第44話 普段とは違う帰り道
体が濡れて次第に寒気が増してきている孝也。だがそれを前の2人に悟られないようにしている。度々くしゃみをしているが、どうやら2人には雨の音で聞こえていないようだった。
逆を言えば、2人が楽しそうにしているのはわかるのだが、何を話しているのかは全く聞こえない。ただ彼には話す相手がいないので彼女たちを眺めていることしかすることがなかった。
そんな中、彼女たちは狭く小さい傘に極力濡れないように身を寄せ合っていた。お互いに距離が近いので当然声もそんなに大きくない。
「由紀さん、さっきからずっと顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
雨によって視界が悪く孝也はわからなかったが、星乃の目には熟したリンゴのように真っ赤になっていた松原が映っていた。
「え? うん、大丈夫だよ! さっきさ孝也くんが前髪をかきあげていたでしょ? あれがもうすごいカッコよくて忘れらないの……」
彼女は頬を押さえて照れている。
「そうですね……三河さんのちょっと意外な一面が見れました」
表情は変わっていなかったが、声色で少し嬉しそうなのが伝わってきた。
「ほんと! 普段の孝也くんでも格好いいのにあんなの反則だよ〜」
星乃の意見に何度も頷き、傘からはみ出ないようにでも抑えられない興奮が体に出てきていた。
2人の会話は随分と弾んでいた。しかし、そう長くは続かなかった。
松原と帰り道が分岐する交差点へときてしまった。目の前を歩いていた2人が立ち止まり、孝也の方を向く。
「私こっちなんだけど、どうしよう……?」
松原だけが別の道を行くことになる。問題は傘が二つしかないということ。
こんなとこで止まっていても雨が強くなるだけなので早く帰りたかった孝也は一つの提案をした。
「俺は走ればすぐだから別に傘はいらないんだが」
「それじゃあ、孝也くんが風邪をひいちゃうかもしれないじゃん」
松原が心配してくれる。その時、黙っていた星乃が口を開いた。
「それではこうしましょう。三河さんが由紀さんの傘に入って送っていけばいいんですよ」
「いや、それなら帰る方向が一緒の星乃の方がいいんじゃないか?」
普通に考えれば孝也と同じことが浮かぶはずだ。
何か裏があるのかもしれないが、孝也には興味がなかった。
「いいですか、三河さん。由紀さんを自宅に送っていけばそのあと傘を借りられるんです」
「まあ、確かにそうだが……松原はいいのか?」
星乃が真剣な顔で言ってくるので気圧されてしまい首を縦に振った。
しかし、この感じだと決定権は松原にある。孝也はそう思い彼女に問いかけた。
「え? わ、私? 私はいいよ! むしろ嬉しいかも」
少し顔が赤く、先ほどよりも声量が大きくなっていた。
「由紀さんもこう言っているので三河さん送っていってください」
松原の返事を聞いた星乃が淡々と話を進めていく。そのあまりの速さに孝也はため息を吐いた。
「はあ……わかったよ。それじゃこの傘は返す」
「ありがとうございます」
星乃に傘を手渡すと濡れないように素早く松原の傘の中に入った。
松原の傘に入ったはいいのだが、傘の高さが彼女にとって丁度いいものだった。
彼女の身長に合わせなくてはいけなかった孝也は膝を少し曲げて屈み、彼女と同じ高さに合わせていた。
「孝也くん、大丈夫?」
「いや全然大丈夫じゃない。すまないが傘は俺が持つ」
「あ、ありがとう……」
そう言って彼女から傘の柄を受け取る。先ほどまでの元気はどこへ行ったのやら。しおらしくなってしまった。
「いいですか、三河さん。しっかりと由紀さんをお家まで送り届けてくださいね」
最後にしっかりと釘を刺してくる。
「わかってる。それじゃ行くぞ松原」
「うん! 雫ちゃんもまたね! ……ありがとう」
「……いえいえ。それではお気をつけて」
2人は小声で何かを話していたようだが、雨の音で孝也には聞こえなかった。
そして星乃とは別れた。
いつもとは逆の方向の道へと歩き始める。
知らない道に、普段一緒には帰らない人、そして最悪の天気が孝也の思考を乱していた。
(よくよく考えたら星乃が松原を送って行けばよかったんじゃ?)
心の内から疑問が浮かんできたが、松原から話しかけられてすぐに沈んでいった。
第44話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
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いや、夜中になるからもしかしたら土曜日になるのか……
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それではまた次回、お会いしましょう




