間話1
むかーしむかーしの昔話
私は中学に上がり、と同時に転校をしてクラスの誰とも仲良くできずに図書室に引きこもっていた。中学校の図書室は難しそうな厚い本からライトノベルまで何でもござれだった。ゾロリとぼくらのシリーズしか読むもののなかった小学校とは大違いだった。
ページをめくるごとに広がる活字の世界と、時折挟まれるちょっとえっちなイラストの魅力に惹かれ、ライトノベルを読むようになった。
バトル系のものばかり読んでいたぼくは、異能力というものに憧れた。そんなものがないのは知っていたし、そういうものに憧れて変なことをするのを中二病と呼ぶことも知っていた。それでも諦めきれず、深夜にこっそり家を抜け出し薄暗い夜道に繰り出したり、拾った鉄パイプを振って剣術の真似事をしたりしていた。
6月の後半、一学期の期末テストでクラスが勉強ムードに包まれていた時だ。オレは授業を寝ずにちゃんと聞いているから、テスト勉強なんてしなくたってそれなりにいい点が取れていた。実際、中間テストでもクラスの上位10位には入っていたし。
そういう訳で、家族が寝たことを確認すると、二階の窓から飛び降り家から抜け出した。その日は自転車の鍵をあらかじめ持っておいたから、いつもより遠くへ行くことにした。フードを深くかぶり、人がほとんどいない堤防を走り、木目丘駅まで向かった。
『木目丘市へようこそ!』の看板を抜け、とりあえず狭い路地に入ると、その人はいた。いや、人という表現は正しくもないのかもしれないが、今は人としよう。ともかく、そこにいた人は厚手のコートで身を包み、コンクリートの地面に長剣で傷をつけていた。
夏の自己主張が激しくなってきた6月の終わりに暑そうなコートを着ているというだけでも不審者だっていうのに、長剣、しかも3つの刃が螺旋状に絡まっているへんてこな剣でコンクリートをガリガリと削っていたら、もう怪しさ満点というものだろう。
ぼくがエアコンの室外機に隠れてその様子をこっそり見ていると、その人は話しかけてきた。
「そこの君、別に隠れなくたっていい」
「にゃ、にゃ〜ん」
「猫のマネしなくたって分かってるから、■■■■くん」
オレの名前。親に付けられたものではなく自分自身で己に課した名前。それを呼ばれ、顔面の血が逆流したかのような感覚を覚えた。と、同時にとても興奮していた。私はこの人こそが、ぼくをこことは"違う"世界に連れて行ってくれる人だと、そう感じていた。
「ふん、君は…………そうか。なるほど、まさに君はここに来るべくして来たわけだ」
「それは一体、どういう……?」
隠れる意味もなくなったので立ち上がると、ターコイズの眼で全身をじっと見られると、よく分からないことを言われた。
「気にするな、と言ってもこんなことで失敗しては元も子もないか。ふん、君が今日、この時間、このタイミングでここに現れ、俺に会うのは君が生まれる前から定められていた運命だと、そういことだよ」
「なんだよそれ」
「そのままの意味だ。……自己紹介が遅れたな。俺は、"魔法使い"、君のその望みを叶えてやれる者だ。そして君、■■■■くんは俺の望みを叶えてくれる者だ。よろしくな」
夜の街で握手を交したぼくたちは、この日を境に、行動を共にするようになった。
「今日はここまで書くぞ」
「このペースだったらハロウィンまでには終わりそうだな」
「来年のな」
「……はぁ」
「ふん、そうすぐにこの計画は完遂できないからな」
とはいえやることはいつも変わらず三本螺旋の剣で地面を削るだけの毎日だったけど。
そして、2018年10月31日、初めに魔法使いを見つけた場所に辿り着いた。それは、この地面を削る作業の終わりを示していた。この一年以上の間、私と"魔法使い"どの間に言葉はほとんど存在しなかった。最初にこの計画のあらましを聞いたくらいで、あとはぼくが時折こぼす愚痴のようなものだけだった。
「これで最後だ。君はここで死に、そして生まれ変わる。覚悟はいいか?」
「……あぁ」
返事をし、床に仰向けに寝転ぶ。胸の真上では、三本螺旋の剣が月明かりに照らされ妖しく光る。
「君が次に目を覚ますとき、世界は全く違ったものになっているだろう。それでは、しばしの別れだ」
意外にも、なんの抵抗もなく刃は吸い込まれるように胸に刺さった。
だいたい話の終わりは主人公の死亡




