかったが、声がしゃがれており、うまく発声ができなかった。

 「よう、孝也。そろそろ朝のホームルームが始まるが今どこだ? もしかしてまだ学校に来てないのか? それと声なんか変だぞ」

 電話の相手は晴翔のようだ。スマホ越しからでも彼の元気の良さが伝わってくる。

 「昨日、雨に濡れて風邪を……引いたっぽい。悪いが、今日は学校……休む。勉強、会も俺なしで、やってくれ……」

 喉が痛いせいで言葉が途切れながらになってしまう。

 「マジかよ!? お前が風邪をひくなんてな〜。よしわかった。先生にも俺から言っておくわ」

 どうやら心配をしてくれているようだ。珍しく晴翔が優しく感じる。

 孝也は晴翔の提案に素直にのることにした。もはや今の孝也にはいつものように思考する力は残っていなかった。

 「すまん。頼む」

 「おお。じゃあお大事に〜」

 そう言うと晴翔は電話を切った。静かになったスマホをヘッドボードに乱雑に置くと孝也は目を閉じた。

 晴翔と話しただけで少し気が楽になり、一気に睡魔が襲ってきた。弱った体に精神では争う術はなかった。


 同時刻、学校の教室にて。晴翔はスマホを片手に席についていた。

 「たかちゃんなんだって〜?」

 晴翔に後ろから抱きつく形の遙が聞いてきた。普段なら教室にいるはずの孝也がいないことに疑問を持った2人は孝也に電話をかけたところだった。

 「風邪だってよ」

 つまらなさそうに言いながらスマホを机の上に置いて、遙の頭を撫でる。サラサラとした髪がなんともなど心地がいい。

 「ええ! たかちゃんでも風邪引くんだ……」

 孝也の現状を聞いた遙が声を大にして驚く。

 「俺も驚いたけど声はガラガラだったし、妙に素直だった」

 それを聞いた遙は何やら不適な笑みを浮かべながら晴翔に提案してくる。大体、彼女がこう言う顔をしているときは悪いことを考えている。

 「へえ〜、それなら今日は勉強会じゃなくてお見舞い会にする?」

 お見舞いとは言っているが、彼女は弱っている孝也を見たいだけなのだろう。心配と言うより面白そうというのが顔に書いてある。

 「いや、風邪を引いているあいつがそう簡単に家に入れてくれるとは思わないな」

 「確かに、そっか……じゃあ大人しく勉強会だね」

 晴翔の言葉で納得し、がっかりして肩を落としている。

 「ま、赤点取ったらほんとにやばいし」

 その言葉に遙がハッとする。

 「そうだった! 勉強頑張らないと! じゃあ私、由紀ちゃんと星乃さんにあとで言っておくね」

 「ありがと」

 遙が晴翔の背中から剥がれ、晴翔が礼を言うとちょうど教室の前のドアが開き、先生が入ってきた。

 「ほら席につけ〜。朝のホームルームの時間だ」

第46話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。

今回は21時の間に更新できました。一体いつ振りでしょう。

いやあ、私も久しく風邪なんて引いていないので昔を思い出しながら書いています。

こんな症状じゃない! と思ったら感想とかで送ってください……

描写が難しいので助けてほしいです。

あ、普通の感想も待ってますから! ブックマークも!

それではまた次回、お会いしましょう

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