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傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
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第20話 残った疑問

 あの日以降、私は名前もクラスもわからない彼の言葉を信じて自分を変えるために努力しました。

 彼が言っていた最高の自分になるために目標を立てました。暗くて友達がいなかった私は立てた目標は『クラスメイト全員と仲良くなる』というものでした。暗い見た目と性格を変えて積極的に人に話しかけるようにしました。

 最初は余計に気味悪がられて無視をされることの方が多かった。それでも『最高の自分』になるため、めげずにクラスメイトに話しかけ続ける松原。

 そしていつの日からか少しづつだが松原に話しかけてくる人が増え始め、いじめていた人たちも彼女に謝り、改めて友達になった。

 松原はそのとき、『最高の自分』になるために立てた目標を達成したのだ。あの時のくらい彼女はもうどこにもなくクラスの人気者として存在していた。

 しかし彼女は何か満たされない気持ちがあった。心の中にずっとモヤモヤが溜まっていた。それはもしかしたらあの日以来、一度も会ってない彼に感謝を伝えたいという感情が彼女の心に引っかかっていたのかもしれない。

 それは10月のある日の夕方。松原は友達と別れた後、1人で歩いていた。近道をしようと帰り道にある公園を通っているとベンチに座っている男の人がいた。見たところ自分と同じ学校の生徒らしい。

 その人は背もたれに体を預けて空を眺めている。上を向いていた微妙に顔が見えない。それでもなぜか気になって近づく。バレないよう木の影に隠れて観察していると知っている声が聞こえてきた。

 「疲れたな……何で毎日学校行ってんだろ」

 「どこかで聞いたことある声……?」

 誰の声か一生懸命思い出そうとしていた。しかし顔が分からず、たくさんの人と友達になった彼女は声だけでは誰だか思い出すことは出来ない。

 どうにか顔を見ようとして移動すると誤って落ちていた枝を踏んでしまった。

 「誰だ?」

 上を向いていた顔が下に下がり、こちらを見ている。

 「あっ!」

 顔を見て松原は声をあげた。あのとき、松原に助言をし、変えてくれた彼だったのだ。松原は自ら彼の前に行く。

 私を見た彼は目を瞬かせている。

 「いや、本当に誰だ?」

 彼の口から聞こえてきた言葉に松原は唖然とする。いくら見た目が少し変わったとしても気がついてくれると思っていた。少し怒りを覚えたが、彼には感謝を伝えたいし仲良くもなりたい。そう思う方が強かった。

 「私だよ! 松原由紀だよ」

 「名前を言われてもな……すまないが本当に思い出せない」

 彼は首を捻り、いまだにわかっていないようだ。

 「ほら三ヶ月前の放課後、雨の降ってる日に私の悩みを聞いてくれたでしょ?」

 それを言ってしばらく考えてからようやく納得したように頷く。

 「あの時のか。だいぶ印象が変わったな」

 彼に言われると他の人に言われるよりも嬉しくなった。

 「あなたのおかげだよ。本当にありがとう」

 少し照れて目は見れなかったがそれでもちゃんと感謝を伝えることはできた。

 多分、今の私は嬉しさと照れ臭さで顔が赤いんだろうな……

 「別に感謝を言われることはしてない。変われたのはお前が努力したからだろ」

 彼は再びベンチに背を預けて空を眺めている。そんな彼をチラチラ見ていると一つ思い出したことがあった。

 そういえば私、まだ彼の名前を聞いてない。同じ学校だし、クラスも知りたいな。

 感謝を伝えたから満足しているはずなのにもっと彼のことを知りたくなっている。そして気づいた時には口に出ていた。

 「あの、あなたの名前を教えて!」

 突然の大きい声に驚き、彼は目を丸くして私を見ている。

 「急にどうした?」

 「私たち結構話してるよね? それでそろそろお互いに自己紹介したいなって……」

 緊張して彼の顔を見ることは出来なかったけど勇気を持って伝えた。

 しばらく経っても何も返ってこず、不安を感じてチラッと視線だけを横にすると、彼は急に興味がなさそうに無表情になる。

 「必要ないだろ。もう会うこともないだろうし」

 「どうして、そんなこと言うの……?」

 松原は男の急変した態度を疑問に思う。それと合わせてそっけない態度に悲しくなり、声が少し震える。

 もしかして仲良くなりたいと思っていたのは私だけなのかな?

 そう思っていると彼は追い討ちをかけるように言う。

 「俺は君のことを知りたいとは思わない。だからは名前は教えない。もういいか? そろそろ俺は帰る」

 それだけを言うと、急に冷たい態度になった彼は立ち上がって横に置いてある鞄を背負う。そしてそのまま歩いて行こうとする。

 「ちょっと待って!」

 服の裾を掴もうと思ったが彼はそれを避けた。彼は振り向くと私を睨んでいた。

 「いいか。もう俺に話しかけるな」

 強く、それだけを言い残して彼は歩いていく。何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。

 遠くなっていく背中を見ながら、1人その場に残された理由を考えたがそれ以上に私は寂寞を感じていた。

第20話を読んでいただき、ありがとうございます。作者の霊璽です。

今回で20話になりました! もう20話ですよ。ここまで続けられて嬉しいです。まあ、辞める気もないんですけどね〜

少し話は変わるんですが、毎回サブタイトルを考えるのが難しいんですよね。本文書くよりこっちの方が大変かも…

そんなことよりこれからも傘から始まる恋物語をよろしくお願いします! ブックマークとか感想も待ってます!

長くなりましたがそれではまた次回、お会いしましょう

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