人類最大は在りし日の夢を見ない
またいつの間にか1ヶ月経とうとしてた、危なかったぜ。
2年前のある日。白髪混じりのサングラスをかけた男は放浪する少年を拾った。髪も服も炎によって焦げ、胸に歪な傷を負っているその少年を放っておけるほど、サングラスの男は非情ではなかった。
「オラ、大人しくついてこいガキ」
「ガキ呼ばわりすんなこのクソジジイ!」
「んだとゴラァッ!」
反抗的な態度ではあるが、それでも自分のあとをついてくるその少年は、この上なく純粋で、それでいて果てしなく濁った目をしていた。サングラスのおかげで目線を合わせずに済んだことに安堵する程度には、気味の悪い瞳だった。
「ん、着いたな。ここが北往生市、お前がこれから暮らすことになる街だ」
「なぁおっさん、あんた街って言葉の意味知ってるか?人がいっぱい住んでる場所のことを指すんだぜ。こんなバケモンだらけの地獄を指す言葉じゃねぇよ」
「文句ばっか言ってんじゃねぇ!……と言いてぇが実際その通りだから反論のしようがねぇ」
過去には人類が住んでいたのであろう建造物は魑魅魍魎とそこの住民との戦闘によって破壊され、常にどこからか、悲鳴とも動物の鳴き声とも似た声が聞こえる。それを地獄と言わずして何だと言うのか。
少年はそんな地獄を目の当たりにし、無意識に口角が上がっていた。それに気がつくと、サングラスの男にバレないように手で口元を隠した。
「なぁおっさん、あの炎もここのバケモンなのか?」
少年の指の先には、人の形をした炎が四足歩行の異形を焼いていた。奇っ怪な、しかし北往生市では日常茶飯事なその光景を見たサングラスの男はというと。
「んん……まぁ似たようなモンだな。おーいハイロ!」
「おっ、ダイゴさんじゃないすか、どもっす。こんなとこにいるとは珍しいっすね」
炎から人の声がすると、たちまち炎は凝固し、白髪の中性的な人間へと変貌した。ハイロと呼ばれたそのもののセリフからサングラスの男の名がダイゴだと言うことを知った少年だったが、そんなことはどうでもよかった。
「おう、外からの帰りでな。こんなガキを拾ったもんだから帰ってきたんだ。そうだ、紹介するぜ。こいつはハイロ、炎の魔術師だ」
「ども、炎しか扱えないポンコツ魔術師っす。ま、住めば都ってもんで、ここも案外悪くはないっすよ」
薄ら笑いを浮かべながら、ハイロはポンコツと名乗った。貼り付けたようなその笑みには、自虐の他に何かが隠れているように少年は感じていたい。
「魔術師、か。さっきのバケモンといい、マジで何でもありなんだな」
「まだまだこんなモンじゃねぇぜ、超能力者に妖怪に吸血鬼に妖精に、この世の不思議は全てここに揃ってると言っても」
「いやダイゴさん、ちと違いますよ」
「あん?」
ダイゴのセリフを遮るような発言をしたハイロは、少年を一瞥した。
「この子、木目丘の生き残りっすよね?あの炎ばっかりはここにはないっすよ」
「あぁ、確かにそうだな。ともかく、うん、これをくれてやる」
一瞬、考えるような素振りを見せ、ダイゴはとある拳銃を少年に渡した。その銃は白い大理石でできており、更には謎の模様も彫り込まれていた。少年は訝しむようにその銃をじっと見るが、それがどのようなものなのか分かるほど、銃にも模様にも詳しくはなかった。
「ここに住む以上、お前は力を手にする。だが、その力が通用しねぇやつがいるのがこの街だ。そんなやつと対峙したときに、こいつを使え。きっと助けになるはずだ」
「……まぁ、くれるってんならもらうけどよ。返せっつっても返さねぇからな」
「俺ぁそんなケチンボじゃねぇよ。と、そういやお前の名前、まだ聞いてなかったな。なんて名前なんだ、教えてくれよ」
「オレは……」
その少年は、ニヒルな笑みを浮かべ、己の名を口にした。
「オレは禍言!災禍を招き、全てをブッ壊す男だッ!!」
高らかに名乗ったあとハイロとダイゴのおっさんに笑われたのはここだけの秘密




