第七章 それぞれの十日間
迷宮都市の発見は、クラスの生活をすぐには変えなかった。
城壁の向こうに二万人が暮らし、紙も布も調理器具も売られている。冒険者として登録すれば、迷宮へ自由に入れる。
目的地は見つかった。
だからといって、三十九人全員で翌朝から移住できるわけではない。
片道三十キロ。
道順が分かったとはいえ、今のクラスメイトにとっては一日がかりの距離である。
三十九人分の宿泊費も必要になる。食事代もかかる。迷宮へ入るなら、現地で使える身分証と、最低限の装備が要る。
拠点を捨てる理由もなかった。
水が出る。
食料を確保できる。
寝床がある。
泉と農園、作業場まで整っている。
森の教室は不便だが、金を使わずに暮らせる。
迷宮都市は、まだ移住先ではない。
ボスAを倒すための活動拠点として、少しずつ進出する場所だった。
「十日間、準備期間を置く」
迷宮都市発見の翌朝。
委員長は教室で、全員へ方針を説明した。
「この間に街までの経路を整える。冒険者登録の方法、宿、物価、魔石や素材の売却方法も確認する。十日後、迷宮都市へ向かう第一陣を出す」
「今の三班はどうするの?」
花ちゃんが尋ねた。
「いったん解散する」
教室がざわめく。
「これからは目的ごとに参加者を募る。狩り、採集、資源探索、街への買い出し、拠点整備。必要な仕事は毎日変わる。固定班より、自由に人を集めた方がいい」
委員長は、ホワイトボードへ三つの区分を書いた。
採取地域。
注意地域。
危険地域。
「採取地域は、教室から近く、昼間なら大型魔物がほとんど出ない場所。経験の少ない者だけでも行動できる。ただし、六人前後で動くこと」
「注意地域は?」
「ウサギ、鹿、犬型の魔物がいる。武器を使える者と、ヒール要員を必ず入れる」
「危険地域は、大きな牛が出たような場所ね」
花ちゃんが言う。
「そうだ。大型魔物、ボア、未知の魔物が確認された地域。戦闘経験のある者を中心に編成する。誰かが撤退を求めたら、全員で退く」
「自由に組んでいいと言いながら、条件が多くありませんこと?」
お嬢の指摘に、委員長はうなずいた。
「好きに行動していい。ただし、死なないための条件は守ってもらう」
「妥当ですわね」
「出発前に、参加者、目的地、帰還予定をホワイトボードへ書く。帰ってきたら成果と危険情報を追加する。単独行動は原則禁止」
巧が手を挙げた。
「街の中は?」
「巧については例外とする」
「最初から名指しなんだ」
「街まで単独で行ってよいという意味ではない。街の近くまでは複数で行動してくれ」
「了解」
固定された三つの班は、役目を終えた。
その日から、クラスメイトは目的に応じて集まり、毎日違う組み合わせで森へ入るようになった。
◇
二回目の迷宮都市調査には、巧、大輔、花ちゃん、忍の四人が向かった。
戦闘班としては少ない。
しかし街までの経路は確認済みで、危険箇所も地図に記録されている。
巧は交渉と案内。
花ちゃんはマジックボックスによる物資運搬と、全体の管理。
忍は索敵と護衛。
大輔は、魔道具と生産設備の調査を担当する。
「本当に一日で着くのね」
夕方、城壁を見上げた花ちゃんが言った。
前回は探索しながら進み、途中で野営した。
今回は、山ちゃんが作った地図に従って最短に近い経路を歩いている。湿地と谷を避け、休憩場所まで決めてある。
朝早く出れば、日没前に到着できた。
「慣れれば、もう少し早くなるよ」
巧が答える。
「問題は、帰りに買った荷物を持つ場合だけど」
「マジックボックスがあります」
花ちゃんが自分の胸を指す。
「重量を無視できるから、行きと帰りで歩く速さは変わりません」
「やっぱり、兵站としては反則だな」
大輔が言った。
四人は、巧が見つけておいた宿へ入った。
支配人は巧の顔を見ると、すぐに気づいた。
「思ったより早かったね。そちらが仲間?」
「はい。これから何人かずつ、街へ来る予定です」
「部屋は二つでいい?」
巧が答えるより先に、花ちゃんが口を開いた。
「男女で分けてください」
「もちろん」
支配人は、それ以上余計なことを聞かなかった。
若者四人。
街の外から来た開拓者。
冒険者登録を希望している。
迷宮都市では、それほど珍しい存在ではないらしい。
よそ者へ寛大というより、細かい素性を気にしない。
その適度なルーズさが、転移者たちにはありがたかった。
◇
翌日、四人は冒険者組合と商工組合を訪れた。
冒険者登録には、厳密な身元保証が必要なかった。
名前。
年齢。
出身地。
戦闘技能。
最低限の項目を記入し、登録料を払えばよい。
出身地の欄には、森の拠点と書いた。
嘘ではない。
その場所に正式な地名がないため、職員も追及しなかった。
「これで身分証になるの?」
花ちゃんが、金属製の登録証を確認する。
「街の中なら、ほとんどの場所で使えるよ」
巧が答えた。
「ただし、犯罪を起こしたら冒険者組合にも記録が残る」
「起こさないわよ」
「忍にも言っておいた方がいい」
「なぜ私?」
「屋根から屋根へ移動してみたい顔をしている」
忍は街の建物を見上げた。
「訓練に向いている」
「やらないでね」
「夜なら目立たない」
「時間帯の問題ではありません」
商工組合でも登録方法を確認した。
魔物素材や木製品を単発で売るだけなら、冒険者登録証で十分。
継続的に商売をする場合は、商工組合へ業種と取引規模を申告し、税を納める。
教室で作った木製品を大量販売するなら、いずれ商工登録が必要になる。
「今は魔石と魔物素材の売却だけでいい」
花ちゃんが判断した。
「商売を始めるかは、全員で相談してからにしましょう」
「木製品が、どれくらいで売れるかだけ調べたい」
大輔は家具店、木工所、建材店を順番に回った。
木材の価格。
職人の賃金。
家具の製作期間。
必要な工具。
木魔法を使える職人の数。
同じ木魔法でも、術者によって加工精度が大きく違うことも分かった。
単純な板や棒なら、多くの使い手が作れる。
複雑な接合、薄板、同じ形の部品を大量に作るには、高い技術が必要になる。
「俺たちの加工技術、思ったより売れるかもしれない」
大輔が言った。
「すぐに売るの?」
「まだ売らない。目立つからな」
異世界へ来て二週間の高校生が、現地の職人より正確な部品を量産すれば、注目される。
価値があることと、今すぐ利用すべきことは別だった。
◇
大輔が最も長く観察したのは、魔道具店だった。
店内には、魔石を利用した製品が並んでいる。
照明。
冷蔵庫。
小型の炉。
調理用コンロ。
オーブン。
風呂釜。
使われているのは、牛型魔物が残したものと同じ、小型の魔石だった。
魔石そのものに、複雑な機能があるわけではない。
発光。
発熱。
冷却。
基本的な性質は三つだけ。
魔石を目的に応じて加工し、魔道具へ組み込むのが錬金術師の仕事だった。
小型魔石の買い取り価格は、大銀貨二枚。
日本円の感覚なら、約二万円。
「思ったより安いな」
大輔が言う。
「一個で照明を十年使えるんだよ?」
花ちゃんは商品説明を読む。
「一般家庭の照明なら十年。冷蔵庫なら五年。どちらも使い切ったら交換する」
発光と冷却の魔道具は、街の一般家庭にも普及していた。
一度購入すれば、長期間魔石を交換せずに使える。
対して、発熱は消費が激しい。
家庭用のコンロやオーブンへ使えば、一年ほど。
風呂を沸かす熱源として毎日使えば、三か月ほどしか持たない。
「料理用としては、薪の方が安いのね」
花ちゃんが言った。
「火力を一定に保てるし、煙も出ない。でも魔石代が高い。宿や食堂なら使う価値があるけど、一般家庭では贅沢品だ」
火力系の魔道具は、本体へ魔石を固定せず、交換できる構造が一般的だった。
使い切った魔石を抜き、新しいものを差し込む。
大輔は店員へ質問しながら、外側から見える構造を覚えていく。
「分解してみたい」
「買うの?」
「高い」
「勝手に分解したら駄目よ」
「見れば、大体分かる」
大輔はコンロの周囲を歩き、吸気口、火力調節器、魔石を収める部分を観察した。
「これなら再現できるかもしれない」
「錬金術師が魔石を加工しないと使えないんでしょう?」
「加工済みの魔石を買えばいい。魔石を入れる本体は、木でも作れる」
「燃えない?」
「火が触れるところだけ金属か石にする。調理器具の構造は、それほど複雑じゃない」
店員の視線を感じ、花ちゃんは大輔の腕を引いた。
「続きは拠点で考えましょう」
「あと少しだけ」
「怪しまれる前に出ます」
大輔は未練を残しながら、魔道具店を出た。
◇
巧は二回目の訪問でも、短い時間で知り合いを増やした。
宿の支配人。
冒険者組合の受付。
布屋の主人。
食堂の店員。
武器屋の職人。
門の近くで荷車を貸している商人。
一度話しただけの相手から名前を呼ばれる。
「巧。お前、この前言ってた仲間か?」
「そうです。今後、もう少し増えます」
「森の開拓村だったな。魔物が少ない場所で大変じゃないか?」
「やはり、あの森は魔物が少ないんですか?」
「あの辺りは実入りが悪い。狩りをするなら街の西か、北の森へ行く」
巧は詳しく話を聞いた。
教室のある森林は、安全な代わりに魔物の分布が薄い。
花ちゃん班ほど強力な索敵能力を持つ六人でも、大型魔物から小型魔石を得られるのは一日に二個程度。
買い取り価格は一個大銀貨二枚。
一日二個なら四万円相当。
高校生にとっては大金だが、六人で分ければ一人当たりは小さくなる。往復や解体、危険を考えれば、決して効率のよい狩り場ではない。
「迷宮なら、もっと稼げますか?」
「腕があればな。ただし、死ぬやつも多い」
「街の周辺で魔物が多い場所は?」
「初心者なら東。強いやつを狙うなら北西。ただし、ボアの群れには近づくな」
猪に似た魔物のうち、特に凶暴で殺傷力の高いものを、この街ではボアと呼ぶ。
家畜化された牛型魔物は牛。
森にいる鹿型魔物も、単に鹿。
現地人も、すべてを厳密な種族名で呼んでいるわけではなかった。
巧はその情報も紙へ記録した。
◇
四人が街から戻ると、固定班を解消した新しい活動方式が、すでに動き始めていた。
その中で最も積極的だったのが、魔女と魔法少女の五人である。
木村由香、加藤里紗、小林圭子。
魔女三人。
如月里紗と華沢綾乃。
魔法少女二人。
五人は、回復役として和樹を引き入れ、注意地域へ進出していた。
「どうして俺なんだ?」
和樹が尋ねる。
「ヒールを使えるから」
「聖女でも伊藤さんでもいいだろ」
「聖女は花ちゃんに取られた」
「伊藤さんは今日は農園」
「それに、伊沢君は投的も使えるでしょう?」
女子から伊沢君と呼ばれ、和樹は断れなくなった。
五人は、この数日間、木製の矢を飛ばす訓練を続けている。
木魔法で作った矢を、木魔法の念動力で飛ばす。
一発の威力は弓矢ほど。
射程も、木魔法だけなら長くない。
しかし、風魔法を組み合わせれば話が変わる。
矢の進行方向へ風の道を作る。
空気抵抗と横風の影響を抑え、遠くまで正確に飛ばす。
魔物を発見さえできれば、相手が接近する前に六人で狙い撃ちできる。
最初の獲物は鹿だった。
「距離、百五十メートル」
由香が矢を浮かせる。
「風、通します」
圭子が前方へ細い風の道を作る。
「三、二、一」
五本の矢が飛んだ。
一本は外れた。
二本は胴体へ刺さる。
一本は前脚。
最後の一本が首へ入った。
鹿が跳ねる。
逃げようとしたところへ、次の矢が飛ぶ。
六人が近づいたとき、鹿はすでに地面へ倒れていた。
まだ息はある。
和樹は冒険者セットからナイフを出そうとした。
「待って」
由香が木魔法で、薄い木の刃を作った。
「それで切れるのか?」
「切れるように作りました」
念動力で加速された木の刃が、鹿の首を通過する。
頸が落ちた。
五人は蔓を切り、後ろ脚を縛る。
近くの木へ鹿を吊るす。
血が落ちる。
水魔法で地面と道具を洗い流し、次の獲物を狙う準備をする。
「手際よすぎない?」
和樹は少女たちを見た。
「ぐろい」
「気持ち悪い」
「内臓、見たくない」
「血が靴についた」
口々に嫌そうな声を上げている。
顔をしかめる。
血の臭いを嫌がる。
それでも手は止まらない。
鹿を吊るし、道具を洗い、次に使う矢を数えている。
和樹は、五人の申告したスキルを思い返した。
「精神、持ってないよな……」
「何か言った?」
「いや、何でもない」
精神スキルを持っていないのに、この程度である。
委員長は大きなウサギを前に剣を振れなかった。
犬型魔物へとどめを刺すことにも、今なお苦労している。
和樹は、委員長のメンタルが弱いのではないかという疑惑を、そっと胸の奥へしまった。
本人には、絶対に言わないことにした。
◇
別の変化も起きていた。
最初から木魔法を持っていたのは、五人のうち由香だけだった。
加藤さん、小林さん、如月さん、華沢さんは、それぞれ別の魔法を選択していた。
ところが今は、五人全員が木魔法を使っている。
「いつ覚えたんだ?」
帰路で、和樹が尋ねた。
「昨日」
如月さんが答える。
「木村さんに教えてもらっていたら、使えるようになった」
「木魔法は、後から覚えるのに時間がかかるはずだろ」
「私もそう思っていました」
由香が言う。
「でも、魔力の動かし方と、木へ働きかけるイメージを説明したら、順番に成功しました」
「全員?」
「全員です。まだ矢を浮かせるくらいしかできませんけど」
取得に半年ほどかかると説明されていた技能である。
転移から、まだ三週間も経っていない。
本人たちの魔法適性が高かった可能性はある。
同じ系統の魔法をすでに持っていたことも関係しているかもしれない。
だが、それだけでは説明できないほど早い。
「教師役がいると、習得が早くなるのかもな」
和樹が言った。
「創造主の説明だけを頼りに、一人で試す場合が半年。使える人から直接教われば、もっと短くなる」
「それが本当なら、全員で教え合うべきですね」
由香の目が輝いた。
「水魔法を覚えたい人は、加藤さんから。風魔法なら小林さん。火魔法は私。木魔法も私が教えます」
「待て。一度、拓斗たちに相談しよう」
「どうして?」
「お前たち、何でも試す前提で話してるだろ」
「魔法は試さないと分かりません」
「だから怖いんだよ」
森の拠点には、魔法の教師などいない。
教科書もない。
それぞれが創造主から受けた三十分の説明と、自分の経験しか持っていない。
しかし、一人が覚えた技術をほかの者へ教えられるなら、成長速度は大きく変わる。
この発見は、後にクラス全体の能力を底上げすることになる。
◇
その頃、剛ちゃんは泉の近くで一人、薪を運んでいた。
委員長班が解散し、今日は探索に参加していない。
委員長の近くにいれば、怪我をした瞬間にヒールできる。
しかし、委員長は巧や吉見たちと遠征経路の整備へ出ている。
「俺も行けばよかったかな」
剛ちゃんは誰に聞かせるでもなく、つぶやいた。
水浴び場から、女子たちの笑い声が聞こえる。
男子の利用時間ではない。
近づかないという規則があるため、姿は見えない。
「シャワーと泉は、両立しないと思ってたんだけどな」
泉を作った当初は、男子も大勢利用した。
屋外の水場。
森を見上げながら入る冷たい水。
初日は盛り上がった。
二日目も利用者はいた。
三日目になると、ほとんどの男子が部室棟のシャワーへ戻った。
虫がいる。
水が冷たい。
服を持って百メートル歩くのが面倒。
シャワーの方が早く、身体も洗いやすい。
男子生徒の浪漫は、三日しか続かなかった。
今では、ほとんど女子専用である。
最初は六人ほどだった女子の利用者も、少しずつ増え、今では十人を超えている。
声だけ聞けば、実に楽しそうだった。
「きゃっきゃうふふ、してるなあ」
剛ちゃんは薪を抱えたまま、しみじみと言った。
もちろん見に行かない。
水浴び場を使う女子から信用を失えば、委員長にも嫌われる。
それだけは絶対に避けなければならなかった。
◇
水浴び場では、別の騒ぎが起きていた。
「お嬢。何で水場で全身血だらけになってるのよ!」
花ちゃんの声が響く。
お嬢は、水場の縁へ座っていた。
肌には細かな傷がいくつもでき、水で流された薄い血が足元へ広がっている。
「ビキニに、ソテツの葉で作ったたわしで全身をこすってもらいました」
「どうしてそんなことをしたの!」
「肌を鍛えるためですわ」
ビキニは、手製のたわしを持っていた。
硬い葉を束ねたもので、食器を洗うにしても刺激が強そうに見える。
「こすると皮膚が傷つく。治ると前より強くなる」
「人の肌で試さないで!」
「お嬢がやりたいと言った」
「ビキニの、この肌を見てくださいな」
お嬢は悪びれず、ビキニの腕を示した。
「つやつやでしょう? 少しの打撲では痣一つできませんのよ」
「それは、この人がおかしいだけです!」
「人間、鍛えればどこまでも強くなる」
「普通の人間は限界を超えると怪我をするの!」
「だから聖女にヒールしてもらう」
少し離れた場所で、聖女が困った顔をしていた。
「もう治してよいでしょうか」
「お願いしますわ」
聖女のヒールが、お嬢の細かな傷を塞いでいく。
血は水で洗い流され、肌の傷も消えた。
「どう?」
ビキニが尋ねる。
「少し強くなった気がしますわ」
「気のせいよ!」
花ちゃんは頭を抱えた。
この班を解散させても、問題を起こす者たちは自由に集まってしまう。
固定班には固定班の苦労があった。
任意編成には、任意編成の苦労がある。
◇
街へ向かった大輔を除き、拠点に残っていた智也と雄介は、作業場の一角を占領していた。
二人の前には、紙へ描かれた魔道調理器具の構造図がある。
巧が買ってきた書籍。
大輔が街で書き写した寸法。
簡単なコンロの形をした木製模型。
「魔石をここへ入れる」
雄介が、模型の側面を指す。
「調節器を動かすと、魔石へ流す魔力の量が変わる」
「本当に魔力なのか?」
「説明ではそうなってる。空気量を変えているわけじゃない」
「火力を三段階くらいに固定した方が作りやすいな。弱、中、強」
「最初はそれでいい」
木製部分は、すでに再現できる。
火に近い箇所は、石板か金属で作る必要がある。
鍋を載せる五徳。
魔石を固定する器具。
熱を一方向へ集中させる加工。
問題は、加工済みの魔石がないことだった。
「これなら再現できる」
智也が言った。
「あとは実物を動かして、火力と消耗を確認するだけだ」
「早く魔石、来ないかな」
二人は、狩りに出た班の帰りを待った。
小型魔石は、一個大銀貨二枚。
売れば二万円相当。
照明へ使えば十年。
冷蔵庫なら五年。
コンロなら一年。
売るか。
生活に使うか。
実験で消費するか。
その選択も、これからクラス全体で決めなければならない。
迷宮都市進出の日は、すぐそこまで来ている。




