日本独立記念日
ちょっと空いたけど前の3か月と比べれば誤差みたいなモンよな
「貫通魔術、なかなか使えそうじゃねぇか」
返り血に塗れた右手を見つめながら、ダイゴは呟いた。
ダイゴが手術で得た能力、それが貫通魔術だ。正式名称ではないのだろうが、内なる声が「貫け」と叫んでいるので、ひとまずそう呼ぶことにした。
ダイゴはそのまま病院に帰ろうとしたが、自身が血まみれなことを思い出し、とりあえず上着を脱ぎ全身の血を拭った。
「まぁ……この辺り、ほとんど人は住んでねぇだろうだけど、一応な」
ダイゴは襲撃犯たちの居場所まで全速力で駆けながら周囲を観察していたが、ほとんどの住宅は既に放棄されていた。
第三次世界大戦が始まって以降、軍の主要施設周辺は戦場となる可能性が高いので、近隣の住民は軒並み疎開していた。
ダイゴが入院していた病院は軍病院なので、周辺の住民はいないという訳だ。
そんなことを思い出しながら、ダイゴは血でぐっしょりとした上着を肩に掛け、少し足早に病院へと足を進めた。
途中、清掃班とすれ違い、血まみれの様相をあからさまに引かれて傷ついたのは、今はどうでも良いことだろう。
ダイゴが病院に戻ると、聞き覚えのある声が病室から響いてきた。
「いやーすごいね彼は!全くね!病み上がりだというのにあの活躍!以前”ホレボレする”なんて言ったけど、もうその次元を飛び越えてきたよ、全くね!」
「……まだいたんですか」
「おや奇崎くん!さっきぶりだね!全くね!」
ドアを空けると、そこには案の定、例の中年がパイプ椅子に座ってダイゴの部下たちと話を、いや、ほぼ一方的に喋っていた。
呆れた顔で中年に声をかけると、中年は気持ち悪い笑みを浮かべながらダイゴの背中をバンバンと叩いた。
「君の病室から出てすぐに襲撃が来て避難するハメになってね!君がすぐ鎮圧してくれたからどうせだし君たちの近くにいようと思ってね!正直言ってシェルターの中にいるより君たちの近くにいた方が安全だからね!全くね!」
「同時に一番危ないですけどね」
「それもそうだね!全くね!それはそうと、どうだった、貫通魔術は?使ったんだろう?ぜひ感想を聞かせてくれたまえよ」
そう言った中年の目は嫌な色をしていたが、一応はこの人も上司のようなので、ダイゴは報告することにした。
ついでに、ダイゴは自身で適当に名付けた貫通魔術という名称が正式名称だったようで、何とも言えぬ気分になっていた。
「そうですね、ナイフを投げれば人を2人ほど刺し貫けましたし、足で背中を蹴ればこれまた容易く貫通しました。少なくとも私は出来ることはが増えるので有用と考えています」
「ふむ、なるほどね」
「ただ」
「ただ?」
ここで、ダイゴは続きを言うかどうか迷うが、上司への報告に抜けているところがあってはならないだろう、という軍人としての責任感が続けろ、と促した。
「ただ、これを一般の兵たちに使いこなせるとも思えません。こいつらであれば何とか実戦投入が可能なレベルには扱えるでしょうが」
そう言ってダイゴは部下たちに視線を移した。
「そうかいそうかい、他でもない君の意見だ、間違いはないだろうね。分かった、上にもそう報告しとくよ」
いつの間にか取り出していた端末にダイゴの報告をメモした中年は胸ポケットにそれをしまいながら立ち上がった。
「でも、この報告をあの人たちが聞いたら、まず間違いなく君の隊員全員に同じ手術をさせようとするだろうけど、彼らが寝てる間、第一線で戦うのは君だけになっても大丈夫かい?」
「そうなったら1人で何とかしますよ」
「フフッ、頼もしいね、全くね。んじゃ、僕は本部に戻って報告してくるから。君たちもさっ僕が言ったこと、忘れないようにね!全くね!じゃあね!」
中年はそうまくしたてると、今度は急ぐように病室を去ったのだった。
中年が退室してから約30分後、部下たちと談笑していたダイゴの携帯に着信があった。送り主はあの軍帽の上司だ。
『奇崎隊全員の手術が決定した。これより1時間後、雁屋二等兵より階級順に手術を行う。それまでに体を清潔にし本部実験室まで来るように。以上』
この日より僅か1か月後、奇崎隊は行く先々で戦況をひっくり返し、ソ連からアムール川より東の土地を奪った。これにより日本は中国北部、モンゴル全土、そしてソ連の一部を自身の国とした。
日本は第三次世界大戦以降アメリカの属国となっていたが、この戦争によって得た領土をさながら手切れ金のように明け渡し、アメリカから完全に独立し、改めて同盟国として対等な立場となった。
部下たちの戦闘シーンはまだお預けです。考えうる限り最悪の形でお披露目します




