デウス・エクス・マキナ
9章は結構短くなると思います、なんなら過去最短かも
博士の背後に忍び寄る1つの影、その影はキラリと光る物を握っていた。
岩陰に身を隠し、機をうかがう。
そして、標的である博士が飛行船に足をかけた瞬間、岩陰から飛び出した。
「死ィィィねェェェェッ!!!」
飛び出してきたのは、九重の取り巻きの女だった。
彼女はヒーラー、一度だけ致命傷を回復できる能力を持っていた。そのため、博士の攻撃の後、復活したのだ。
だが、その蘇生能力は一度しか使えず、自身の蘇生に使用してしまったため、九重を蘇生することはできなかった。
突然背後からの叫び声に博士は思わずビクリと体を震わせた。
禍言も起き上がりはしたものの、体は未だ万全からはほど遠く、この女の行動に全く反応できていない。
当然、博士も疲労でまともに動くことはできない。
彼女が握っていたものは、九重が使っていた無駄に装飾の凝った剣だ。
その剣を思い切り振りかぶり、博士の背に斬りかかる。
取り巻き女が剣を振り下ろしたその瞬間━━
━━取り巻き女の手首から先が消失した。
否、正確には博士の背後の空間が割れ、割れた先の異空間の空を斬った。
そして、その空間は彼女の腕を飲み込んだままスッと閉じ、肘から先を消失させた。
取り巻き女は腕から血を噴き出すが、痛みよりも先に混乱に脳が支配される。
だが、その脳すらも頭部ごと、腕と同様、異空間に攫われる。
残された胴体はバランスを失い、博士の背に倒れ込んだ。
「ははっ、博士血みどろでやんの」
「はっはー、いい剣もらっちゃった、もーうけ」
「お前も返り血浴びて、る……え?」
返り血をモロに浴びた博士、それを笑う禍言。そして飛行船の中のソファにくつろぐ男。
その存在に気付いた博士は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「やぁ、なんか君たち随分と変なのに襲われてたね。何あれ?彼女?」
その男は禍言が持っていたハズのジュースを優雅に揺らしながら、2人に茶々を入れる。
「ってそんなワケないか!君たちからは女っ気を感じないもんな!はははっ。……おいおい、そんな怖い顔するなよ、別にボクは君たちとケンカをしに来たわけじゃないんだ」
「……じゃあなんでオレたちを助けたんだよ、見ず知らずのヤツなんざ見捨てちまえばいいじゃねェか」
飄々とした態度で居座るこの男に禍言は本調子ではないながらも戦闘態勢に入った。
博士も今にも眠り落ちそうな意識を張り詰めさせ、禍言から借りたままのインパクト・オメガを1本だけ起動させる。
「……ボクは、目の前で殺されそうになってるやつがいるのに見捨てるほど、薄情なにんげ……ヤツじゃないのさ」
禍言の発言に一瞬眉をひそめるが、すぐに先程と同じヘラリとした態度で言葉を返す。
「いまいち信用ならねぇなぁ、なぁ博士」
「……まぁこちらは戦闘したくともできぬ身だ、どうしようもあるまい」
禍言は口ではこう言ったが、眼前の男から戦闘を始めるようなピリッとした空気を感じないと分かると、構えた拳を降ろした。
それを見た男は持っていたジュースを一気に飲み干し、再び口を開く。
「で、君たち、なんでそんなボロボロなの?何に追われてるの?なんでこんな北の大地までこんな飛行船で来てるのさ?」
「一度に3つも聞くな。それに貴様の素性も分からぬ状態で話すことはできない」
一度に全ての疑問をぶつける男を、博士は冷静に突き放す。
「たしかにその通りだ、ごめんね」
片目を閉じ、手を合わせて男は軽く謝罪する。
「じゃあとりあえず安全なところに招待するよ、大丈夫、ボク以外にここへ通ずる道は出せないから」
そう言って、合わせた手を広げると、先程取り巻き女の首と手を飲み込んだ裂け目が現れた。
「ボクの名前はデウス・エクス・マキナ、デウスと呼んでくれ。そしてようこそ、ボクの世界、銀界へ」
裂け目の先は、月明りと、それを反射する雪で染められた、見事なまでの銀世界だった。
デウス・エクス・マキナってのは本来は舞台だかの用語だそうで、主人公たちが行き詰ったときに神が現れて全部解決しちゃうっていう展開のことを指すみたいですよ。まぁだからと言ってこの作品でそれをやることはありませんがね




