第45話 わからない気持ちとわかっている気持ち
2人と別れたあと1人で歩いている雫。
話し相手がいなくなったことで傘にあたる雨音だけが彼女の耳に響いていた。
「……あれでよかったのでしょうか?」
彼女は由紀と三河の2人で帰らせたことに対して疑問を持っていた。
不安定な心の声が漏れる。
松原に頼まれて彼と2人きりにしたのはいいのだが、無理矢理過ぎただろうか?
学年1位の才女である雫でも正解がわからなかった。
何せ彼女は恋愛ごとには疎かった。いくら容姿端麗で告白されることは多々あっても、全てを断っていた彼女は当然の如く誰かと付き合うという経験はなかった。
そもそも誰かを好きになったこともない雫に正解がわかるはずがなかった。
正しい行動をしたのかわからずモヤモヤしながら、歩道にできた小さい水溜りを避ける。
「はあ……」
大きいため息を吐くが雨音にかき消される。50cmという狭い空間に1人。いつも一緒に帰っている彼が隣にいないだけで彼女は空虚感に苛まれていた。
三河と雪が一緒に帰っていると思うと胸がモヤモヤし、それ以上に締め付けられるような感覚になった。自分が提案し、そうなるようにしたのに苦しかった。
「……わからないものは考えても仕方ないですよね」
こんなに胸がモヤモヤし苦しくなったことがない雫はこの感情について知らなかった。だから考えることをやめた。
三河のことを思うとどうしても、モヤモヤしてしまうので今日の晩御飯について考えることにした雫だった。
場所は変わり、孝也と松原は普通に会話ができる程度には打ち解けていた。
一つの傘の中に2人で入るというのは肩がぶつかりそうなぐらい距離が近かく、雨が激しく降る中、傘の中だけは2人だけの空間のようだった。
「今日は楽しかったね〜」
彼女も緊張が解けたようで普通に会話をしていた。
「そうだな」
「孝也くんが甘いのが好きなの、意外だったな〜」
松原は上を見ながら微笑みながら思い出すように言う。上を見ても傘の柄しか見えないのに、と思っていた孝也。
「大体の人がそうやって言うんだよな。晴翔と遙も最初にそれを知った時は目が飛び出そうなくらい驚いてたな。そんなに驚かれるようなことか?」
松原が言ったことに対して前にあったことを思い出しながら孝也が心底不思議そうに言った。
「あははは〜勝手なイメージだけど孝也くんは甘いもの嫌いかと思ってたよ。コーヒーとかそう言うのが好きなイメージかな」
「お前のイメージには悪いが俺はコーヒーは嫌いだ」
松原に事実を告げるとやはり彼女も目がこぼれ落ちそうなぐらい見開き、驚いていた。
「え!? そうなの?」
「ああ。一回飲んでやめたな。あれは好きになれん」
コーヒーの味を思い出したようで、孝也は飲んでいないのに苦そうな顔をする。
「へえ〜そうなんだ……ふふふ」
孝也のそんな表情を見ていた松原から笑い声が聞こえてくる。
「何がそんなにおかしいんだよ」
流石に笑われると苛立ちを覚える孝也。少し語気を強くし松原に言い放つ。
「違うの! 今日は孝也くんのことたくさん知れて嬉しいなって思って。あ、私の家ここだから」
狭い傘の中で両手を振り、全力で否定している。
そして松原が指をさした場所は俗にタワーマンションと呼ばれているものだった。
「マジか……」
流石に孝也も唖然としていた。ここに住んでいる人間は金持ちしかいないと有名だった。
2人は雨が当たらない玄関前まで行く。
「それじゃあ、私は行くね! 傘は貸すから気をつけて帰ってね!」
「すまないが借りる。明日には返す。それじゃ」
松原が手を振ったきたので、仕方なく孝也も振り返す。
雨の中に次第に消えていく孝也の背中を眺めていた。見えなくなってからようやく彼女は中に入っていった。
「ここから家に帰るのか。はあ、めんどくさ」
松原から借りたステンドグラス柄の傘を見ながら孝也はゆったりとした歩みで家に向かった。
「ヘックシュン!」
その時大きいくしゃみをした。
第45話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
更新がだいぶ遅くなりごめんなさい。毎週謝っています。
あと5話で50話です!!! なんとか展開を動かせるでしょうか?
いや無理のない範囲でお楽しみに!
それではまた次回、お会いしましょう




