第43話 帰りの雨と傘
家が同じ方向にある3人は一緒に帰っていた。と言っても松原と星乃の2人が先行して歩き、その後ろを孝也がついて行ってる感じだ。
「今日は楽しかったね!」
「はい普段とは違うところで勉強するのもいい気分転換になりました」
「あの、星乃さん。ちょっとお願いがあるんだけど……」
どこか緊張した面持ちで星乃に声をかける松原。もちろんそのことに気がついている星乃は優しく微笑みながら聞き返す。
「なんですか?」
一度、深呼吸をしてから松原は意を結して聞く。
「……星乃さんのこと雫ちゃんって呼んでもいいかな?」
一瞬目を丸くしたが、すぐに顔を綻ばせた。
「もちろん、いいですよ。では私も由紀さんとお呼びしてもいいですか?」
「いいよ! そっちの方が嬉しいし! やっぱり苗字呼びだと少し距離感じちゃうもん!!!」
星乃からの思わない提案に松原は跳ねて喜ぶ。
2人は楽しそうに話していたが、それとは裏腹に今にも雨が降ってきそうなほど暗い色の空。いつもなら夕日の赤色が映える空だが今日に限ってはその明るさはどこにもなかった。それに先ほどから上空で雷鳴が轟いていた。
「雷の音、すごいね」
松原が空を眺めながら呟くように言う。
「そうですね。川瀬さんは大丈夫なんでしょうか?」
松原も視線につられて上を見ている星乃が呼応する。そして後ろにいる孝也の方を見て聞いてきた。
「どうだろうな。今頃遙にくっついて泣いてるんじゃないか?
なぜこっちを見る? という疑問を持ちながらよく考えもせずに返事をする。
「確かに晴翔くんならありそうだね!」
冗談のつもりで言ったのだが、松原が納得したように笑顔を向けてくる。
「そこ納得するのか……晴翔が気の毒だな」
呆れた目で松原に目を向けながらそう言うと星乃がくすくすと微笑していた。
「三河さんもそんな顔するんですね」
「孝也くんのそういう顔って結構レアだよね」
2人ともこちらを見て楽しそうに笑っている。そんな変な顔をしているのか。と自分の顔を触りながら確認する。
まあ、触ったところで分かるはずないのだが。
「あ、雨。降ってきたかも」
そう言いながら立ち止まり、松原が手のひらを空に向けて確認する。
彼女が言葉を発したあと、すぐにポツリポツリと雨が顔に当たり始めてきた。
「確かに降ってきたな」
少しずつ確実に強くなり始めている雨。2人はカバンの中から折り畳み傘を取り出していた。
「カバンの中に傘入れておいてよかった〜」
「そうですね。……三河さんは持ってきてないんですか?」
傘をさして雨から逃れている星乃はジト目で孝也を見つめる。またですか? という星乃の心の声が聞こえてくるようだった。
「まあ、そうだな」
大きくなってきた雨粒が孝也の体を打つ。だが彼は気にした様子はない。
「濡れちゃうよ?」
「濡れますよ?」
濡れていく孝也を見ていた2人が同時に言いながら、一歩前に出て傘の中に孝也を入れようとしてきた。だが2人がほぼ同時に孝也の横に来たので二つの傘はぶつかり、傘に張り付いていた雨粒が全て孝也のところにかかった。
「冷てぇ……」
頭から盛大に降り注いできた雨に孝也はその一言しか出てこなかった。
「ほんと、ごめん! 孝也くん」
「す、すみません! 大丈夫ですか、三河さん!?」
2人はすぐに傘を引く。結局、雨に当たることになった。
夏になり、ワイシャツ姿になっていた孝也は雨が当たる度に服にピッタリとくっつき、微妙な身体のラインが表れ始めていた。
濡れて額にぴたりとくっつく前髪を掻き上げていると松原が顔を真っ赤にして顔ごと視線をズラした。
「急にどうしたんだ、松原?」
「いや、なんでもないよ? うん大丈夫!」
少し声が上ずっているが、大丈夫ならそうなのだろう。
松原が1人で何かぶつぶつ言っているのを見ているといつの間にか雨が当たらなくなっていた。上を見ると分厚い鼠色の雲ではなく、どこかで見たことある花柄が目の前に広がっていた。
次に視線を横に向けるとそこには頬をピンク色に染めている星乃が立っていた。
「悪いな、星乃」
「いえ、大丈夫です。それよりもなんで傘を持っていないんですか? ちゃんと傘は常備するように言いましたよね?」
目を合わせようとしないくせにしっかり説教をしてくる。
「仕方ないだろ、買うの忘れてたんだから」
その理由を聞いて星乃はただ呆れたように頭を押さえて首を横に振り、ため息を吐いた。
「それではこの傘を貸します」
横にいた星乃は孝也の前に来るとそう言いながら傘を押し付けるように渡してきた。
受け取りながら、よくよく考えてみるとこの小さい傘に2人濡れないように入ろうとすると想像以上に距離が近い。星乃の少し甘い匂いが孝也の花まで届いてくる。
変に緊張してしまい、心拍数が上がっている。今のこの距離なら星乃にも聞こえてしまいそうだ。
「それじゃあお前はどうすんだよ?」
極力普段の表情を意識しながら問いかける。
「それは……その」
「雫ちゃんは私の傘に入ればいいよ!」
星乃が言葉に詰まっていると1人の世界から戻ってきていた松原が言う。
「そうです! 私はまt……いえ、由紀さんの傘に入るのでお気になさらずに」
そう言うと孝也の元から去り、松原の傘に入っていった。1人になった孝也は目の前にいる2人には気づかれないように小さく息を吐いた。
「それじゃあ、行こっか!」
松原の一声で3人は再び歩き始めた。
「ヘクシュン! ああ、早く帰って体拭かないと……」
びしょ濡れになり、体が冷えた孝也はそう呟いた。
第43話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
一日お遅れてしまい、ごめんなさい。でも今回はちょっと物語を動かしたかったのでよく考えていたら遅くなりました。
あと個人的にはトイストーリー4見てたからですね。
すみません……
それではまた次回、お会いしましょう




